「患者よ、医者から逃げろ その手術、本当に必要ですか?」夏井 睦
2024/08/08公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
熱傷の標準治療は激痛をもたらす
私はテニス中に転んで、ヒザを擦りむきました。昔は傷にはマキロンでしたが、今は水で洗い流して傷あてパッドが普通らしい。私も2、3日毎にパッドを交換しているうちに治りました。この本では、火傷(熱傷)についても同じような消毒不要の湿潤療法を行うことで、痛みも少なく、感染も起こさないという。実はこれは画期的なことらしいのです。
日本の熱傷としては軟膏による消毒と、ガーゼで覆う治療が厚生労働省に認可され、熱傷診断ガイドラインでも推奨されています。ところが、この軟膏は塗ると激しく痛く、さらにカーゼも交換するときに激痛を患者に与えるのです。著者も熱傷の標準治療中に、苦痛で悲鳴を上げる患者を見てきたという。
なぜ熱傷が痛いかといえば、表皮細胞が空気と接することで乾燥し破壊され、激痛によって緊急事態であることを脳に伝えるのです。著者は火傷の痛みをなくすためには、被覆材で空気を遮断する必要があると考えたのです。
カーゼを剥がした部分からは血が滲みだし、傷は昨日より深くなっているように見える。これが毎日続くのが大学病院などでの熱傷治療だ(p110)
熱傷の湿潤療法は被覆するだけ
著者の開発した熱傷の湿潤療法は、次のとおりです。
・傷口は水道水で洗うだけ。
・消毒、洗剤での洗浄は、細胞を破壊するので厳禁。
・軽い火傷は、湿潤状態で固着しない被覆材で被覆。
・水疱膜は除去して、スイコウパッドなどの浸出液を吸収する被覆材で被覆。
・被覆材は原則的に毎日交換し、その際には水道水で軽く洗浄する。
著者の試行錯誤段階では、ワセリンを塗布した穴あきポリ袋で熱傷を覆い、その上を紙オムツで覆っていましたが、高吸水性の被覆材をメーカーと開発してしまったという。湿潤療法を学会で発表すると、ラップは皮膚科の密封療法で広く使われていたにもかかわらず、皮膚科医から「治療材料でないラップで治療するのはケシカラン!」と意味不明の非難をされたこともあるという。
著者の治療では、消毒のための軟膏やクリームなどの塗り薬は不要です。熱傷治療で使用されている外用薬には、著者が自分の肌で実験したら、フィブラストスプレー(科研製薬)、アクトシン軟膏(マルホ)、ゲーベンクリーム(田辺三菱製薬)など猛烈に痛い薬があり、やはり不要なのです。
救いようがないのは、激痛をもたらす治療材料も外用薬も、厚生労働省に認可されたものであり、学会の熱傷診断ガイドラインで使用が推奨されている点にある(p108)
深い熱傷には植皮が必要は嘘
さらに救いようがないのは、熱傷治療の教科書に、「2週間で治らない熱傷は、保存的治療では上皮化せず、植皮しないと治らない」と、書いてあることです。植皮すると、ブラックジャックの顔のようにパッチワークのように植皮した部分が目立ってしまいます。さらに、皮膚移植した部分に運動障害が出るだけでなく、皮を採取した部分にも傷跡が残るのです。
著者の主張は、2週間で治らない熱傷でも湿潤療法で治るということです。実際、左右の腕を熱傷した人が、片方の腕を植皮したら運動障害が残り、反対の腕はラップとワセリンで治療したら、傷が治って障害もなかったという。
現在でも熱傷を植皮で治療する医者がいなくならないのは、無知であるか、治療費が25万から40万円と高額で、湿潤療法に変えると儲けがなくなってしまうのが理由ではないかと著者は示唆しています。
熱傷の教科書に「2週間で治らない熱傷は軟膏治療しても治らないので皮膚移植で治さないといけない」と書かれている(p147)
熱傷の標準治療は進歩していない
著者は知り合いの形成外科医に、広範囲熱傷でも外来通院で治療できると話したところ、急に激高した経験を紹介しています。熱傷をすりむき傷と同等としたことが、熱傷治療をライフワークとする形成外科医の逆鱗に触れたのです。本人は真剣に患者のためと思っているだけに、根は深いということなのでしょう。
患者の立場としては、いろいろな病院でセカンドオピニオンを聞いてみるしかないと、感じました。
この本では同じような事例として、骨髄炎を口実に、切断しなくていい足が切断されている実態を紹介しています。糖尿病性壊疽で、感染せずに改善していたのに、転院先の整形外科医が、「糖尿病性壊疽はすぐに切断しないと骨髄炎で死ぬ」と大騒ぎして、数日後に下腿(かたい)切断が行われたというのです。詳細がわかりませんので、医者の友人に聞いてみたいと思います。
専門的な内容でしたので、もう少し調べてみたいと思います。なお、広島原爆のテレビ番組を見ていたら、熱傷の患者はガーゼで患部を巻かれていました。その頃から、熱傷の標準治療はあまり進歩していないということなのです。夏井さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・10年ほど前からだろうか、熱傷治療業界では「傷を石鹸(ボディソープ)で洗って患者を痛めつける」という拷問が流行している(p116)
・治療が原因で起こる痛み・・原因は治療材料と外用薬だ(p107)
・骨髄炎を口実に、切断しなくていい足が切断されている(p242)
【私の評価】★★★★★(90点)
目次
第1章 熱傷湿潤治療の夜明け、そして"なつい式湿潤療法"へ
第2章 標準的熱傷治療の問題点
第3章 湿潤療法の実際
著者経歴
夏井睦(なつい まこと)・・・1957年秋田県生まれ。「なついキズとやけどのクリニック」(東京都江東区)院長。東北大学医学部卒業。東北大学医学部附属病院を経て、相澤病院、石岡第一病院、練馬光が丘病院で「傷の治療センター」長。2001年、消毒とガーゼによる治療撲滅をかかげ、インターネットサイト「新しい創傷治療」を開設。湿潤療法の創始者として、また糖質セイゲニストとして発信を続けている。
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