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【書評】「基軸通貨ドルの落日 トランプ・ショックの本質を読み解く」中野 剛志

2026/03/26公開 更新
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「基軸通貨ドルの落日 トランプ・ショックの本質を読み解く」中野 剛志


【私の評価】★★★★☆(85点)


要約と感想レビュー


トランプ関税の目的

トランプ大統領が掲げる「相互関税」などの政策は、スティーブン・ミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長(2025年9月よりFRB理事)が提唱する「ミラン論文」の内容を体現したものです。


「ミラン論文」では、各国が保有するドル準備や米国債を売却させ、それを「100年満期の米国債」へ交換させることで、ドル安を誘導するとしています。ドル安によってアメリカの製造業を復活させ、100年国債の導入で米国の財政を安定化させる、という戦略です。


そして、この「ドル売り・100年国債購入」を各国に強いるための武器として、高関税を利用するというのです。


ミランは、他国にドル安を飲ませる梃子として関税を利用するつもりである(p27)

揺らぐドル覇権

実はトランプ大統領の関税政策は、ニクソン大統領の政策と似ています。


ニクソン大統領は、ドルの金への交換を停止し、ヨーロッパや日本に通貨を切り上げさせるため、アメリカの輸入品に対して10%の課徴金を課しました。各国と大幅なドル切り下げを合意し、合意の後、10%の輸入課徴金は撤廃されることになるのです。


トランプ大統領の次の一手は、関税と引き換えに、ドル安を各国に認めさせることと予想できるわけです。


ニクソン大統領とトランプ大統領がドル安を目指すのは、基軸通貨であるドル覇権が揺らいでいるという背景があります。ドルの信頼が大きく揺らいだのは、2014年にロシアのクリミア侵攻時に、ロシアのSWIFTからの排除が検討されたことにはじまります。(2022年にロシアはSWIFTから排除)


その対応として、2014年にロシアはSPFSという国内決済システムに、中国、インド、イラン、トルコが参加できるようにしています。2015年には、中国が人民元によるCIPSという国際決済システムを立ち上げました。同時に、中国は2010年代半ばから米国債の保有量を減らし、金の保有量を増やしています。これが、金価格の上昇を生んだのです。


インドの石油会社はロシアの石油を人民元建てで取引開始したし、ブラジルは、2023年、中国と人民元建ての貿易や投資を促進を合意しているのです。これだけドルの信用は低下してきているのです。


かつてニクソンが、ソ連との対決を有利に進めるために中国に接近したように、トランプは中国との対立に備えて、ロシアとの関係を改善しようとしているのかもしれない(p42)

中央銀行の独立とは手段の独立

個人的に面白いと思ったのは、著者がポスト・ケインズ派経済学の説明をしているところです。ポスト・ケインズ派経済学では、政府は自国通貨で国債を発行でき、中央銀行が適切に買取り金利を制御すれば、債務不履行に陥るリスクはないと考えます。


したがって、政府は失業率やインフレ率を指標に財政支出を行い、金利は中央銀行が適切水準に維持すればいいのです。つまり、中央銀行の独立とは、手段の独立であって、基本方針は政府と協調しなければならないのです。


政府と中央銀行が協調しなかった例が、イギリスのトラスショックです。イギリスでは、インフレ率が約10%と高いのに、トラス政権は、減税を行いました。ところが、イングランド銀行はコロナ禍の量的緩和の終了を目指して、利上げを進めていたのです。金利が急上昇するのは当然だったわけです。


逆に言えば、減税をして財政支出を政府が行っているときに、日本銀行が悪意を持って金利を上げれば、トラスショックのような状況を作り出すことができるので、政権を潰すことができるということでしょう。


ポスト・ケインズ派経済学は、中央銀行は通貨供給量をコントロールできないが、金利はコントロールできる・・中央銀行と政府の協調性を重視する(p69)

日本はアメリカを選択するしかない

この本を読んでいて、北朝鮮の拉致被害者を北朝鮮に戻そうとした元外務審議官の田中均氏のインタビューが引用されていてびっくりしました。田中均の主張は、トランプは短期的な利益のために行動しており、日本は自国の利益にかなう中国、韓国、インド、台湾、EUを入れた自由貿易体制を推進することです。


実は著者は、この田中均氏の主張を否定しています。


つまり、米国と中国の中間で、中立の位置を目指すという戦略は、米中双方から敵視されるという危険性があり、結局、いずれかに参画する選択を迫られるとし、日本は、アメリカ中心のブロックを選択するしかないと著者は主張しているのです。


田中均氏の主張は、日英同盟を破壊するために、アメリカ、イギリス、日本、フランスの4カ国で条約を締結したのと同じことで、もっともらしい提案をしながら、大切なものを破壊するための計算された主張に感じられるのです。


トランプ大統領がミラン論文に従っているとすれば、いずれ円高ドル安になるということなのでしょう。中野さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・税収を以て国債を償還することも可能である。ただし、負債の返済は通貨の破壊であるから、国債の償還すなわち政府債務の返済は、通貨を破壊して通貨供給量を減らすことを意味する(p63)


・為替取引高の八割以上はドルが閉めている。各国中央銀行の外貨準備に占める各通貨のシェア(2023年3月末時点)は、ドルが約6割、ユーロが約2割、円は約5%、人民元は約3%(p84)


・現在の中国が自由貿易を望んでいるのは、過剰生産のはけ口を求めてのことであるのは明らかであろう・・・中国はデフレ不況を輸出する「近隣窮乏化策」をとろうとしているのである(p211)


▼引用は、この本からです
「基軸通貨ドルの落日 トランプ・ショックの本質を読み解く」中野 剛志
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中野 剛志 (著)、文藝春秋


【私の評価】★★★★☆(85点)


目次


第一章 マールアラーゴ合意
第二章 通貨とは何か
第三章 基軸通貨国の特権
第四章 グローバル・インバランス
第五章 テクノ・リバタリアンと暗号通貨
第六章 トランプ・ショック後の世界


著者経歴


中野剛志(なかの たけし)・・・1971年、神奈川県生まれ。東京大学卒業後、1996年、通商産業省に入省。2000年、エディンバラ大学に官費留学し政治思想を専攻。帰国後、資源エネルギー庁資源・燃料部政策課長補佐。2004年経済産業省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課長補佐。2010年、京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻藤井聡研究室に退職出向。経済産業研究所コンサルティングフェローを兼任。2012年京都大学を退官し経済産業省に復帰。NEDOに出向し、構総務企画部主幹、ロボット・機械システム部主幹、戦略的イノベーション創造プログラム『革新的設計生産技術』推進委員会オブザーバー。2014年、特許庁総務部総務課制度審議室長。2017年、経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課長。2020年、経済産業省大臣官房参事官(グローバル産業担当)。2021年、経済産業省 商務情報政策局 消費・流通政策課長 兼 物流企画室長。2024年、経済産業省 商務情報政策局 参事官(商務・サービスグループ担当)。グローバリズムについて警鐘を鳴らしつづけてきた


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