「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」鹿島 茂
2018/07/30公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(83点)
要約と感想レビュー
ソ連崩壊、アラブの春、イギリスのEU離脱、トランプ大統領の誕生を予言したエマニュエル・トッドとは、何者なのでしょうか。彼はフランス人であり、世界の国々の家族制度や人口動態から政治や社会を分析する歴史・文化・人口の研究者です。
例えば、女性の識字率が50%を超えると出産調節が始まり、出生率が下がるというデータがあります。また、若年層人口の膨張し、15歳から29歳までの男性の人口に占める割合が30%を超えると、戦争や革命が起きるというデータがあるのです。
トッドは1976年に、1971年以降のソ連の乳児死亡率が上昇していることからソ連の崩壊を予言しました。ソ連は独裁者がいると安定する国ですが、一度おかしくなると分裂する傾向にあり、トッドにとっては当然の結論だったのです。その10年後、ソ連は崩壊していくのです。
・ソ連(ロシア)は権威主義的な父親(=独裁者)と大勢の息子たちの家族(=国民)が同居する社会、共同体家族国家です・・・いったんバランスが崩れると、解体へと向かいます(p62)
また、1999年以降、アメリカでは白人中年の死亡率が上っていることから、自由貿易と移民の増加により白人労働者の仕事がなく、追い詰められていると分析しています。トランプはそうした不満を解消することで、大統領になることができたのです。
トッドの予言が当たるのは、その国家の家族制度の傾向を把握し、人口や調査結果の数字に基づき相関を調査しているからでしょう。
例えば、イギリスの産業革命以降の覇権については、スコットランドとイングランドとの連合が大きな意味を持っていたと分析しています。つまり、イギリスは子供の早期独立を促す絶対核家族であり、冒険には強いが、教育が疎かになりがちである。ところが1707年に長男の嫁を中心に知識の蓄積、継承が行われる直系家族のスコットランドと連合を組んだことで、弱点を補い合い、イギリスの覇権を後押ししたと説明できるのです。
・イングランドの絶対核家族・・北米大陸への移住・・親は子に、早い時期から独立を促します・・知恵や経験が受け継がれることも多くはありません。。早期の独立をすすめる親は、教育という手間暇、費用のかかるものに熱心になることはありません(p43)
長男が家を引き継いでいく直系家族の国は、ドイツ、オーストリア、スウェーデン、ノルウェイ、日本、韓国などです。長男は家を引き継ぎますので、次男、三男が歴史を作っていくという。日本は出生率が下がり、次男・三男が少ないので新しいことに挑戦する勢力が減っていくと分析できるのです。
エマニュエル・トッドについては、さらに調査していきます。鹿島さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・直系家族社会には、排除された次男・三男という余剰人材がいます。彼らが傭兵部隊や修道院ではなく、工場労働者などとして働き出すことによって、資本主義のベースが敷かれます。そして、彼らは、資本主義の冒険精神も取り込んで、ついには、リスクテイク必定の市場経済を狙っていくことになるのです(p124)
・絶対核家族の「冒険」精神は、短いスパンの勝負、リスクテイクには向いています。しかし、長い目で見ると、直系家族の「知」に圧倒されてしまいます。直系家族は、知の蓄積をエネルギー源にして、遠く長く走り続けられるわけです(p135)
・日本全域が直系家族的かといえば・・・北東日本はほぼ直系家族ですが、西南日本には起源的核家族の変種が数多くあります。こちらは一人の跡取りにはこだわりませんし、また教育熱心でもありません。そのため少子化の傾向を免れているのです(p217)
・核家族においては、教育不熱心で、学歴が高くならないという定理があります。したがって、収入も低くなってしまいます。親元を早く独立してしまうと、みな好き勝手にアルバイトをして、学校には行かなくなり、安い労働者として使われて、そのまま年金もないまま老齢化する可能性が高いのです・・そうした人たちが集まる大都市が大阪です(p225)
・新選組はまた、隊長の近藤勇には権威を、副長の土方歳三には権力を、という二重権力構造を特長としていましたが、これもまた直系家族そのものといえる特長でした。直系家族の権威主義は、組織の維持には最も適していたのです(p160)
・私にいわせれば、日本会議とは右翼でもなんでもなく、その主張は、ただ直系家族の復活、これ一点です(p213)
・習近平が独裁体制を強めていることは、外婚制共同体家族の社会の原理から行くと「正しい」ことなのです・・もっともっと強烈な独裁者にならなければいけない、ということにさえなる。民主化などもってのほかなのです(p180)
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【私の評価】★★★★☆(83点)
目次
序章 人類史のルール
第1章 トッドに未来予測を可能にする家族システムという概念
第2章 国家の行く末を決める「識字率」
第3章 世界史の謎
第4章 日本史の謎
第5章 二一世紀 世界と日本の深層
第6章 これからの時代を生き抜く方法
著者経歴
鹿島 茂(かしま しげる)・・・ 1949年生。仏文学者。明治大学教授。専門は19世紀フランス文学。『職業別パリ風俗』で読売文学賞評論・伝記賞を受賞するなど数多くの受賞歴がある。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMAimages STUDIO」を開設。
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