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日本の敗戦の歴史から対中戦略を考える「日本の地政学」北野幸伯

2020/12/24公開 更新
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「日本の地政学」北野幸伯


【私の評価】★★★★★(97点)


要約と感想レビュー

日本包囲網を破壊した安倍首相

なぜ日本は太平洋戦争を戦ったのか、あの戦争はなんだったのか、歴史から何を学ぶのか。これまでアメリカの没落と中国の暴走を予想した著者が、その答えを示します。


これまでの経緯を振り返って見ましょう。中国は2012年からロシア、韓国と協調して日本の領土要求を断念させるため、靖国問題をネタに日本の軍国化プロパガンダを開始し、日本包囲網を作り上げました。安倍首相はその後、ロシアと和解、韓国は放置、アメリカ・オーストラリア・インドとの同盟強化を進めることで日本包囲網を破壊することに成功したのです。一方、仕掛けた側の中国は、AIIB事件や南シナ海問題でアメリカと対立し、2018年には明確に米中覇権戦争がはじまりました。イギリス、フランス、インド、オーストラリアが、反中に動いたのです。


平和ボケの日本人にはわかりませんが、アメリカは常に脅威となる国家ができることを阻止してきた歴史があるのです。ナチス・ドイツと日本が同盟し、ユーラシアの東と西から支配を拡大することを許さない。ユーラシア中央部を支配したソ連が周辺地域に影響力を拡大していくことを許さない。そして今、ロシアと組んだ中国がユーラシアから周辺地域に影響力を拡大していくことを許すはずがないのです。アメリカと中国が戦争状態にあり、西欧諸国が反中国に動いている中で、習近平を国賓として招待しようとしている日本人の昔から変わらないナイーブさを著者は嘆いているのです。


スパイクマンは・・・アメリカの安全を脅かすような強力な国家や同盟が、ユーラシアに登場するのを阻止せよ!」というのです。第2次世界大戦後、ハートランドソ連が、アメリカの安全を脅かす国家になりました・・・現在・・・中国が、アメリカの安全を脅かす国になっています(p112)

戦略思考

著者は第1次世界大戦におけるドイツ帝国とイギリスの関係が、中国と日本の関係に似ていると言います。では100年前の大英帝国イギリスは、どうやってあの強力なドイツ帝国に勝つことができたのでしょうか。100年前、イギリスはそれまで対立していたアメリカ、ロシア、フランスと和解し、日本と同盟関係を結んだのです。イギリスはドイツ帝国包囲網を作ること一点に集中して、それ以外はすべて捨てることで仲間を増やすという戦略に取り組んだのです。


日本を戦争に引きずり込んだセオドア・ルーズベルトを鬼畜と考える人がいます。確かに行動を見るとそうなりますが、アメリカには将来脅威となるであろうドイツと日本を崩壊させる必要性があったのです。脅威となる国を叩いたアメリカが悪いのか、ドイツと同盟してアメリカの脅威になってしまった国が悪いのか。一番悪いのは、そうした地政学を理解せずにドイツと同盟を締結した国ではないのでしょうか。


そして日本はまた、ナチス・ドイツと同じように独裁国家中国と同盟を締結してしまうのでしょうか。中国共産党は、「ウイグル人女性が子供を産めない体にする」「中国人と強制的に同居させる」「強制収容所で洗脳する」ことで、「民族絶滅政策」を実行しています。実際、ウイグル人の人口の自然増加率は2015年の1.6%から2018年には0.26%と大きく減少しているのです。


中国による世界支配を阻止するために著者の提案は、民主主義思想を中国国内に普及させていくことです。もう一つは、中国に軍事的に対抗できるだけの軍事同盟「アジア版NATO」をつくることです。自分を含めて平和ボケの日本人に明確な視点を与えてくれる一冊でした。北野さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・20世紀のアジアは、日本の時代だった・・・マッキンダーは、日露戦争がはじまる前に、「日本が中国、ロシアを征服する」可能性まで考えていたのです(p30)


・日本は、「水の抑止力」に守られているので、「緩衝地帯はすでに存在している」と考えるべきだった・・・朝鮮や中国を支援して、ロシアの南下を止めることは必要・・・韓国を併合したり、満州国を建国したりする必要はなかった・・(p42)


・国家ライフサイクル的に見ると、中国経済は2020年から、「低成長の成熟期」に突入しています(p154)


▼引用は、この本からです
「日本の地政学」北野幸伯
北野 幸伯、扶桑社


【私の評価】★★★★★(97点)


目次

序章 国家の大戦略を示す地政学
第1章 日本の地政学「東洋のイギリス」としての日本
第2章 中国の地政学「東洋のドイツ」としての中国
第3章 勝利の地政学 英独関係からわかる日本の大戦略
第4章 これから世界で起こること
第5章 未来の繁栄のために
終章 目覚めつつある日本



著者経歴

北野 幸伯(きたの よしのり)・・・1970年生まれ。国際アナリスト。ロシア外務省付属モスクワ国際関係大学卒業後、プーチン大統領の元ブレーンとともに日露ビジネスコンサルティング会社IMT設立。1999年からメールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」を発行。イラク戦争、北朝鮮情勢、次はイランなど次々と予測を的中させる。モスクワに28年滞在。2018年、日本に帰国


地政学関係書籍

「日本の地政学」北野幸伯
「正義なき世界を動かす シン地政学」猫組長(菅原潮)
「知らないではすまされない地政学が予測する日本の未来」松本利秋
「不穏なフロンティアの大戦略-辺境をめぐる攻防と地政学的考察」ヤクブ・グリギエル
「学校では教えてくれない地政学の授業」茂木 誠
「大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する!」ジョン・J.ミアシャイマー


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