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「遊牧民、はじめました。モンゴル大草原の掟」相馬拓也

2025/01/16公開 更新
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「遊牧民、はじめました。モンゴル大草原の掟」相馬拓也


【私の評価】★★★★★(94点)


要約と感想レビュー


モンゴル人を批判してはいけない

モンゴル人の生き様を知るために、著者は研究を理由にモンゴルの大草原に飛び込みました。地元の言葉や文化を学び、10年間で3000人くらいと会って話をしたという。モンゴルでは、街中でカツアゲされたり、不良少年にカバンを取られたり、国営デパートでいきなり殴られたこともあったという。


また、モンゴル研究者の中では、機材が壊された、執拗に金品の要求を受けた、行政機関に賄賂を要求されたというのは日常茶飯事だというのです。人ごみの中では、スリが横行しています。「スリの手口だけは世界に誇れるモンゴル人」と嫌味で言われているくらいだという。


また、モンゴル人留学生との経験では、横柄でプライドが高いのに、実は分数の計算ができない能力の低さやいい加減さを持ち合わせていたことを紹介しています。それでいて、注意するといじけて、あいさつや言葉も交わさなくなったり、ゴネたり、わめき出したりするというのです。


モンゴル人は・・決して怒ってはいけないし、直接物事を伝えたり、批判してもいけないし、相手のへそを曲げさせてはいけない(p65)

モンゴル人はコミュ障

また、モンゴル人は会話のなかで否定形を一切使わない返答をするという。例えば、日本の大学に行きたいという学生に、「大学はもう決まっているの?」と聞くと、「うん、決まっている」と言うのので、「どこの大学?」などと聞いていくと、具体的な返事がなく、実は「いつかは行く」と何も決まっていなかったりするという。


一般的なモンゴル人の評価は、「息と同じように嘘を吐く」とか、「基本はコミュニケーション障害」と言われているという。著者の理解では、言葉だけでも自らの未来を否定しないのが、モンゴル流の話し方の流儀だというのです。


モンゴル遊牧民の心持ちとは、悲観を前提とした悲壮感に満ちた生なのだ・・言葉だけでも、ネガティブワードを口にしないようにする(p55)

モンゴル人の本質は「他己犠牲」

飛行場では、長い列の先のカウンターで、モンゴル人が大量の荷物を持ち込んで、「超過料金を払いたくない!」とごねて、列が進まないのが普通だという。また、現地調査をしていると、「そのマウンテンパーカーを置いていけ!」などと「お前のモノは、俺のモノ」という要求を普通にされるというのです。


このようにモンゴル遊牧民の本質は、日本人の「自己犠牲」の正反対の「他己犠牲」なのです。そして、自責の発想ではなく「うまくいかないのは、何かのせいだ!」と非自責の発想をするのがモンゴル人なのです。著者の想像では、こうした「他己犠牲」「非自責」の発想は、あまりにも残酷で厳しいモンゴル草原での遊牧生活環境にあるのではないかと推察しています。


ペルシア系住民にとって、モンゴル人とモンゴル文化は「破滅と破壊のなれの果て」の存在として、どうにも受け入れがたい悪評がある(p29)

女性の一日の歩数3万7千歩

遊牧民は、移動式住居ゲルで生活します。今では冬牧場に住居を持つ遊牧民も多く、ゲル暮らしは長くて4月から10月までだという。朝早くからミルクを絞り、家畜を追い、野山でウマを駆り、家畜を屠り、乳製品と乾草の準備に日々を費やすのです。女性の24時間の活動を測定したところ、歩数3万7654歩、移動距離27kmでした。乳製品作り、家畜の見回り・世話・乳絞りで、これだけの重労働になるのです。


食事はほとんどが塩を少々入れた「茹でヒツジ肉」で、地方では毎日この肉を食べます。遊牧民の食肉消費量は「1カ月間に小家畜2頭、一冬にウシかウマ1頭」程度が、最低限の暮らしに必要だという。したがって、所有する家畜の数が、その家族が豊かなのか、貧しいのかはっきり明示しているのです。


夏になれば、ゲルで馬乳酒を作り、牧夫は朝から晩まで、暇さえあれば馬乳酒を飲んでいるという。一家庭で1日で25リットル以上馬乳酒が消費されたデータもあり、飲んでなければやってられないということなのでしょうか。


遊牧民たちの放牧する家畜は「視覚化された預金残高」であり、「生きる食糧庫」だ(p227)

モンゴル人は短気でキレやすい

モンゴルの実態がよくわかる一冊でした。モンゴル人とは、本質的には好戦的で、短気でキレやすい人々だという。そのため、モンゴル人の内輪の揉めごとは、「話し合い」による解決はほとんどなく、些細な誤解が、すぐさま暴力へと発展するケースが多いという。


そのため、モンゴル人は、不和を避けられるだけ避けようとしており、それでもダメなら実力行使、といった大草原の生活習慣がそのまま人間関係に反映しているというのです。どうりで大相撲の朝青龍が暴行したり、日馬富士が同じモンゴル出身の貴ノ岩を殴ったという事件も想定の範囲内というわけです。


ここまで詳細にモンゴル人の文化と特徴を教えてくれる本は、貴重でしょう。厳しい生活環境に耐えなくてはならないモンゴル人への愛を感じました。相馬さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・ウォッカによる飲酒文化は・・ロシア人の持ち込んだ悪習・・普段は比較的温和で、仕事にもひたむきな良い父親という人物などに限って、酒が入ると完全に酒に飲まれてしまう(p41)


・遊牧民は、とにかく話題に飢えているのだ。だからこそ、都市のモンゴル人も、知人や友人の所作や、逆に周囲からの自身の評価が気になって仕方がない(p80)


・モンゴルの移動式天幕「ゲル」は、必ず南向きに扉を向けて建てられる・・一方で、カザフ遊牧民は扉を東に向けて天幕を建てる(p124)


▼引用は、この本からです
「遊牧民、はじめました。モンゴル大草原の掟」相馬拓也
相馬拓也、光文社


【私の評価】★★★★★(94点)


目次


第1章 遊牧民に出会う
第2章 草原世界を生き抜く知恵
第3章 遊牧民にとっての家畜
第4章 野生動物とヒトの理
第5章 ゴビ沙漠の暮らしを追う


著者紹介


相馬拓也(そうま たくや)・・・1977年、東京都生まれ。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)修士課程修了、早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。カッセル大学エコロジー農学部博士課程修了。博士(農学)。カッセル大学エコロジー農学部客員研究員、早稲田大学高等研究所助教、筑波大学人文社会系助教などを経て、現在は京都大学白眉センター特定准教授。専門は人文地理学、生態人類学など。過酷な世界で〝いきもの〟として生存してきた人類と動物の適応戦略を、中央ユーラシアを舞台に研究している。


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