【書評】「世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道」中野剛志
2026/02/27公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(88点)
要約と感想レビュー
グローバリゼーションの終焉
米国の「リベラル」が目指したグローバリゼーションは、2022年のウクライナ侵攻で終わったと主張する一冊です。
米国の「リベラル」とは、民主主義や貿易の自由により、平和で安定したグローバルな世界が現実するという考え方です。国境をなくし移民を推進し、広い自由経済圏を作るという米国民主党の考え方といってよいでしょう。
グローバリゼーションの流れの中で、東欧諸国がEUに加入し、NATOが東方に拡大しました。それに対してロシアが反発したことが、ウクライナ戦争につながったのです。
また、東欧諸国がEUに加入したことで、東欧から低賃金の移民が流入し、イギリスの賃金を押し下げや、雇用の悪化がイギリスのEU離脱につながりました。
さらには、自由貿易で豊かになれば、いずれは民主化するとグローバリストが考えていた中国もアメリカに対抗して軍事力を増やし、台湾は自分のものだと主張を続けているのです。
つまり、平和を基本としたグローバリゼーションは過去のものとなり、各国が自分の国のことばかり考える戦争の時代になったと著者は主張するのです。
台湾有事のリスクは、ウクライナ戦争とも連動している・・・中国はウクライナ戦争を見て、アメリカは核を保有する大国との戦争は避け、介入するとしてもせいぜい経済制裁と武器供与ぐらいだと確信しただろう(p33)
戦争の時代には戦時経済
著者は国際社会が戦争の時代になった今、日本は戦時経済体制に移行するべきだと主張しています。戦時経済で重要なのは、自衛力、エネルギー、原材料、食料の確保です。
ところが、民主党政権の日本は福島第一原発の事故により、原子力発電をすべて停止してしまいました。原子力が停止し、電力供給が脆弱になっているのに「電力システム改革」として電力市場の自由化を行い、稼働率の低い火力発電所を廃止。
さらには、菅直人首相が退陣の条件として太陽光発電や風力発電など、不安定で高額な再生可能エネルギーを大量導入してしまったのです。世界は戦争の時代に向かっているのに、日本は電力を高コストかつ不安定化させる誤った政策を実施し続けてきたということです。この認識については賛成です。
電気事業に詳しいなと思ったら、著者は現役の経済産業省の幹部ではないですか。電力システム改革を推進したのは、経済産業省なのですが、省内にもいろいろな意見があるのですね。
電力システム改革・・・福島第一原発の事故により、原子力発電の稼働が停止し、電力の安定供給が著しく脆弱になったタイミング・・その結果、・・稼働率が低く採算のとれない火力発電設備は廃止され・・・太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーによる発電の普及は、電力の安定供給をより損なう(p44)
低金利でも積極財政でインフレ抑制
戦時経済体制では、自衛力を強化し、エネルギーの多様化と備蓄の増強、食糧自給率を上げていく必要があります。財務省は「その財源はどうするのか?」と増税を主張するでしょう。
著者は財政支出には増税による財源確保が必要であるという考え方には反対で、財政支出すればそれは国民の所得になり、税として返ってくるポスト・ケインズの考え方を正としています。
ポスト・ケインズ派の考え方は、現在のコストプッシュ・インフレに対しては、金融引き締めで国民を苦しめ需要を減らすのではなく、積極財政で供給を増やすことでインフレ対策とするのです。
つまり、日銀の金利を上げ、増税しようと主張する財務省とは正反対。ポスト・ケインズ派の考え方は、高市首相と同じということです。
コストプッシュ・インフレ・・金融政策に関しては、低金利を維持すべきであって、コストプッシュ・インフレに対して利上げをもって応じるような過ちを犯してはならない(p199)
国家は侵略されたら消滅する
経済学については、専門ではないので判断しません。ただ、著者の主張は、高市首相の「責任ある積極財政」と同じように見えました。
著者が主張するのは、国家は財政破綻しても消滅しないが、侵略されたら消滅するということです。確かに著者の言う通り、グローバリゼーションが終了し、戦争の時代となったら、緊縮財政、脱炭素などと言っている状況ではないのでしょう。
現在は戦時経済だという主張は、フォローしていきます。中野さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・財務省、健全財政論者の政治家あるいは主流派経済学者たちは、防衛費の増加にあたって、財政確保の必要性を唱え、増税の可能性にすら言及している。安全保障上の危機がそこまで差し迫っているというのに、ありもしない財政危機の方をより恐れている(p209)
・あらかじめ徴税による財源の確保を必要としない。その反対に、政府の支出が、徴税よりも先になされなければならない。政府の支出によって民間部門に貨幣が供給され、それが課税によって徴収されるという順序なのである(p145)
・図表4-5「主要31か国の財政支出の伸び率とGDP成長率の相関関係(1997-2017)」が示す通り、そもそも、日本は大規模なバラマキを行うどころか、世界に冠たる緊縮財政国家であったのだ。そして、この間、デフレの状態が続いていたのも、日本だけである(p160)
・(アメリカの)利上げが、失業を増やし、格差をさらに拡大させる。疎外された労働者層や低所得者層の怒りや恨みは増殖するであろう・・・アメリカの国力は著しく低下し、国際社会におけるプレゼンスも大きく後退することになる(p184)
▼引用は、この本からです

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中野剛志 (著)、幻冬舎
【私の評価】★★★★☆(88点)
目次
はじめに 物価高騰が示す世界の歴史的変化
第1章 グローバリゼーションの終焉
第2章 二つのインフレーション
第3章 よみがえったスタグフレーション
第4章 インフレの経済学
第5章 恒久戦時経済
おわりに 悲観的積極主義
著者経歴
中野剛志(なかの たけし)・・・1971年、神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、1996年、通商産業省に入省。2000年、エディンバラ大学に官費留学し政治思想を専攻。帰国後、資源エネルギー庁資源・燃料部政策課長補佐。2004年経済産業省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課長補佐に就任。2010年、京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻藤井聡研究室に退職出向。経済産業研究所コンサルティングフェローを兼任。2012年京都大学を退官し経済産業省に復帰。NEDOに出向し、構総務企画部主幹、ロボット・機械システム部主幹、戦略的イノベーション創造プログラム『革新的設計生産技術』推進委員会オブザーバー。2014年、特許庁総務部総務課制度審議室長に就任。2017年、経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課長。2020年、経済産業省大臣官房参事官(グローバル産業担当)に就任。2021年、経済産業省 商務情報政策局 消費・流通政策課長 兼 物流企画室長に就任。2024年、経済産業省 商務情報政策局 参事官(商務・サービスグループ担当)に就任。
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