「第三次世界大戦はもう始まっている」エマニュエル・トッド
2022/11/10公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(80点)
要約と感想レビュー
ロシアにとってウクライナは死活問題
ソ連崩壊、トランプ勝利、英国EUの離脱を予言したフランスの歴史経済学者トッドさんは、ウクライナ戦争をどう見るのでしょうか。まず、ウクライナ戦争の背景ですが、西側にはロシアを西側に組み入れようとする勢力と、軍事的にロシアを包囲しようとする勢力がありました。ロシアを西側に組み入れようとする勢力は、ロシアからガスを購入したり、安倍首相のようにロシアと友好関係を深めようとしたのです。
一方、ロシアを包囲しようとする勢力は、ウクライナで暴力によるクーデターを起こしてウクライナのNATO入りを進めました。これでプーチンの堪忍袋の緒が切れてしまったのです。ロシアにとってウクライナは、アメリカにとってのキューバであったのですが、NATOはそれを理解していなかったのです。アメリカとイギリスは侵攻を事前に察知していましたが、ドイツとフランスは「まだ交渉は可能だ」と最後まで考えていたのですから、ウクライナのNATO加盟がロシアにとっていかに「死活問題」なのか、認識していなかったのは事実なのでしょう。
・2008年4月のブカレストでのNATO首脳会議で、「ジョージアとウクライナを将来的にNATOに組み込む」ことが宣言されました(p21)
ウクライナ戦争はロシアとアメリカとの代理戦争
トッドさんの説明を聞いていると、安倍首相が目指したロシアとの融和による中国包囲網の形成は、筋がよかったとわかります。もしもNATOが東方拡大を目指さなければ、もしもプーチンがウクライナのNATO入りを許容すれば、中国包囲網は完成したかもしれないのです。
ニクソンとキッシンジャーは、ソ連に対抗するために中国と協力しましたが、今のNATOはロシアと中国を一体化させようとしているかのようにさえ見えるます。トッドさんも、なぜ西側の人々がロシアを嫌うのか理解できないと言っています。
トッドさんはアメリカとイギリスが、ウクライナを事実上のNATOとして軍事訓練を行っていたことから、ウクライナ戦争は、ロシアとアメリカとの代理戦争である、としています。ロシアから見れば、ウクライナ戦争はアメリカとの戦争であり、どのような手段を用いても、負けられない戦いになってしまっているのです。
・ウクライナの背後でこの戦争を主導しているのは、アメリカとイギリスです(p204)
日本の核武装を提案
トッドさんが警告するのは、今回のウクライナ戦争によって、本来、戦争に歯止めをかける核兵器が、むしろ核兵器を保有することで戦争を優位に戦えるということが、国際的に共有されてしまったことです。これを見て、中国が同じように核兵器で威圧しながら、台湾侵攻を行う可能性があるということです。日本は防衛力強化をしなくてはならないし、日本の核武装をトッドさんは提案しています。
フランス人らしい感情を廃した冷徹な分析だと思いました。フランスは電力のほとんどを原子力発電で供給しているし、核兵器も持っています。唯一の被爆国として日本の立場もわかるけれども、あえて核武装を提案するところがトッドさんらしいということなのでしょう。トッドさん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・「ウクライナの中立化」という当初からのロシアの要請を西側が受け入れていれば、容易に避けることができた戦争でした(p188)
・2014年のいわゆる「ユーロマイダン革命」、プーチンに言わせれば「ヤヌコビッチ政権を違法な手法で倒したクーデタ」(p41)
・この戦争が、ウクライナの人々に「国として生きる意味」を見出させたと言えるかもしれません。実に悲しいことです(p53)
・日本は核を持つべきだと私は考えます・・・「同盟」から抜け出し、真の「自律」を得るための手段なのです(p85)
【私の評価】★★★★☆(80点)
目次
1 第三次世界大戦はもう始まっている
2 「ウクライナ問題」をつくったのはロシアではなくEUだ
3 「ロシア恐怖症」は米国の衰退の現れだ
4 「ウクライナ戦争」の人類学
著者経歴
エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)・・・1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析、ソ連崩壊やリーマン・ショック、イギリスのEU離脱などを予見したことで広く知られる。
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