【書評】「どうする財源 貨幣論で読み解く税と財政の仕組み」中野 剛志
2026/04/24公開 更新
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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
防衛増税は本当に正しいのか
日本はGDP比1%から2%への防衛費増額を決定しました。年間にして約5兆円。この財源をどう調達するか?本書はその一点に問いを絞り、財務省の主流的な主張に反論する、現役経済産業省幹部による論考です。
財務省は増税による財源確保を主張しています。財務省OBや、財務省に異を唱えにくい金融機関のアナリスト、さらにはマスコミも、その主張に追随しているように見えます。
しかし著者・中野剛志氏の結論は、防衛費の財源は増税ではなく、国債発行によって賄うべきである、というものなのです。この主張は海外の財政論、貨幣の本質、資本主義の構造、歴史の教訓から導いた結論なのです。
防衛費の財源をどうやって確保するべきかを論じていきます(p6)
「財政破綻する」という主張への反論
財務省が国債増発に反対する根拠の一つは、「国債を発行すれば将来世代に負担を強いるだけでなく、金利が上昇すれば財政が破綻する」というものです。2021年には当時の矢野財務事務次官が文藝春秋に「日本の財政は破綻に向かっている」と題した論文を発表しました。
しかし著者は、この主張を自国通貨建ての日本国債のデフォルトはありえないのは常識であり、格付けに影響がなかったのも当然と批判しています。
そのことは財務省自身がかつて公式に認めていたのです。2002年、海外の格付け会社が日本国債の格付けを引き下げた際、財務省は格付け会社に対して公開質問状を送付しています。
その内容は「先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとしてどのような事態を想定しているのか」というものでした。
つまり財務省は、かつて自ら「自国通貨建て国債はデフォルトしない」と主張していたのです。万一、国債金利が上昇したとしても、日本銀行が国債を買い入れれば金利は抑制できるのです。
金融関係者にとっては当然の常識を現役の財務事務次官が公の場で否定することは、その背景に、何らかの意図があるということなのでしょう。
日本国債を一斉に売りに出されたら、金利が暴騰して大変なことになる・・・日本国債売りで金利が上昇するのが困るのであれば、日銀が買えばいいでしょう。それだけの話です(p129)
「インフレになる」という主張への反論
財務省側が持ち出すもう一つの論拠が、「国債を財源に財政出動すればインフレが加速する」という主張です。足元の物価上昇を根拠に、金融引き締めや増税を訴える識者も少なくないのです。
しかし著者は、現在のインフレは、食料やエネルギーの国際価格高騰を起点とするコストプッシュ・インフレであり、需要が過熱して価格が上がっているのではなく、供給側のコストが上昇して価格が押し上げられている構造と解説するのです。
このタイプのインフレに対して金融を引き締めれば、消費が冷え込み物価は一時的に落ち着くかもしれません。しかし同時に、デフレから脱却しかけていた日本経済が再びデフレへ逆戻りし、最悪の場合は恐慌に至るリスクがあるのです。
著者が歴史的な根拠として挙げるのが、1930年代の昭和恐慌だです。不況下で緊縮財政を断行したことが、昭和恐慌の引き金になったのです。
著者の主張するコストプッシュ・インフレへの正しい対処は、財政出動によって供給能力そのものを強化する投資を行うことです。エネルギーが高騰しているなら、エネルギー供給を増やす投資を。食料価格が上がっているなら、食料の国内生産力を高める投資を行なうべきなのです。
健全財政論者は・・政府による資金供給を無意味に制限することで、コストプッシュ・インフレ対策に必要な供給能力の強化のための投資までをも妨げている(p157)
日本だけが世界の常識から外れている
著者の主張を力強く後押しするのは、世界の主流経済学者たちの見解です。
元米国財務長官のサマーズは2014年の日本の消費増税を「間違いだ」と事前に警告していました。クルーグマン、ターナー、ブランシャールといった著名な経済学者も、一貫してデフレ下での積極的な財政出動を支持し、日本の消費増税に反対していたのです。
つまり財務省の主張こそが、先進国の中で際立って異質なのです。
象徴的なのが「60年償還ルール」です。日本は新規発行した国債を60年以内に完全に償還するよう義務付けており、その結果、一般会計歳出の17.5%が国債償還費に充てられています。
しかし日本以外の先進国には、こうした償還期限を定めるルールは存在しません。国債は借り換えを繰り返せばよく、完済する必要はないからです。日本の「60年償還ルール」は、財政の国債費の負担を人為的に大きく見せる異質な会計操作に見えるのです。
さらに著者は、財政法が国債発行を原則禁止している背景も説明しています。つまり、財政法のこの規定は戦後占領期に、日本に再軍備をさせないことを目的として盛り込まれたものであり、起案者である大蔵省法規課長の平井平治自身がその意図を認めているのです。
日本国憲法が一度も改正されていないように、財政法もまた戦後の制約のまま放置されてきたのです。
日本政府は、新規に発行した国債は60年で完全に償還するという「60年償還ルール」を定めています・・・一般会計歳出のうち、国債償還費は17.5%・・日本以外の先進国では、このように償還の期限を定めるルールはありません(p207)
緊縮財政が戦争の遠因になったという逆説
著者の皮肉が一番効いているのは、「戦争放棄のために緊縮財政を強要された」はずの日本が、歴史的には緊縮財政こそが戦争の遠因になったという歴史の逆説です。
1929年、浜口雄幸内閣の井上準之助蔵相は金解禁と緊縮財政を断行しました。結果は昭和恐慌。疲弊した中間層が過激な労働運動や右翼的な政治運動へと流れ込み、それが日本の軍国主義化を加速させたと、著者は解説するのです。
経済産業省の現役幹部が実名で執筆したこの本は、本質的には財務省への公開質問状なのでしょう。
なぜ財務省はデフレ下で消費増税を断行したのか。なぜ1997年から2017年の20年間、財政支出をほとんど増やさなかったのか。なぜ今もなお、財源を増税にのみ求め続けるのか。これらの問いに対し、財務省は合理的な回答を示していないのです。
かつて財務省自らが主張した「自国通貨建て国債はデフォルトしない」という論理を隠して、財政破綻の危機を煽り続けていること。
世界の主流経済学が日本の財政政策を誤りと断じ、歴史が緊縮財政の危険性を説明しているにもかかわらず、「財源、財源」と増税ばかり主張すること。
もし財務省主計局に在職したことのある人と会う機会があれば、質問してみたいものです。
中野さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・税とは、政府支出の財源を確保するための手段ではなく、その反対に、政府支出の財源(貨幣)を消滅させるための手段だ(p77)
・防衛財源の確保のための増税・・・民間部門で生まれた貨幣は、民間企業に需要があるから創造されたものです・・・それを政府が奪い取って、防衛財源に充てると、その分だけ、民間企業は必要な事業を行なうことができなくなります(p123)
・炭素税は、二酸化炭素の排出を抑制し、たばこ税は喫煙を抑制します。では、消費税は、何を抑制するのでしょうか。言うまでもなく、「消費」です・・・日本は消費が低迷し、経済は成長しなくなっていた(p119)
・政府の財政支出を制約しているのは,ヒトやモノといった実物資源の利用可能量・・・カネは信用創造機能によって「無から」生み出せますが、ヒトやモノは「無から」生み出せません(p94)
▼引用は、この本からです

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中野 剛志 (著)、祥伝社
【私の評価】★★★★★(90点)
目次
はじめに 「財源」とは何か
序 章 防衛財源を巡る様々な見解
第一章 貨幣とは、何だろうか
第二章 資本主義の仕組み
第三章 資本主義と国家財政
第四章 資本主義における経済政策
第五章 「国民の負担」とは何か
第六章 インフレの問題
第七章 金利の問題
第八章 矢野論文の衝撃
第九章 自己制裁
第十章 歴史の教訓
おわりに 最後の問題
著者経歴
中野剛志(なかの たけし)・・・1971年、神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、1996年、通商産業省に入省。2000年、エディンバラ大学に官費留学し政治思想を専攻。帰国後、資源エネルギー庁資源・燃料部政策課長補佐。2004年経済産業省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課長補佐に就任。2010年、京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻藤井聡研究室に退職出向。経済産業研究所コンサルティングフェローを兼任。2012年京都大学を退官し経済産業省に復帰。NEDOに出向し、構総務企画部主幹、ロボット・機械システム部主幹、戦略的イノベーション創造プログラム『革新的設計生産技術』推進委員会オブザーバー。2014年、特許庁総務部総務課制度審議室長に就任。2017年、経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課長。2020年、経済産業省大臣官房参事官(グローバル産業担当)に就任。2021年、経済産業省 商務情報政策局 消費・流通政策課長 兼 物流企画室長に就任。2024年、経済産業省 商務情報政策局 参事官(商務・サービスグループ担当)に就任。
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