【書評】「虐殺器官〔新版〕」伊藤計劃
2026/05/16公開 更新
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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
未来のアメリカを描いたSF小説
本書は著者の伊藤計劃(けいかく)さんが2007年にデビュー作として発表し、34歳という若さで逝去した後も評価され続けている未来小説です。近未来のアメリカの特殊部隊員の主人公クラヴィス・シェパードが、虐殺を引き起こしているアメリカ人ジョン・ポールを追うという物語です。
主人公は特殊部隊員として暗殺を実行していきますが、なぜかジョン・ポールだけは暗殺しようとすると、そこに姿がないのです。
もともとアメリカでは暗殺のハードルは高かったのです。なぜなら「暗殺などしなくても、アメリカ合衆国はその気になればいつでも言いがかりをつけて戦争を起こせるのだ」と主人公は語っています。ただ、テロとの戦いという理由から、主人公は暗殺を仕事にするようになってしまったのです。
警備や武装勢力との交戦だけでなく、暗殺まで業務として実行している状況は、今の現実の世界そのままに見えます。
暗殺などしなくても、アメリカ合衆国はその気になればいつでも言いがかりをつけて戦争を起こせるのだ(p16)
虐殺には「文法」がある
ジョン・ポールは「虐殺の文法」を用いて、虐殺を引き起こしているという設定になっています。「虐殺の文法」を新聞の記事やラジオやテレビ放送に織り込むことで、人々を虐殺に導くというのです。
特定の言葉の連なりや、スローガンの「響き」が、人々の無意識に「憎め」「守れ」という感情を植えつけていくというのですから、現代社会のメディアのプロパガンダと同じものでしょうか。
著者は歴史でさえ、さまざまな言説(個人の主観)がその伝播を競い合っていると説明しています。つまり、歴史でさえプロパガンダで変えられるということなのでしょう。
虐殺には、文法があるということだ・・・虐殺が起こる少し前から、新聞の記事に、ラジオやテレビ放送に、出版される小説に、そのパターンはちらつきはじめる(p216)
虐殺は人間の本能という仮説
ジョン・ポールは虐殺行為が行われ、個体数が減れば、食料の確保が安定する、だから「虐殺の文法」は人間の本能に組み込まれていると説明しています。
確かに人間が生き残っているということと、人間が虐殺しているということに関連があるという仮説は成り立つのでしょう。
確かに進化とは、多くの種が生まれ、環境という条件に試され、あるものは生き残りあるものは滅びていくことです。しかし、だからといって、虐殺する人がいるから生き延びてきたという仮説は小説だから成り立つことなのでしょう。
虐殺行為が行われ、個体数が減り、食料の確保が安定する。そのために虐殺を許容るムードを醸成し、良心をマスキングすることは、むしろ個の生存にはプラスとなる(p366)
虐殺はなくならない
本書が問いかけるのは、実際に虐殺はなくなっていないという事実です。なぜ人は殺し合うのか、戦争はなくならないのか、核兵器は使われるのか。答えは存在せす、その問いは永遠です。
デビュー作にしてこれほどの思想的深度を持つ作品を書き上げた伊藤計劃が、34歳で世を去ったことはまったく残念です。2007年から時を経て、本書が描く世界はむしろ現実に近づいているように感じられました。
伊藤さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・虐殺の文法を広める・・・言葉がそんな無意識を誘導する(p223)
・耳にはまぶたがない、と誰かが言っていた。わたしのことばを阻むことは、だれにもできない(p225)
・虐殺を準備するディーテールとして右だの左だのといった政治思想が要請されるのではないか・・・ことばの連なりが人を虐殺に駆り立てる(p307)
▼引用は、この本からです

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【私の評価】★★★★★(90点)
著者経歴
伊藤計劃(いとう けいかく)・・・ 1974年10月東京都生まれ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』で作家デビュー。同書は「ベストSF2007」「ゼロ年代ベストSF」第1位に輝いた。2008年、人気ゲームのノベライズ『メタルギアソリッドガンズオブザパトリオット』に続き、オリジナル長篇第2作となる『ハーモニー』を刊行。第30回日本SF大賞のほか、「ベストSF2009」第1位、第40回星雲賞日本長編部門を受賞。2009年3月没。享年34。2011年、英訳版『ハーモニー』でフィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞した。
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