「プーチンはすでに、戦略的には負けている-戦術的勝利が戦略的敗北に変わるとき」北野幸伯
2024/04/30公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
プーチンは裏切り者は許さない
ロシアのウクライナ侵攻は、世界に衝撃を与えました。ロシアのプーチンは何を考え、今後どうなるのか、ロシアの専門家に聞いてみましょう。まず、ロシアのプーチンは自分に逆らう人間は、絶対に許しません。仁義を重んじるヤクザのような考え方なのです。著者は敵を叩き潰すことだけ得意なプーチンを戦術脳であると表現しています。
実際、ロシアから追放された大富豪ベレゾフスキーはロンドンで反プーチン活動を続けていましたが、2013年に死亡しています。反プーチンの政治家ナワリヌイは、毒殺未遂後に逮捕され、結局、刑務所で不振死しています。今も反プーチンのロシア人の不審死が続いているのです。
プーチンは戦術脳・・彼は、目先の敵をぶちのめすこと(戦術)には長けていますが、その後の結果についてあまり考えていない(p4)
2005年にプーチンは反米を決意をした
プーチンが2000年に大統領に就任したとき、ロシアは7人の新興財閥によって支配されていました。プーチンは経済新興財閥の資産を奪い、逆らう人間はロシアから追放しました。ロシア石油会社のユコスのCEOホドルコフスキーは、ユコスをエクソン・モービルに売却しようとしましたが、逮捕され、今はロンドンに移住しています。
そうしたプーチンに対し、西側はロシアの勢力圏で革命を起こしていきます。2003年にグルジアでバラ革命が起き、2004年にはウクライナでオレンジ革命が起きるのです。2005年にはキルギスで野党のデモが起き、アカエフ大統領がロシアに逃亡しています。
著者によれば、プーチンは2005年に中国とともに欧米と戦う決意をしたという。具体的には、2006年の年次教書演説の中で、プーチンは「石油はルーブルで決済されるべき」と発言し、脱米ドルを宣言しているのです。2011年にはシリアで「アラブの春」から内戦状態となり、欧米とロシアによる「代理戦争」状態となりました。アサド大統領は権力を維持しており、欧米勢力にロシアは勝っているのです。また、2014年のロシアのクリミア併合も欧米諸国は対処できなかったのです。
プーチンは戦略的に敗北している
ただ、ロシアはそうした戦術的勝利の代償として、ロシアは国際的に孤立し、経済成長しなくなりました。さらに、ウクライナ侵攻によって、ロシアの軍事力が思ったほど圧倒的ではないことが明らかとなり、ロシアの勢力圏であった中央アジアが中国に接近しています。
2023年には中国で中国・中央アジアサミットが開催され、中国・中央アジア運命共同体を構築することが宣言されました。ロシアとしては許しがたいことですが、中国に文句を言えない状況なのです。著者はそうした状況から、プーチンは戦略的に敗北したと断言しているわけです。
(2014年)クリミア併合。これは、ロシアの見事な「戦術的大勝利」でした・・「戦略的敗北」だったのです・・ロシア経済は以後、ほとんど成長しなくなった(p175)
日本人はプーチンを笑えない
著者は日本への教訓として、目の前の勝利よりも、長期的な利益を重視することを推奨しています。実は日本人は、プーチンのように戦術脳であり、戦略脳が弱いのです。具体例として、幣原喜重郎(著)「外交五十年」の中で、近衛文麿が「フランス領ベトナム(南部仏印)への日本軍侵攻により、アメリカが激怒する」と聞いてびっくりしたというエピソードを紹介しています。
さらに、日本は真珠湾を攻撃し、アメリカとの戦争に踏み切るのですが、当時アメリカは、他国の戦争に巻き込まれるのを嫌っていた(モンロー主義)ので、アメリカから日本を攻撃する可能性はゼロだったのです。著者は「アチソン回顧録」を引用し、日本はオランダ領インドネシアを占領して石油を確保すればよく、真珠湾攻撃は不必要だっただけでなく、愚かな選択であったとしています。
このように真珠湾攻撃を成功させて喜んでいた日本人は、クリミアを簡単に手に入れて喜んで、ウクライナにまで侵攻してしまったプーチンをバカにできないのです。
近衛文麿は、南部仏印への進駐が原因で、アメリカが石油輸出を止めるとは、まったく予想していなかった・・幣原喜重郎「外交五十年」(p30)
戦争に備える時
著者が恐れるのは、習近平が、ウクライナとイスラエルの紛争を見て、今が台湾侵攻のチャンスと考えることです。さらに台湾侵攻に加えて、北朝鮮が連携して韓国に侵攻したら、アメリカは4つの地域で軍事支援することになってしまうのです。
そういう意味で、現在は万が一、日本の近くで紛争が起きたときに対応できるよう準備しておくべき時期なのです。東日本大震災のように、想定していなかったではすまない状況にあるということがわかりました。北野さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・習近平が、「ウクライナ、イスラエルを支援しているアメリカに台湾を支援する力はない。いまが台湾を統一する千載一遇のチャンスだ」と考える可能性がある(p296)
・ロシア中央銀行は2006年6月、「外貨準備に占めるドルの割合をこれまでの70%から50%に下げる」と発表(p131)
【私の評価】★★★★★(90点)
目次
第一章 戦略脳と戦術脳
第二章 プーチン神話の誕生
第三相 プーチン神話の崩壊
第四章 「戦術脳」の悲劇
第五章 日本への教訓
著者経歴
北野幸伯(きたの よしのり)・・・国際関係アナリスト。1970年生まれ。19歳でモスクワに留学。1996年、ロシアの外交官養成機関である「モスクワ国際関係大学」(MGIMO)を、日本人として初めて卒業(政治学修士)。メールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」(RPE)を創刊。アメリカや日本のメディアとは全く異なる視点から発信される情報は、高く評価されている。2018年、日本に帰国。
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