【書評】「リーマンショックの真実」北野幸伯
2025/09/15公開 更新

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【私の評価】★★★★★(91点)
要約と感想レビュー
アメリカの強さと弱点
先週、アメリカのリーマンショックの本を紹介した影響か、本棚のこの本のタイトルに引きつけられて読んでしまいました。リーマンショックを説明するというよりも、背景にある基軸通貨ドルの没落を警告する一冊です。
アメリカの貿易赤字は、1981年に280憶ドルから、1984年には1500憶ドル、2024年には1兆2000億ドル!に膨れ上がっています。同じように、アメリカの財政赤字も2005年に4270憶ドル赤字から、2025年には1兆8000億ドル!の赤字となっています。
45年以上も巨額の双子の赤字を続けているアメリカは、なぜ破綻しないのでしょうか?
その理由は、ドル投資に魅力があり、ドルがアメリカに還流していること。また、ドルは基軸通貨なので、世界中で流通しているからなのです。
特にドルは基軸通貨であるため、アメリカには対外貿易という概念がありません。なぜなら、石油にしろ、工業製品にしろ、外国の商品はドルで購入できるからです。ドルで買えるので、国内と同じ感覚です。ドルが足りなくなっても、ドルを印刷すれば済むので、アメリカの双子の赤字は問題とならないのです。
こうした背景から、アメリカの戦略は、武力と基軸通貨ドルの強みを活用しつつ、石油・天然ガスを支配することです。ライバルである中国は、民主化し、ドル圏となるのが望ましい。
基軸通貨ドルに抵抗してくる国に対しては、「民主化」の名目で、工作活動または武力によって体制を転覆させます。例えば、イラクのフセイン政権は2000年に石油取引をドルからユーロに転換しました。米国は2003年のイラク戦争後、石油取引をドルに戻したのです。
グリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長(81)が・・2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露(p46)
基軸通貨ドルのライバル出現
アメリカ・ドルの基軸通貨に対抗するために生まれたのは、ヨーロッパのユーロでした。
第二次世界大戦後、ヨーロッパの西半分はアメリカ支配下となり、東半分はロシア(ソ連)の支配下に入ってしまいました。アメリカとロシア(ソ連)との冷戦下では、ロシアの侵略が怖いのでNATOを作り、アメリカの軍事力を使ってヨーロッパの安全を守ることで精いっぱいだったのです。
ところが、1991年「ソ連崩壊」によってヨーロッパ唯一の脅威が消滅します。ヨーロッパは安心して、田舎者のアメリカから覇権を取り戻そう!と決意します。1993年にEU(欧州連合)を結成し、1999年にユーロを導入したのです。
ユーロは、2002年現金流通が開始され、1ユーロは0.89ドルでした。リーマンショックが起こった2008年には1ユーロ1.5ドルを超え、基軸通貨ドルに対しユーロはライバル通貨となったのです。
ユーロ誕生から始まった倒幕(倒米)運動は、中国・ロシア同盟により世界的潮流になっていきまます(p143)
アメリカの戦略ミス
著者の専門のロシアの視点からアメリカを見てみましょう。ロシア人エリートはアメリカを憎み、中国を恐れているという。
中国に対してのロシアの恐怖は、ロシアと国境を接する中国東北三省の人口が1憶2500万人。対するロシアの極東地域の人口はわずか700万人という事実です。侵略戦争ばかりしてきた中国をロシアが恐れないはずはないのです。
アメリカに対しては、冷戦を戦った相手ですし、ソ連崩壊でIMFの言う通りに経済改革を実行したら、ロシア経済はインフレ2600%。アメリカに騙された!と考えて、不思議はありません。
決定的だったのは2003年、ロシア最大の石油生産量を持つユコスをエクソン・モービルとシェブロン・テキサコが、買収しようとしたことです。それを知ったプーチンはアメリカとの対決を決意しました。ユコスのオーナーのホドルコフスキーを横領・脱税で逮捕。ユコス株を差し押さえてしまうのです。
これを見ていたアメリカは、2003年の旧ソ連であるグルジアで、議会選挙は不正だ!と主張する野党勢力に議事堂を占拠、大統領を辞任させ、バラ革命を起させます。2004年に同じような手法でウクライナでオレンジ革命が起きます。ウクライナ戦争の種が、この時に蒔かれたのです。2005年にはキルギスでチューリップ革命が起き、アメリカの傀儡政権が樹立されるのです。
アメリカの戦略としては、ロシアや中央アジアの石油・ガスを支配すること。もし中国が敵対した場合はロシア→中国、中央アジア→中国の石油の流れをカットできるからです。アメリカはロシアがだめなら、旧ソ連のグルジア、ウクライナ、キルギスを支配しようとしたわけです。
ロシア中央銀行は2006年「外貨準備に占めるドルの割合を70%から50%に下げる」と発表しています。プーチンは、アメリカの弱点である基軸通貨ドルへ攻撃を開始したのです。
安倍総理は、主敵は中国であると認識し、ロシアを味方に引き込もうとしていましたが、アメリカはロシアと対立し、ロシアを中国側に接近させてしまいました。戦略的には失敗でした。
2008年には中ロ同盟が結成され、ロシアのプーチン大統領はモスクワで開催中の中ロフォーラムで、ルーブルと人民元による2国間取引を提案するのです。
ロシアはイランの原発利権に関与しています。中国にとって(イランは)原油供給国です。そして、イランの石油利権にかなり入り込んでいるのです(p135)
今は米中覇権戦争時代
アメリカが「最大の敵はロシア、イラン、北朝鮮ではなく、中国である」ことに気づくのは2015年です。AIIB(アジアインフラ投資銀行)は、中国が主導する国際金融機関なので、アメリカは親米諸国にAIIBに参加しないよう要請していました。
ところが2015年、日本を除く、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国などがことごとくAIIBへの参加を決めてしまったのです。
アメリカは主敵が中国であることに気づき、この本では書いていませんが、安倍総理の中国包囲網ドクトリン「自由で開かれたインド太平洋」の重要性に気づいたのです。2018年、トランプ大統領は中国製品への関税を引き上げ、ペンス副大統領の「反中演説」で、「米中覇権戦争時代」が始まりました。
ここまではっきり書かれてしまうと、AIIBへの参加したほうがいい!と主張してきたグループの背後に何があるだろう?と考えてしまいます。
北野さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・歴史は延々と続く「覇権争い」・・覇権国家と候補は常に戦争によってケリをつけています(p75)
・中国は1989年から現在に至るまで、20年間も軍事費を毎年二桁増加させています。それは、いったい何のためでしょうか?(p75)
・アメリカの繁栄を確保できる道・・ドルを強く、安定に保つこと・・ドル還流システムがしっかりし、ドルが強く基軸通貨であれば、借金をいくらしても繁栄を続けられる(p34)
▼引用は、この本からです
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北野幸伯 (著)、ダイレクト出版
【私の評価】★★★★★(91点)
目次
第1章 アメリカのアキレス腱
第2章 資源争奪戦
第3章 米露新冷戦,
第4章 悪の薩長(中国・ロシア)同盟とアメリカの没落
著者経歴
北野 幸伯(きたの よしのり)・・・国際関係アナリスト。モスクワ国際関係大学卒業・政治学修士。「卒業生の半分は外交官、半分はKGBに」と言われるモスクワ国際関係大学を日本人で初めて卒業。その後、カルムイキヤ共和国の大統領顧問に就任。さらに、プーチン大統領の側近と共に会社を立ち上げる。ロシア経済の復活、9.11発生前に、中東戦争の勃発、イラク戦争中にアメリカは次にイランをターゲットにすると予測、ドル体制崩壊とリーマンショックの勃発、リーマンショック前に米中対決時代の到来を予測してきた。
基軸通貨関連書籍
「リーマンショックの真実」北野幸伯
「世界を騙し続けた [詐欺]経済学原論 「通貨発行権」を牛耳る国際銀行家をこうして覆せ」天野 統康
「米中通貨戦争―「ドル覇権国」が勝つのか、「モノ供給大国」が勝つのか」田村 秀男
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