【書評】「新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか」 川北 省吾
2026/06/18公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
民主主義の拡大とロシアの反発
この本は共同通信社が「レコンキスタの時代」というタイトルで配信したインタビュー記事を書籍化したものです。
現在、プーチン大統領と習近平国家主席、トランプ大統領は、失地回復(レコンキスタ)を宣言し、強権を振りかざしているように見えます。ソ連の崩壊とともに全体主義が後退し、世界は民主化していくものと誰もが信じていたのに、なぜこうなってしまったのでしょうか。
この本ではまず、ソ連の崩壊により唯一の超大国となったアメリカに、自由と民主主義のために武力も辞さない「ネオコンサバティズム(ネオコン=新保守主義)」が生まれたと説明しています。
マレーシアのマハティール元首相は、ネオコンが主導したイラク侵攻について「サダム・フセインを追放し民主主義体制への転換を目指していた。もはやそれは、主権国家征服の試みに等しい」と批判していたといいます。
また、NATOの東方拡大、具体的にはジョージア(グルジア)とウクライナの加盟検討などがロシアのプーチンを刺激し、クリミア併合、ウクライナ侵攻へとつながります。当時のドイツ首相アンゲラ・メルケルが両国のNATO加盟に反対した理由は「ロシアへの宣戦布告に等しいと考えた」からだったと言っていたという。
ロシアは約束を反故にし、クリミアを併合する・・・ブレマー(米国債政治学者)は言う・・これが「Gゼロ」世界だ。国際秩序を形作っている条約や規範を公然と破り、(国家による)むき出しの暴力が横行する(p38)
アメリカの没落と白人労働者階級の怨念
一方、唯一の超大国であったアメリカでは、貿易自由化が進むにつれて海外の安い輸入品が大量に流れ込み、国内の工場は閉鎖され、自動車産業は斜陽化し、「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」と呼ばれる地域が生まれました。
グローバル化によって移民に仕事を奪われたり、国内産業が消滅したりすることで、白人労働者階級が没落し、「アメリカの夢」が失われていったといいます。
実際、45〜54歳のアメリカ人のうち、中南米系の死亡率は下がっているのに対し、白人の死亡率は上昇しているというデータも紹介されています。
こうした行き過ぎた自由貿易や移民拡大によって「負け組」となったと感じる白人労働者階級の不満が、ドナルド・トランプを支持する大きな力になったという元CIA工作員の主張を紹介しています。
黒人も、中南米系も、アジア系も議員連盟をつくり、自分たちの利益拡大を図っているのに、白人が議連結成に動いたら、たちまち「人種差別主義」と非難を浴びる(サミュエル・ジャレッド・テイラー)(p192)
中国の台頭
中国の習近平総書記は「中華民族の偉大な復興」を宣言しています。その定義は明確ではありませんが、南シナ海や台湾を自国の領土・領海であると主張している点は明確です。
オバマ大統領は2013年、化学兵器を使用したシリアのアサド政権への武力攻撃を見送り、「アメリカは世界の警察官ではない」と演説しました。その3か月後、中国は南シナ海の埋め立てを開始するのです。
2016年には国際仲裁裁判所が、南シナ海の領有権を主張する中国の訴えを全面的に退けましたが、中国側はこの判決を「紙くず」として無視しました。
中国は世界第2位の経済大国となり、インドもイギリスを抜いて第5位になっています。アメリカを含めた従来の先進国だけが世界をリードする時代は、すでに終わりつつあるのです。
歴史の一時期、日本は中国を師と仰ぎ、貢ぎ物を献上する朝貢国だった・・・ところが、その国が近代化に成功し、19世紀末の日清戦争で勝利した。20世紀に入ると、中国東北部に「満州国」という傀儡国家を作った。「「弟子」に敗れた悔しさが自尊心を傷つけ、対日感情を複雑にした」と 汪錚(ワンジョン)(米国大学教授)は語る(p143)
世界を一つの市場と見るリベラルの破綻
国務長官のマルコ・ルビオは議会証言で、自由貿易の推進によってアメリカの国内産業が海外に移転し、中間層が縮小して産業基盤が崩壊したと述べています。また、移民の増大はアメリカだけでなく世界中で社会と政府を脅かしているとも証言しています。
この本では、移民問題をめぐる各国の問題を多角的に紹介しています。
ウクライナ人の国際政治学者は、ロシアが移民を利用して西側社会を弱体化させようとしたと指摘し、歴史家アーサー・シュレジンガー・ジュニアは、異なる言語・宗教・民族が同一の政治的主権の下で生活することの難しさを論じています。ドイツの政治勢力AfDの次世代リーダーは、移民の多い地域で犯罪率が上昇していると主張しています。
この本では、なぜ世界が「力こそ正義」という時代に戻りつつあるのか考察するとしたものですが、私はもともと世界は「力こそ正義」だったのだと考えています。経済で国益を得られないのであれば武力を使うというのは、以前から変わらない国際社会のルールなのです。
なお、著者は共同通信記者らしく理想を追い求めるリベラル推しのようなので、インタビューもどの部分を引用しているのかわかりません。若干「角度」がついているかもしれないと思いながら読みました。
川北さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・「白人の責務」というのは、イギリスの作家ラドヤード・キプリングが19世紀末に発表した詩のタイトルである。この詩は、アメリカとフィリピンが戦った米比戦争を背景に書かれた。「白人の責務を果たせ」という一節で始まり、フィリピンを支配することこそ、「白人の責務」と促している(p129)
・アメリカの情報機関を束ねる国家情報長官室は・・・トランプの対抗馬だった元国務長官の民主党候補ヒラリー・クリントンの信用を貶めるため、プーチンが工作を指示したとした。それにより、トランプが当選する可能性を高めようとしたと判断した(p249)
・アメリカはロシアに制裁を科し、グローバルサウスにも加わるよう求めたが、新興・途上国は背を向けた。彼らはロシアのエネルギーに頼っている。「関わりたくない」というのが言い分だった(地政学リスク分析会社「ユーラシア・グループ」会長クリフ・カプチャン)(p171)
▼引用は、この本からです

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川北 省吾 (著)、講談社
【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
プロローグ 「警察官」の退却
第1章 覇者の驕り―「無敵」から「Gゼロ」へ
第2章 「格差」の超大国―アメリカを蝕む病
第3章 リバンチズムー「大ロシア」再興の野望
第4章 百年国恥 ー中華民族の偉大な復興
第5章 「南」の逆襲ーBRICSの論理と心理
第6章 白人の焦燥ー「人種置換」の世界観
第7章 SNSと情報工作ー民主主義の新たな脅威
第8章 「警察官」の犯罪―時代遅れの戦後秩序
第9章 逆流する歴史―よみがえる伝統主義
エピローグ 「19世紀」へ向かう歴史
著者経歴
川北省吾(かわきた しょうご)・・・1963年、神戸市生まれ。国際ジャーナリスト。慶応義塾大学卒。共同通信社に入社。ブリュッセル特派員、ジュネーブ臨時特派員、イラク移動特派員、ニューヨーク特派員(国連担当)、ワシントン特派員などを経て編集委員兼論説委員共同通信社 編集委員
戦時化する世界関連書籍
「新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか」 川北 省吾
「第三次世界大戦はもう始まっている」エマニュエル・トッド
「ハイブリッド戦争―揺れる国際秩序」志田 淳二郎
「黒化する世界 民主主義は生き残れるのか?」北野幸伯
「世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道」中野剛志
「ロシア・中国・北朝鮮が攻めてくる日」福山 隆, 宮本 一路
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