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「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」川内 有緒

2022/09/12公開 更新
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「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」川内 有緒


【私の評価】★★★★★(90点)


要約と感想レビュー

目が見えないのに、美術館に通う人がいるっているのはどういうこと?!と手にした一冊です。著者は水戸芸術館に勤める友人から「白鳥さんと展示を見ると楽しいよ」と誘われて、一緒にフィリップス・コレクション展(三菱一号館美術館)に出かけました。


そこで出会ったマッサージ師でもある全盲の白鳥さんは、もちろん美術品を見ることはできません。一緒に美術品を見てもらい、感想を聴くことで間接的に美術品を感じるのです。白鳥さんは正しい作品解説よりも、見ているひとが受けた印象とか、思い出とかを知りたいのだというのです。


・うち(水戸芸術館)で白鳥さんがマッサージ屋を開いているからおいでよ」・・・意味不明で魅力的な組み合わせ(p28)


面白いのは、白鳥さんと一緒に美術品を見ている人が、白鳥さんに作品を説明しているうちに、新しい発見をすることでしょう。一人で作品を見ていると、すっと過ぎ去ってしまうのですが、具体的な言葉で白鳥さんに説明しようとするときに、気づくことがあるのです。


例えば、湖だと思っていた絵が実は湖ではないのか?と気づいたり、アサリなのかそれともねこなのか?見方によって受けとるのが現代美術なのです。目で見た画像を、言語に変換するというプロセスをたどることで、右脳と左脳が接続されるのでしょう。


・「目が見えるひとも、実はちゃんと見えていないのではないか」・・・「あれっ!」と声をあげ、「すみません、黄色い点々があるんで、これは湖ではなくきっと原っぱですね」(p117)


印象的だったのは、白鳥さんの哲学者のような受け答えです。美術品が「死」をテーマにしていれば、死をどう考えるかという話になります。白鳥さんは、べつに今、死んでもいいと言います。過去も過ぎ去って記憶も変わったり、忘れたりする。未来もよくわからない。結局のところ、「いま」だけしかない。白鳥さんは「いま」だけでいいというのです。哲学者より哲学っぽい!とびっくりしました。


また、著者がニューヨークでコンサルティング会社で仕事をしていたとき、ストレスが溜まると美術館に逃げ込んでいたという話も興味深い。なるほど美術館は外の世界とは別世界であり、美しい絵画と貴族の館のような美術館を歩いていると、心をリセットすることができるのかもしれません。


美術館を見る新しい視点を教えてもらえました。★5とします。川内さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・「自分は全盲だけど作品を見たい。誰かにアテンドしてもらい、作品の印象などを言葉で教えてほしい、・・」と粘り強く美術館に電話をかけ続けた(p116)


・俺の場合は、見た目じゃなくて「声」で騙される。でも、それって、見た目で騙されるのとあんまり変わらないんじゃないかな(p102)


・過去のことも過ぎ去っていく・・未来のこともよくわからない。そうすると、結局のところ、ちゃんと自分がわかっているのは『いま』だけなんだ。だから、俺は『いま』だけでいいかな(p75)


▼引用は、この本からです
「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」川内 有緒
川内 有緒、集英社インターナショナル


【私の評価】★★★★★(90点)


目次

そこに美術館があったから
マッサージ屋とレオナルド・ダ・ヴィンチの意外な共通点
宇宙の星だって抗えないもの
ビルと飛行機、どこでもない風景
湖に見える原っぱってなんだ
鬼の目に涙は光る
荒野をゆく人々
読み返すことのない日記
みんなどこへ行った?
自宅発、オルセー美術館ゆき
ただ夢を見るために
白い鳥がいる湖



著者経歴

川内有緒(かわうち ありお)・・・フリーライター。京都出身。日本大学芸術学部卒、アメリカ・ジョージタウン大学にて修士号を取得。コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地を訪ねた旅の記録を雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国連機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に面白い人やモノを探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、アートや音楽イベントの企画にも関わり、自身でもアート・スペース「山小屋」を運営。


視覚障害者関連書籍

「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」川内 有緒
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗


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