「おあとがよろしいようで」喜多川 泰
2023/10/10公開 更新本のソムリエ [PR]
Tweet
【私の評価】★★★★★(91点)
要約と感想レビュー
大学の落語研究会
喜多川 泰さんの本は、すべて読むことにしているので手にした一冊です。舞台は、大学の落語研究会です。
主人公は高校では帰宅部で、大学生活も授業とバイトだけで十分と考えている覇気のない若者でした。友人は作りたいけど、自分から声をかける勇気もないのです。自分は「オタク」かもしれないけれど、かといって秋葉原で見かけるような女の子のイラスト入りTシャツを着る勇気もないし、好きでもない。でも、自分の好きを表現できるオタクをうらやましくも思っているのです。
そんな内気な主人公が、大学の入学式の後の新入生勧誘で「おう、寄ってけよ」と呼び止められました。「てめえ、うちの前を素通りはねえだろうよ」台の上に着物姿で正座している男が声をかけてきたのです。振り返った主人公が返事をすると、男は「そうかい、じゃあ上がらしてもらうよ。いや俺ぁね、近頃塩梅がよくねえから、峰の灸ってやつを据えてきたんだよ」と落語を始めていたのです。そんな出会いから、主人公は落語研究会に入ることになるのです。
あんなふうに、他人にどう思われるかを気にしないで、自分の好きに対してストレートになれたら、どれだけ人生は楽だろうか(p20)
準備するのが趣味
落語研究会には、部長の他に三人の部員がいました。小学生から落語をはじめ、落語を完璧にこなし、教師になりたい二年生の姉さん。家庭の事情で弁護士にならなければならない感情を顔に出さない三年生の男。そして、高校時代に落語家がやってきたのをきっかけに落語を始めた二年生の男。
主人公は、部長がいつも行っているという浅草の寄席に連れて行ってもらいました。 自分と比べて堂々として澱みない落語家の語り口に驚き、本物を目指す部長の落語への熱い思いを感じたのです。ただ、これだけ落語に打ち込む部長なのに、落語家になるつもりはないというのです。
落語は演目を覚えることからはじめます。まだ一つしか演目を覚えていない主人公は、自分の演目の動画を見て、あまりに酷くて愕然として、落語を覚えられない自分に落胆します。一緒に練習しながら、落語を完璧に覚えている姉さんは、主人公から見れば天才です。実は天才だと思っていた姉さんの記憶力の秘密は、「予習」にありましました。姉さんは、事前に徹底的に予習していたということを教えてくれたのです。
明日が来るのが楽しみになるくらい準備するのが趣味になっちゃった(p125)
お前は出会ったものでできてるんだよ
部長は主人公に、どうして落語を始めたのか教えてやるといってドライブに誘います。車を運転しながら部長は、「お前は、出会ったものでできてるんだよ」と語りはじめます。産まれて真っ白な赤ん坊だったお前が、いろいろな経験や人と出会い、世の中はこんなもんだと思い込む。でも、世界ってそんなもんだろうか。本当は世界ってこんなにすげえんだぜ、こんな素晴らしい人がいるんだぜ、と自分に見せてやりたいと思わないか、と語りかけるのです。
なぜ、そんな説教じみたことを主人公に言うのかといえば、実は部長は・・。ここからはネタバレになるので、本書でご確認ください。
いつもの心温まるストーリーと最後のビックリの展開に驚きつつ、主人公の成長に涙が出てきました。落語をテーマにしたのは、最近、書店「読書のすすめ」で「落語のすすめ」が行われているのと関係があるのでしょうか?喜多川さん、良い本をありがとうございました。
無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信) 3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。 |
この本で私が共感した名言
・好みが違っても、価値観が違っても、何か一点、共通の話題でもあれば、それで仲良くやっていけている気がする。それはまさに落語の世界の住人の繋がり方(p110)
・同じ噺をするのに、そこに一人一人の個性が色濃く爆発する・・徹底的に同じことをやってみないと、個性なんて発露しない(p156)
・お客さんとの話で出てきたことに興味を持って動いとくとな、毎日仕事が楽しくなるんだよ。オメエも覚えときな(p121)
【私の評価】★★★★★(91点)
著者経歴
喜多川 泰(きたがわ やすし)・・・1970年生まれ。愛媛県西条市出身。2005年『賢者の書』でデビュー。『君と会えたから......』『手紙屋』『株式会社タイムカプセル社』『運転者』など、続々とベストセラーを発表する。2013 年には『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』(サンマーク出版)が映画化され、全国一斉ロードショー。他にも『書斎の鍵』(現代書林)、『ソバニイルヨ』(幻冬舎)など、意欲的に作品を発表。その活躍は国内にとどまらず、中国、韓国、台湾、ベトナムでも人気を博す
この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
この記事が気に入ったらいいね!
コメントする