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【書評】騙されないために「データを正しく見るための数学的思考」ジョーダン・エレンバーグ

2025/07/23公開 更新
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「データを正しく見るための数学的思考」ジョーダン・エレンバーグ


【私の評価】★★★★☆(82点)


要約と感想レビュー


戦闘機の装甲問題

数学科の大学教授が、一般社会の出来事を数学的に解説する一冊です。最初に紹介される事例は、戦争中の戦闘機の装甲を増やすという有名な問題です。


交戦から戻ってきた機体をチェックすると弾痕は胴体に多く、エンジン部分に弾痕はわずかでした。どこの装甲を強化すべきでしょうか?という問いです。答えは、「エンジン部分の装甲を強化する」です。エンジン部分に弾痕のある機体は、ほとんどが墜落して帰還できなかった。帰還したのは胴体部分に被弾した機体ばかりであったというわけです。


著者は、これは呪術師のお告げと同じだとしています。つまり、お告げが当たらなかったものは隠され、当たったものだけが公表され、お告げの神秘性が統計学的に有意に見せるというわけです。


交戦から戻ってくると、機体は弾痕で覆われていた・・胴体のほうが弾痕が多く、エンジンにはあまり当たっていなかった・・部分の装甲を正確にはどれほど増やせばいいのだろう(p15)

投資ファンドの売り方

面白いのは、証券会社の投資ファンドの売り方も機体の弾痕と同じことであり、「詐欺」と表現していることでしょう。


つまり、証券会社は投資ファンドを設定すると、しばらく社内で運用して、高い利回りをあげたものだけを公開するというのです。利回りが低い投資ファンドは、それが存在したことさえ知られることはないのです。


私たちは証券会社から過去3年間の利回りのよい投資ファンドを勧められますが、3年生き残ったファンドの利回りだけで判断することは、帰還した飛行機にある弾痕を数えて判断するようなものなのです。


こうした証券会社の詐欺がうまくいくのは、本当のデータを示して、顧客が間違った結論を引き出すようにしているからだ、と著者は断言するのです。


著者のアドバイスは、バフェットと同じで手数料の安いインデックスファンドを買って、後は忘れてしまうことなのです。


(バスケットボールで)連続して5回シュートを決めるのはよくあることだ・・・次も決める可能性がとくに上がると予想する理由はない・・・5年連続して市場を上回ったファンドは、優秀であるよりは運が良かった可能性のほうがずっと高い(p197)

統計学的有意は作られる

統計の知識がないとわかりにくいところですが、統計学では有意性の判定という手法があります。そして、有意かそうでないかを分ける境界線は、伝統としては、p=0.05、つまり1/20という値が使われています。


例えば、「薬Aががんに効果がある」ことの有意性を証明するには、薬Aとニセ薬で余命データを集めます。薬Aで平均余命2年、ニセ薬で平均余命1年であったとしましょう。仮に薬Aに効果がないとした場合、今回の結果のような差が生じる確率が5%である場合、p値=0.05となるのです。


この20回やって1回できるかできないかという境界線は微妙で、操作できるというのが著者の主張です。


一例として、がんの実験結果の中から53件を再現実験したら、再現できたのは6件だけだった事例を紹介しています。科学者は、「論文を発表せよ、さもないと身の破滅だ」とプレッシャーを受けているので、統計的に有意なデータを集めてしまうこともあるわけです。


フィッシャーの検定でp値が0.05未満になって合格とされる結果を、「統計学的に有意」ではなく、「統計学的に認識可能」あるいは「統計学的に検出可能」と言っておけばよかったのに(p183)

大数の法則

わかりやすいところでは、「大数の法則」でしょう。実験を何度も繰り返すと実験結果が一定の値に落ち着くというものです。


例えば、ホームランダービー参加選手は、シーズン前半の成績が良かったから選出されます。ホームランにばらつきがあるとすれば、本来の成績に回帰すると考えられるので、後半に打席が増えるにつれてホームラン数が、普通のペースに戻ってしまう可能性が高いのです。


極端に言えば、最初の10打席でホームランダービーに出る選手を選ぶことは、間違った結果になりやすいというのは、直感的にわかってもらえるのではないでしょうか。


厚い本で苦労しました。多くの人は最後までたどり着かないでしょう。エレンバーグさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・宝くじ・・古い諺では、宝くじは「愚か者に対する税金」と言われる(p294)


・すべての曲線は直線ではない・・・線形回帰は・・すべての点のあいだを通り、最も近くにできる直線を求める(p81)


・ノーベル経済学賞受賞者ジョージ・スティグラーは、「飛行機に乗りそこねることが全然ないと、空港で過ごす時間が多くなりすぎる」と言っていた(p351)


▼引用は、この本からです
「データを正しく見るための数学的思考」ジョーダン・エレンバーグ
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ジョーダン・エレンバーグ(著)、日経BP


【私の評価】★★★★☆(82点)


目次


第1部 線形性
 第1章 スウェーデンらしくなくなる
 第2章 局所的には直線、全体的には曲線
 第3章 みんな肥満
 第4章 アメリカ人に換算すると死者何人?
 第5章 皿よりも大きいパイ
第2部 推論
 第6章 ボルチモアの証券業者と聖書暗号
 第7章 死んだ魚は心を読まない
 第8章 帰稀法
 第9章 国際腸卜ジャーナル
 第10章 神様、いらっしゃるんですか? 私です、ベイズ推定です。
第3部 期待値
 第11章 宝くじに当たることを期待しているときに何が期待できるか
 第12章 もっと多くの飛行機に乗りそこねよ
 第13章 線路が出会うところ
第4部 回帰
 第14章 平凡の勝利
 第15章 ゴルトンの楕円
 第16章 肺がんは喫煙の原因なのか
第5部 現実
 第17章 世論なるものはない
 第18章 「私は何もないところから奇妙な新しい宇宙を創造してしまった」
 エピローグ――正しくする方法


著者経歴


エレンバーグ,ジョーダン(Ellenberg Jordan)・・・ウィスコンシン大学マディソン校数学科教授。ハーヴァード大学、ジョン・ホプキンス大学、プリンストン大学准教授を経て現職。専門は整数論、代数幾何。ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、ワシントン・ポスト、ボストン・グローブ、ワイアードなどのコラムに投稿。Slateのコラム連載「Do the math」を持つ。1987年から1989年にかけて、国際数学五輪に米国代表として3回参加し、金メダル2個、銀メダル1個を受賞した


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