「ヒトの目、驚異の進化」マーク・チャンギージー
2022/11/09公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
人間の視覚について興味があったので、手にした一冊です。人間の目にはS(青)、M(緑)、L(赤)という3色のセンサー(錐状体(すいじょうたい))がついています。この3色センサーは光の波長でいうとS(青)は440ナノメートルに反応するのに対し、M(緑)、L(赤)は540ナノメートルと560ナノメートルと非常に接近しています。
なぜ、人間の目が540と560ナノメートルというほぼ同じ波長を見極められるように進化したのかといえば、肌から透けて見える血液の酸素飽和度を読み取るためではないか、というのです。つまり人間は、相手が落ち着いているのか、それとも呼吸が早くなり興奮した状態なのか、肌の色の変化で見分ける能力を獲得したのではないかという仮説が成り立つのです。だから人間は、相手の顔色が変わると、すぐに気づくことができてしまうのです。
・なぜ私たちと一握りの霊長類の仲間だけには、むき出しの部分があるのか?・・・色によるシグナル発信のためにあるということかもしれない(p65)
後半はなぜ、人間の目は前向きに2つ並んでいるのか、馬は横向きの目を持っているのか、ということを考察しています。人間のように前向きの目を持っていると、ものを立体的に認知し、仮に目の前に草のような障害物があっても、小さな隙間から透視するように見ることができます。
その一方で横向きの目を持っている動物はものを立体的に認知することはできませんが、前後左右の周囲ほどんどを視野に入れることができるのです。したがって、人間のように前向きに目が並んでいる動物は森のような障害物が多い場所での生活で進化した。横向きの目を持っている動物は、平原やサバンナなど開けた環境で進化したという仮説が成り立つのです。
・私たち霊長類は、森で生活するように選択されてきた・・私たちは前向きの目を持っている(p153)
新型コロナの治療で活躍している拍動酸素飽和度計(パルスオキシメーター)は日本の生体工学者の青木卓雄氏が、その原理を発見したことを知ってびっくりしました。
また、男性の一割知覚が色覚異常なのに、女性の色覚異常は0.5%に満たないという。どうりで私の父も色弱で、信号の色が見にくいと言っていましたが、男性なら確率的に色覚異常があったとしてもおかしくないのです。そして女性が色覚が優れているのは、ちょっとした男性の嘘も見逃さないという女性の必要性があるのかもしれません。恐ろしい能力です。
ちょっとした差を見分けることができる人間の不思議な能力だと再認識しました。チャンギージーさん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・人間の脳の半分は視知覚(視野による知覚)に必要な計算を行うために特化している(p29)
・自分の肌が、ほかの人種ととても違うように知覚するけれど・・違う人種の肌の色のスペクトルはとてもよく似ている(p52)
・女性は・・・通常の色覚には錐状体(すいじょうたい)は三種類で十分であるにもかかわらず、四種類持っている人がいる(p76)
・私たちは、標準的な基準からの変化を知覚するようにデザインされている。だから、ふだんは自分の唾液の味も、鼻の匂いも、肌の熱も、ことさら知覚しない(p47)
・私たちは37度という温度は、熱くも冷たくも感じないのに、38度だと熱いと感じる(p51)
【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
第1章 感情を読むテレパシーの力―カラフルな色覚を進化させた理由
第2章 透視する力―目が横ではなく、前についている理由
第3章 未来を予見する力―目の錯覚が起きる理由
第4章 霊読(スピリット・リーディング)する力―ヒトが文字をうまく処理できる理由
著者経歴
マーク・チャンギージー(Mark Changizi)・・・理論神経科学者。1997年メリーランド大学大学院博士課程修了。博士(応用数学)。カリフォルニア工科大学の理論神経生物学特別研究員、レンスラー工科大学認知科学部准教授を経て、現在、認知・知覚の基礎研究を行なう研究所2AI Labsのディレクターを務める。また、「VINO OPTICS」「ヒューマンファクトリー・ラボ」を立ち上げ、脳や認知に関わる技術開発に取り組んでいる。カリフォルニア工科大学教授、下條信輔との共同研究によっても知られる。
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