【書評】「ドーキンス博士が教える「世界の秘密」」リチャード・ドーキンス
2025/07/17公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(88点)
要約と感想レビュー
物質は空っぽの空間
大ヒット作「利己的な遺伝子」で有名なドーキンス博士の一冊です。理系の思考を、文系の人にもわかりやすいように図解する本です。理系の私にとって当たり前のことを切り口鋭く解説していて感嘆しました。
例えば、宇宙のイメージは、太陽をサッカーボールと仮定して、25メートル離れたところにあるコショウの実が地球と表現しています。太陽から一番近い恒星であるケンタウルス座プロキシマ星は、太陽であるサッカーボールから6500キロメートルも離れたところにあるのです。これは遠い!
一方、物質を作る原子のイメージは、例えばダイヤモンドを構成する炭素原子の核をサッカーボールとすると、隣のサッカーボールは15キロメートル以上離れたところにあります。これも遠すぎる!
原子の周りを動く電子は、蚊よりもはるかに小さく、サッカーボールから数キロメートルも離れているのです。つまり、ダイヤモンドは原子の視点で見ると、宇宙のように、ほぼ空っぽの空間なのです。
固体は原子と原子の位置関係が謎の力で固定されており、空っぽの空間なのに他の物質は透過することができません。ところが温度が上がって気体になると、原子が自由に動き回ることができる状態となのるのです。
サッカーボール・・それが太陽だ・・次にボールから25メートル離れたところまで歩き、コショウの実を落とそう。それが地球の大きさと太陽からの距離を表す(p125)
生物の進化の不思議
進化生物学者であるドーキンス博士の専門である遺伝については、ガラパゴスの3種のイグアナが、わずか2000~3000年で進化して離れていったことを紹介しています。数千年でこれだけ進化するのですから、何億年という時間が過ぎると、同じ祖先から、ゴキブリとワニに分化してもおかしくないのです。
同じように考えれば、自分の父母、祖父母、曾祖父母と世代を遡っていくと、25万世代前(600万年前)はチンパンジーみたいで、1億7000万世代前(3億年前)はトカゲに似ていると説明できるのです。
このように進化はゆっくりと進みますが、長期間かけた分化と自然淘汰によって、生物は生き延びるための技を持っているように見えるという。例えば、クモやアリジゴクは巧妙なわなを身につけているように見えますが、進化と自然淘汰によって、そうした行動を自然にできるように、脳が進化していると理解できるのです。
カワイルカはソナーを使うのがとくにうまい・・・カモノハシはくちばしに電気センサーを備えていて、獲物の筋肉の動きによって生じる水中の電気的な乱れを拾う(p202)
嘘やデマへの仮説検証の方法
私が興味深く読んだのは、意図的な嘘・デマへのドーキンス博士の対応方法です。
世の中にはマジシャンのように、意図的に嘘をつく人がいます。時には、自分が本当に「超能力」をもっているふりをする奇術師もいます。死者と交信できると主張して、悲しみみ暮れている人につけ込むペテン師もいるのです。
ペテン師とは違いますが、「地震の夢を見たら、本当に地震が起きた!」といった種類のデマもあります。ドーキンス博士は、それは偶然である。奇妙な偶然が起きただけだと断じるのです。
例えば、日本では年に数回大きな地震が起きています。そして、毎晩1億人が夢を見ます。そうしたとき、目が覚めて夢に出てきた地震が、実際に起こった!と思う人が、たまにはいることは確率的にありえるのです。そういう話を出版社の人が、売上のために漫画として出版してしまうのです。
ドーキンス博士のそうしたデマへの対応方法は「その話が嘘である」という仮説が、そのデマよりありそうもない場合にのみ、あなたはデマを信じてもよいかもしれないというものです。
例えば、2011年の東日本大震災を予言した人が、7月5日に大地震が起きると主張してるとしましょう。彼が7月5日の地震の夢を見たのは事実だが、2011年の地震の予言が当たったのは偶然であったという反対の仮説を立てるのです。
すると、地震は基本的に予知は不可能ですので、2011年の地震の夢を見たのは偶然と考える仮説ほうがありえそうです。したがって、デマは信じないというのが、ドーキンス博士の考え方なのです。
デマ・・マイケル・ジャクソンの幽霊が出没する!・・一番ありそうな説明は、本当にそのとおりだということ。つまり偶然以外の何ものでもない。重要なポイントは奇妙な偶然が起きたときだけであることだ(p251)
ロジックで考えよう
理系の人というのは、ロジックで考える人だと思いました。
例えば、DNAを発見したワトソン氏とクリック氏は、DNAを直接観察することは技術的にできませんでした。そこで、DNAの二重らせんモデルを作り、X線を照射するとどんな測定値が得られるか計算しました。そのうえで、DNAの結晶にX線を照射して測定した値と、計算値がぴったり一致したので、DNAの構造が証明できたのです。
このように、わからないことでも考え方によって検証できることはあるはずなのです。そして世の中にはわからないことが、たくさんあります。私達を騙そうという人たちもいます。そうした事象をロジックで仮説検証していくと、より聡明になれるのでしょう。
ドーキンス博士、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・人間が実際に見ることができる光・・は「最高音」のガンマ線から「最低音」の電波まで広がる長大なスペクトルのうち、真ん中のほんの狭い帯域にすぎない(p159)
・蒸気機関を動かしているのは、何百万年も前に植物によって集められ、地価の石炭に蓄えられていた日光であるのに対し、川の水車を動かすのは、ほんの数週間前に降り注ぎ、山頂の水というかたちで蓄えられていた日光であるという点だ(p139)
・なぜこんなにも多くの異なる言語があるのか・・・・別の方言が何世紀にもわたって離れていくと、いつかは相当ちがうものになり、ある地域の人は別の地域の人の話を理解できなくなる(p63)
▼引用は、この本からです
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リチャード・ドーキンス(著)、早川書房
【私の評価】★★★★☆(88点)
目次
何が現実で、何がマジックなのか?
最初の人間は誰だったのだろう?
なぜ、こんなにいろんな動物がいるのだろう?
ものは何でできているのだろう?
なぜ夜と昼があり、冬と夏があるのだろう?
太陽って何だろう?
虹って何だろう?
すべてはいつ、どうやって始まったのだろう?
いるのは私たちだけなのか?
地震とは何だろう?
なぜ悪いことは起こるのだろう?
奇跡とは何だろう?
著者経歴
リチャード・ドーキンス (Richard Dawkins) 1941年ナイロビ生まれ。オックスフォード大学にてノーベル賞学者ニコ・ティンバーゲンのもとで学ぶ。その後、カリフォルニア大学バークレー校を経てオックスフォード大学レクチャラー。動物行動研究グループのリーダーの一人として活躍。2008年まで「科学的精神普及のための寄付講座」初代教授をつとめた。王立協会フェロー、王立文学協会フェロー。著書の『利己的な遺伝子』で名を学界の外にまで知らしめる。反宗教の姿勢を明確に打ち出した『神は妄想である』は世界的ベストセラーとなった。
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