【書評】「世界秩序が変わるとき世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ」齋藤 ジン
2026/05/19公開 更新
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【私の評価】★★★★★(91点)
要約と感想レビュー
投資コンサルが解説する世界の構造変化
アメリカの投資コンサル会社を共同経営し、ヘッジファンドを含む機関投資家に経済政策分析を提供している著者の最初で最後の一冊です。(多分)本書の特徴は、著者が過去に顧客に提供した予測が的中していく過程を、根拠とともに示している点にあります。
1995年の円安予想、2012年のアベノミクスによる円安・株高・デフレ終了予想、2021年の米中対立の不可避性と日本復活の予想。これらは机上の分析ではなく、実際の投資判断の参考とされ、機関投資家に莫大な利益を与えることになったのです。
数兆円の金を動かす投資の世界で生き残ってきた自信と自慢の表明なのでしょう。
ヘッジファンドのオーナーが助言を求める外部の人間は、その案件毎にほんの数人です・・・その内の一人にならない限り、話は聞いてもらえません(p85)
1995年に円安を予想した根拠
著者が最初に成果を出したのは、1995年です。世界的なヘッジファンド「タイガー・ファンド」のジュリアン・ロバートソン氏が著者の円安進行のレポートを参考に、巨額の円売りを実行したのです。
当時、日本では住宅金融専門会社(住専)の不良債権問題が持ち上がり、7,000億円の公的資金をめぐって国会が紛糾していました。著者は日本が戦後一度も金融機関をデフォルトさせたことがないがゆえに、処理・救済のシステムが存在しないと気づくのです。
この直感を裏書きするように、山一證券が破綻し、日本の金融危機が表面化します。
アメリカのサマーズ財務副長官が市場原理に基づく銀行破綻処理を迫りながら、いざ危機が起きると「金融危機を世界に波及させるな」と発言したという記述は、当時アメリカは日本の経済を破綻させようとしていたことがわかります。
1995年秋・・・「お前はさらに円安が続くって言っているんだな?」「イエス」・・・数時間後、ジュリアンが巨額の円売りを実行したことを聞きました(p4)
2012年にアベノミクスの本質を見抜く
著者はアベノミクス以前の日銀の金融政策を「BISビュー」(金融政策の目的は物価安定に限定し、介入は最小限に抑えるべきという立場)であったと説明しています。
そして、リーマンショック後にFRBのバーナンキ議長が積極的な金融緩和を推進(フェドビュー)するなかで、日本だけがBISビューに固執したことが過度な円高・株安を招いたと分析しています。
つまり、リーマンショックの直前、2008年に日銀総裁になった白川総裁は、世界の経済学から学んでいなかったため、日本だけが金融緩和を行わない状況から、強烈な円高と株安に誘導され、日本経済を低迷させたというわけです。
安倍総理がノーベル経済学賞を受賞したピール・クルーグマンやジョセフ・スティグリッツを招いていたのは、フェドビューのアベノミクスが世界標準だと宣言するものであり、「BISビュー」に固執する守旧派への当てつけだったという。
アベノミクスにより、金融緩和が行われれば、円高・株安・デフレは反転すると著者は顧客にレポートしていました。日本ではアベノミクスを見て、三井住友銀行の高橋精一郎副頭取が主導して、円安・株高を想定した運用を行って大きな運用益を得たという。
世界中が「フェドビュー」世界観を追及する中、日本だけ「「ビスビュー」世界観で金融政策を運営していたので、負けるべくして負けている(p110)
2021年に米中対立継続と日本復活を予想
著者が2021年の顧客向けレポートで米中対立の不可避性を書いたとき、「中国に対して厳しすぎる」という反応が多かったといいます。しかしその後、アメリカのロビイング会社の多くが、中国からの依頼を引き受けなくなるくらい、米中の分断が進んでいるというのです。
米中対立の根拠として著者が示すのが、GDPの相対比率という歴史的なパターンです。日本のGDPがアメリカの50%に近づいた時期に、アメリカは日本製品に懲罰的な関税を課しました。中国のGDPがアメリカの50%に近づいた2012年、オバマ政権は「東アジアへの回帰」を発表するのです。アメリカが1990年代、日本経済を壊滅させたように、今度は、中国経済を潰そうとしているのです。
中国を潰すためにもアメリカは「強い日本」を必要としており、冷戦期にソ連封じ込めのために日本を利用した構図と本質的に同じなのです。結果して、米中対立は地政学的な追い風であり、「日本復活の大チャンス」と著者は解釈しているのです。
アメリカの衰退の方が中国よりも深刻だと考える識者もいます。中国も「時は中国の味方だ」と考えている節があります。中国のような統制国家から見ると、トランプ大統領誕生や国民の分断は国家の衰退に映るのは当然にことなのです。
しかし著者はそれはアメリカの柔軟性であり、変化に対応できる強みだと判断しているのです。
アメリカは一度ある国を自らの覇権を脅かす国として認識すると、相手が潰れるまで、決してその手を緩めることはない、それが私のアメリカ観です(p178)
中国の台湾侵攻リスク
著者のシナリオどおりとすれば、アメリカは日本やオーストラリア、欧州やインドを巻き込み、中国・ロシア包囲網を続け、中ロが徐々に衰退するのを待つのでしょう。
中国国家統計局は、2023年に若者(16~24歳)の失業率が21.3%と発表し、それ以降年齢別の失業率の公表を停止しました。問題は中国の大卒者はおよそ1000万人で、毎年200万人の失業者が出ているという事実です。
米中対立で中国経済がさらに弱まり、若者の不満を逸らすためには、台湾侵攻という選択肢しかないのではないかという推測が成り立ちます。台湾有事が発生すれば、アメリカはウクライナのように台湾を支援し、ドル決済から中国を締め出す準備はできているという。
陰謀論者は政治家、国際金融資本、軍事産業複合体が、世界を動かしていると煽りますが、国際金融資本は経済状態、政治状況などを分析し、リスクを取って資金を動かしているということが感じ取れました。歴史の転換点は、いつもその中にいる人には見えにくいものですが、それを見つけてリスクを負って投資するのが投資家なのです。
齋藤 さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・1990年代以降の新自由主義的世界観は多くの国において、経済格差と価値観ギャップを生み出し、社会の分断と対立を招いてしまいました。しかし、日本は既存雇用を守り、自らの生産性と競争力を低下させることで社会の分断と対立が深刻化することを避けたとも言えます(p218)
・アベノミクス以降は正規雇用の伸びの方が非正規雇用の伸びを上回るようになりました。後は賃金上昇です(P200)
・私が日本のデフレも終わると考えた理由・・一つは・・・アメリカの地政学的配慮から日本は勝ち組に入る・・・もう一つは・・日本経済で人口減少がインフレ圧力になると判断(p193)
▼引用は、この本からです

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齋藤 ジン (著)、文藝春秋
【私の評価】★★★★★(91点)
目次
はじめに 日本復活の大チャンスが到来した
第1章 新自由主義とは何だったのか?
第2章 私はいかにして新自由主義の申し子になったのか
第3章 「失われた30年」の本質
第4章 中国は投資対象ではなくなった
第5章 強い日本の復活
第6章 新しい世界にどう備えるか
著者経歴
齋藤ジン(さいとう じん)・・・在ワシントンの投資コンサルティング会社共同経営者。1993年に単身で渡米。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院修士。投資関連コンサルティング業務を営む米国のG7グループを経て、2007年、オブザーバトリー・グループを米国で共同設立。ヘッジファンドを含むグローバルな機関投資家に対し、各国政府の経済政策分析に関するコンサルティングを提供。本書は初の著書
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