【書評】日本は外交オンチ「[新版]日本の地政学」北野幸伯
2025/07/15公開 更新

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【私の評価】★★★★★(96点)
要約と感想レビュー
日本は民主同盟の仲介役になれる
2025年7月5日に大津波が起きると予言して、はずれた漫画に笑いましたが、北野さんは20年前からアメリカの没落、中国の増長、ロシアとアメリカの対立を予言し、的中させてきました。北野さんの予言がなぜ当たるのかといえば、歴史と学説を参照しながら、既に起きている事実に照らし合わせて未来を推定しているからです。
北野さんの目には、現在の国際情勢は、2つの同盟が覇権争いをしているということになります。一つは中国,ロシア,北朝鮮,イランの「独裁ランドパワー同盟」です。もう一つはアメリカ、オーストラリア、欧州、日本、インドの「民主シーパワー同盟」です。
現在、アメリカのトランプ大統領はこうした同盟を無視して、すべての国に関税により脅しをかけています。それに対し日本の取るべき施策は、アメリカと欧州の間に立って,「民主シーパワー同盟」の崩壊を食い止める仲介役になることなのです。パンダ貸与を中国にお願いしている場合ではないのです。
日本はアメリカと欧州の間に立って,「民主シーパワー同盟」の崩壊を食い止める・・・「クアッド」(日米豪印戦略対話)を維持し,NATOとの交流を強化,拡大していくことです(p248)
安倍総理はなぜ世界から称賛されたのか
なぜ、「民主シーパワー同盟」が重要なのでしょうか。それは歴史に学べばわかるのです。島国として日本と地政学的に似ているイギリスの戦略を見てみましょう。
20世紀初め,ロシアはイギリスにとって最大の脅威でした。そこでイギリスは日本を支援し、日露戦争でロシアを弱体化させたのです。ところが日露戦争が終わると、今度はイギリスはロシアに接近します。イギリスは「英露協商」を締結し、フランス,ロシアと共に,「ドイツ包囲網」をつくったのです。
今のアメリカのように落ち目のイギリスは,台頭するドイツに対し、日本,アメリカ,ロシア,フランスなどを味方にしたから第一次世界大戦で勝てたのです。
実は、日本包囲網が作られようとしたことがありました。2012年頃、中国は靖国問題を理由に日本の軍国化プロパガンダ工作を開始し、ロシア、韓国と協調して日本包囲網を作ろうとしました。
それに対し安倍総理は、ロシアと和解、韓国は放置、アメリカ・オーストラリア・インドとの同盟強化を進め、逆に中国包囲網を作ることに成功したのです。もちろん、ロシアとアメリカの対立を解消することはできませんでしたが、安倍総理が中国の危険性を世界に知らしめ、中国包囲網を推進したのです。
これはイギリスの外交戦略にも通じる、日本の孤立を防ぐ外交戦略であったと考えられているのです。
今回は,安部総理が慎重に孤立を避け,日米,日露,日韓関係を好転させた(p139)
日本とヒトラーは外交オンチだった
ドイツ人地政学者のハウスホーファーは、「生存圏」という概念を広めました。ヒトラーは生存圏、つまり緩衝地帯を確保するという理由で近隣国に侵攻したのです。ロシアにとって旧ソ連国は緩衝地帯であり、ウクライナに侵攻したのも,緩衝地帯を確保するという理由なのでしょう。
ハウスホーファーはヒトラーに対し,米英のシーパワー連合に勝利するために,ランドパワーのドイツとソ連は同盟するべきと提案していました。しかし、ヒトラーはハウスホーファーを無視して独ソ戦を始め、敗戦することになるのです。
日本もかつて,緩衝地帯の朝鮮半島や満州への影響を確保するために,中国とロシアと戦いました。ところが、同じ島国のイギリスは欧州大陸に進出せず、外から欧州大陸の強すぎる国を弱体化させるというバランサー戦略を取っていたのです。
つまり島国である日本やイギリスは,海に囲まれているの攻撃されにくく、緩衝地帯は不要だったのです。もし、日本がイギリスのように大陸に進出していなければ、アメリカからの圧力もなく太平洋戦争もなかったことでしょう。
「島国は,攻撃されにくい」という長所がある一方,同時に「大陸を攻撃しにくい」という短所がある(p80)
今後の日本への提案
アメリカが弱体化し、大統領がアホのトランプということで、北野さんは近い将来「台湾有事は起こり得る」と予想しています。同時に北朝鮮が「朝鮮半島有事」を起こす可能性もあるというのです。
また、対立し合うアメリカも中国も衰退トレンドにありますが、独裁組織である中国共産党の崩壊によりアメリカが勝つと予想しています。そして、インドが米中覇権戦争の中で中立を維持して利益を得て、世界は多極世界になっていくというのです。
日本はアメリカの衰退分を補う形で防衛費を増やし、弱体化したアメリカは自然とアジアから撤退していくことになります。日本はアメリカと良好な関係を保ちながら,軍事の自立を達成することになります。
日本の将来のためには、人口を増やし,経済を成長させ、軍事の自立を達成しなければなりません。そのためには、経済成長させないように財務省が行ってきた「増税」「緊縮財政」を終わらせることだと北野さんは主張するのです。
予言は当たるのでしょうか。北野さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・北朝鮮は崩壊せずに持ちこたえています。これは,北朝鮮を「緩衝国家」と見なすロシアと中国が,密かに金正恩体制を支え続けているからです(p22)
・(ロシアの)ドゥーギン氏は復旦大学での一連の講義でロシアと中国は連帯して「多極的な世界秩序」を構築し,アメリカによる覇権を終わらせなければならないと論じた(p50)
・中国の高官たちは,「日本に沖縄の領有権はない」と宣言しています(p100)
・中国共産党政権は,「ウイグル人女性を子供が産めない体にする」ことで,「民族絶滅計画」を実行している(p112)
▼引用は、この本からです
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北野幸伯 (著)、扶桑社
【私の評価】★★★★★(96点)
目次
はじめに 国家の大戦略を示す地政学
第1章 ロシアの地政学―緩衝地帯をめぐる争い
第2章 日本の地政学―「東洋のイギリス」としての日本
第3章 中国の地政学―「東洋のドイツ」としての中国
第4章 勝利の地政学―英独関係から分かる日本の大戦略
第5章 これから世界で起こること
第6章 未来の繁栄のために
おわりに 日本復活前夜
著者経歴
北野 幸伯(きたの よしのり)・・・国際関係アナリスト。1970年生まれ。ロシアの外交官とFSB(元KGB)を養成するロシア外務省付属モスクワ国際関係大学卒業(日本人初)。ロシア・カルムイキヤ自治共和国大統領顧問、モスクワ滞在28年を経て帰国。99年メールマガジン「RPE(ロシア政治経済ジャーナル)」を発刊。現在、購読者59,669人。
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