【書評】「地政学の逆襲「影のCIA」が予測する覇権の世界地図」 ロバート・D・カプラン
2026/02/06公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
著者はオバマ政権のブレーン
著者は2009〜2011年、米オバマ政権のブレーンとして、国防総省・防衛政策協議会のメンバーでした。
この本は2014年に書かれています。2014年は、ウクライナでマイダン革命が起きて、ロシアがクリミアを併合した年です。ロシアについては、どのような認識だったのでしょうか。
この本では、ロシアはヨーロッパと経済的なつながりを強め、ヨーロッパ国家に生まれ変わるだろうと書いてあります。
ところがその一方で、プーチンは軍事費を増やし、新帝国主義的な拡張主義を選び、旧ソ連邦諸国に勢力圏を築くためにウクライナに力を入れていると書いています。
つまりプーチンは、旧ソ連邦諸国勢力圏を築くためにクリミアは簡単に併合できましたが、ウクライナ全体の併合には失敗し、ヨーロッパ国家になるチャンスを失ったということなのでしょう。
マッキンダーとフェアグリーブは、中央ヨーロッパはヨーロッパ(海洋国家)と,ロシア(ハートランド)にはさまれた,「クラッシュゾーン(破砕帯)」と定義しましたが、ウクライナは破砕されてしまったのです。
ロシアが懸念するのは、モンゴルの場合と同様、軍隊による侵略や正式な併合ではなく、中国の移住者と企業によってなし崩し的に地域を乗っ取られることなのだ(p233)
アメリカの課題
アメリカの地政学的課題は、エネルギー源である中東、軍事的に台頭する中国、マフィアに支配されるメキシコだという。中東については、シェール革命でアメリカの産油量が増えたので現在では課題としては小さくなっています。
中国については、現在も最もアメリカに挑戦している国家で最重要課題でしょう。
麻薬マフィアに支配されたメキシコは、現在もマフィアに支配されています。こうした文脈で見ると、麻薬マフィアと関係の強いベネゼエラやコロンビアに強い圧力を加えるトランプ大統領の政策も妥当性があるとわかります。
また、アメリカがメキシコから武力で奪った土地が、メキシコからの移民によって再征服されていると警告しています。トランプ大統領の移民への厳しい対応も、従来から課題として問題となっていたものなのです。
アメリカの命運は、大陸の開拓を正当化して愛国心をかき立てた神話で謳われたように「海から輝く海へ」の東西方向ではなく、これからは南北方向を軸に展開するだろう(p373)
中国への警戒感
地政学では、ユーラシアのハートランドは世界の人口の75%,世界のGDPの60%、エネルギー資源の75%を占めており、ここを制する人が世界を制するとされています。
したがって、ユーラシアのハートランドをめぐって、たえず戦争が起きてきたし、ハートランドに住む民族が、外へ向かう力が歴史を動かしてきたのです。
この本では、中国がイラン,スーダン,ジンバブエなどの独裁主義国と交易してグループを作る一方、資源を求めて世界に進出することで、民主主義国家であるアメリカ,インドと衝突することは避けられないとしています。
また、ユーラシアのハートランドの勢力バランスを左右するのは、台湾と朝鮮半島です。
台湾は中国の湾曲した海岸線に位置する「不沈空母」であり、中国が支配すれば、太平洋の出口となり、台湾が独立を維持すれば中国の太平洋進出の邪魔になるのです。
朝鮮半島については、中国は朝鮮再統一を恐れているものの、再統一後の朝鮮は経済的にも心理的にも中国寄り国家になる可能性があり、アメリカ軍の駐留の必要性がなくなる可能性を指摘しています。朝鮮が統一され、アメリカ軍がいなくなれば、結果的に日本は軍備増強せざるをえなくなると予想しています。
なお、中国の課題は、太平洋とインド洋で海上封鎖されればエネルギー供給を遮断されてしまうこと。また、周辺部に住むチベット人,ウイグル人,内モンゴル人を支配し続けることができるのかが課題だとしています。
対中政策を決める際に重視すべきなのは,中国の持つ「能力」である・・・中国は20年前に比べて約2倍の潜水艦を保持しているが,そういった進化し続ける国家の能力に応じていく必要がある(p2)
力の均衡がなければ平和は維持できない
イランが核開発を進めれば、イスラエルは何らかの軍事行動に出るだろうと予言しているところがすごいと思いました。
そして、戦争は恐怖、利己心、名誉という人間の欲が生み出すものであり、力には力で対抗し、つねに力の均衡をめざさなくては、平和は維持できないとしています。「武力より話し合い」というお花畑の日本とは考え方が正反対なのです。
ドイツ統一が実現したことから、統一朝鮮の誕生に備えるか,少なくとも想定しておいた方がいいだろうと警告しています。日本の準備は、大丈夫なのでしょうか。
なお、日本については、食糧の純輸入国で,石油・石炭生産が少なく脆弱ではあるものの、海軍大国であり、イギリスがヨーロッパで果たしているのと同じ役割を担えるだろうと評価しています。
対外政策を考える人が、どんな思考をしているのか参考になりました。こんな常識的な本を、朝日新聞出版で出版していいのでしょうか?カプランさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・世界は「フラット化」しているというのが,現代社会に生きる者たちの共通言語になっている・・・エボラ出血熱・・・そこで起きている脅威はもはや他人事ではなくなっている(p1)
・もしも(メキシコで)ギャングが勝利を収めることになれば、「アメリカは中南米の安定を脅かす強力な国際麻薬カルテルが牛耳る麻薬国家と、3200キロ近い国境を接することになる(p376)
・プーチンやその後継者があまりにも高圧的に出た場合には,中国に助けを求めるという選択肢が,カザフスタンにはつねにある(p217)
・西側諸国にとって、トルコのイスラム主義政権は最近では容認しがたくなっているが、イランの聖職者政権の思考様式に比べれば、はるかにとりつきやすい(p343)
▼引用は、この本からです

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ロバート・D・カプラン (著)、朝日新聞出版
【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
序章 失われた地理感覚を求めて
第一部 空間をめぐる競争
第1章:ポスト冷戦の世界
第2章:地理の逆襲
第3章:ヘロドトスとその継承者たち
第4章:ユーラシア回転軸理論
第5章:ナチスによる歪曲
第6章:リムランド理論
第7章:シーパワーの魅惑
第8章:空間の危機
第二部 21世紀初めの世界地図
第9章:ヨーロッパの統合
第10章:拡大するロシア
第11章:大中華圏
第12章:インドのジレンマ
第13章:中軸国家イラン
第14章:旧オスマン帝国
第三部 アメリカの大戦略
第15章:岐路に立つメキシコ
著者経歴
ロバート・D・カプラン(Robert D. Kaplan)・・・1952年、ニューヨークのユダヤ系の家庭に生まれる。コネチカット大学卒業後、地方紙記者を経てチュニジア、イスラエル、東欧、中東、ポルトガル、ギリシアなど数多くの国を旅する。1980年代以降はイラン・イラク戦争、アフガニスタン戦争、アフリカを取材し、国際ジャーナリストとしての地位を築く。2012年より米民間情報機関、ストラテジック・フォーカスティング(ストラトフォー)に所属し、地政学のチーフアナリストとして活躍している。2008〜2012年には新アメリカ安全保障センターの上級研究員、2009〜2011年には米政権ブレーンとして、国防総省・防衛政策協議会のメンバーを務めた。2011年、『フォーリン・ポリシー』誌の「世界を考える100人」に選出される。国際情勢や旅行記など多数の著作を手がける
地政学関係書籍
「地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図」 ロバート・D・カプラン
「[新版]日本の地政学」北野幸伯
「正義なき世界を動かす シン地政学」猫組長(菅原潮)
「知らないではすまされない地政学が予測する日本の未来」松本利秋
「不穏なフロンティアの大戦略-辺境をめぐる攻防と地政学的考察」ヤクブ・グリギエル
「学校では教えてくれない地政学の授業」茂木 誠
「大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する!」ジョン・J.ミアシャイマー
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