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「傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学」夏井睦

2024/08/23公開 更新
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「傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学」夏井睦


【私の評価】★★★★☆(89点)


要約と感想レビュー

傷や火傷の湿潤療法とは

2009年、15年前の本ですが、著者はこの本を出版するさらに10年前に「傷は消毒してカーゼを当てる」という治療が根拠のない間違いであることを発見していました。


現在では傷や火傷の治療は、湿潤療法が一般的となっています。つまり、傷を水で洗浄して、血や汚れを拭き取り、消毒せずにプライモイスト、ハイドロコロイドなどの被覆材で傷を乾かさないように カバーするのです。極端に言えば、水で洗浄してサランラップで傷をカバーしてもよいのです。


なお、コンビニで売っているキズパッドの説明書には「最大5日間、貼ったままでよい」などと書かれてありますが、汗や滲出液が貯まると汗もになる可能性があるので、一日一度は貼り替えた方がいいという。


筆者はおよそ10年前、この「傷は消毒してカーゼを当てる」という治療が、科学的根拠のない単なる風習に過ぎないことに気がついた(p4)

湿潤療法の確立の経緯

著者が「傷は消毒してカーゼを当てる」治療法に疑問を感じたのは、外科と形成外科で傷への考え方が違っていたからです。外科では抜糸をするまで傷は濡らさないようにしていたのに、形成外科では手術の翌日から消毒薬を入れた水道水で傷を洗っていました。


また、アメリカの褥瘡(床ずれ)治療の教科書「ドレッシング」に、床ずれを被覆材でカバーして湿潤環境の維持による治療が推奨されていました。著者は消毒薬には組織障害性があるという論文も読んでいたので、傷の消毒を止めて、傷を被覆材で覆う湿潤療法を試しはじめたのです。


すると傷口は痛くならないだけでなく、火傷でさえ自然治癒していったという画期的な治療法とわかったのです。


皮膚の細胞を乾燥状態に置くとすぐに死滅する・・・逆に傷を乾かさないようにすれば・・傷の表面は新たに増えた皮膚細胞で覆われ、皮膚が再生することになる(p26)

アトピー性皮膚炎への適用

当初は湿潤療法には反発があり、消毒をしない治療ということ自体が受け入れられなかったという。20年以上経って、消毒とガーゼを使わない湿潤療法がやっと一般的になってきたのです。


アトピー性皮膚炎や湿疹も皮膚の傷と同じように、湿潤療法が適用可能だという。アトピー性皮膚炎の場合には、白色ワセリンを塗布して、滲出液が多い部位はプラスモイストで覆うとよいという。


傷は消毒しないで湿潤状態で保つという画期的な治療法の発見の経緯のわかる一冊でした。敬意を表して星4つとします。夏井さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・熱傷治療に使用されている軟膏は・・治療効果がないだけでなく、熱傷を悪化させる(p178)


・透明な消毒薬(マキロンなど)・・クロルヘキシジンという薬剤で・・強烈なアレルギー反応が起き、呼吸停止をきたすことがある・・日本国内の報告例だけで40例を超える(p78)


・切れ痔は化膿しないと書いたが、なぜ化膿しないのかというと、切れ痔には感染源となる「溜まって澱んだ液体」がないからだ(p112)


・感染を予防する唯一の手段は、感染源となる血腫や縫合糸を残さないようにするか、血腫などが確認されたら速やかに除去するしかない(p119)


▼引用は、この本からです
「傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学」夏井睦
夏井睦、光文社


【私の評価】★★★★☆(89点)


目次

第1章 なぜ「消毒せず、乾かさない」と傷が治るのか
第2章 傷の正しい治し方
第3章 ケガをしたら何科に行く?
第4章 私が湿潤治療をするようになったわけ――偶然の産物
第5章 消毒薬とは何か
第6章 人はなぜ傷を消毒し、乾かすようになったのか
第7章 「化膿する」とはどういうことか
第8章 病院でのケガの治療--ちょっと怖い話
第9章 医学はパラダイムの集合体だ
第10章 皮膚と傷と細菌の絶妙な関係
第11章 生物進化の過程から皮膚の力を見直すと脳は皮膚から作られた!?



著者経歴

夏井睦(なつい まこと)・・・1957年秋田県生まれ。東北大学医学部卒業。日本形成外科学会認定医。石岡第一病院傷の治療センター長。2001年、消毒とガーゼによる治療撲滅をかかげて、インターネットサイト「新しい創傷治療」を開設。趣味はピアノ演奏。


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