【書評】「ルポ年金官僚: 政治、メディア、積立金に翻弄されたエリートたちの全記録」和田 泰明
2026/04/07公開 更新
Tweet
【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
日本の年金の歴史
本のソムリエも年金をもらえる年齢に近づいてきたので、年金の歴史について読んでみました。事実として、公的年金は当初、自分が積み立てたお金をもらう「積立方式」でした。
しかし、低い保険料でスタートし、年金受給額を高くしていくうちに、現役世代の保険料の一部を年金受給に流用し、最後は積立金まで流用してなし崩し的に「賦課方式」へ変わってきたのです。
特に悪い意味で大きかったのは、1973年の改正です。「自動物価スライド制」や、過去の給料の再評価により、年金額を一気に上げたのです。著者は、田中角栄が政権延命のため、労組や野党の言い分を聞いた結果と書いています。
さらに悪いことに、1973年の改正で年金福祉事業団が設置できる施設を「老人福祉施設、療養施設」から「保養のための総合施設」に変更され、大規模な天下り先の建設を許してしまったのです。
世代間不公正・・・それは公的年金の保険料が、戦後の負担能力に見合った低い額からスタートしたものの、受給額は経済成長に応じて急激に引き上げられたためだ(p29)
厚生省の利権
厚生省については、入ってくるお金の管理はいい加減でも、出ていくお金はうまく使えるように工夫していることがわかります。
入ってくるお金については、1958年、行政管理庁が厚生年金について、「整備不能、整備不完全、不明の台帳が少なからず残されている」と、改善勧告を出していました。しかし、2007年に「消えた年金」として大問題になるまで改善されることはなかったのです。
一方、出ていくお金については、1961年に厚生省は、厚生年金積立金を、厚生大臣の管轄下で自主運用する提案をしていました。積立金は大蔵省に預けておけば6%の預託金利で運用できるので、著者はハコモノ設置による天下り先の確保が目的だったと分析しています。
結局、厚生省は自主運用は諦め、還元融資を行う「年金福祉事業団」を設立することで手を打ち、1973年からはグリーンピアなどのハコモノを作り始めるのです。
その結果、年金積立金を使って「グリーンピア」を全国13施設、社保庁が運営する「健康保養センター」を全国466施設を建設・運営し、多くの施設で天下り官僚を受け入れつつ累積赤字を抱えることになるのです。
こうしたやり放題の背景として、社保庁が「社会保険一家」と呼ばれるほど、組合員であるプロパー職員の係長や班長が力を持って実務を仕切ってやりたい放題で、社保庁そのものが、組合に乗っ取られ組織の体を成していなかったと著者は説明しているのです。本当なのでしょうか。
社会保険事務所の職員は、各自治体の公務員の扱いのため、自治労(全日本自治団体労働組合)に加入していた。戦闘的な組合員が多く、「自治労の噛みつき犬」との異名を持った(p277)
年金官僚エリートとは
タイトルにある年金官僚エリートと思える人は、「年金の神様」と称される山口新一郎年金局長でしょう。山口新一郎は、1973年の年金改正で厚生年金が2.17倍にもなったことを批判し、「給付水準の適正化」として年金を初めて減額させました。
また、山口新一郎は自営業者、サラリーマン、公務員、教員などばらばらだった年金制度を一本化する「基礎年金制度」を創設した、大改革に道筋をつけたのです。
もう一人、年金エリートと思える人は、年金評論家の村上清です。村上清は1966年の年金改正時、物価スライド制で物価が上昇していけば、いずれ賦課方式となると予言していました。
実際、当初年金局は5.5%の保険料を将来9%程度まで上げると公表していましたが、村上は36%(現在の総報酬制では27%程度)になると指摘し、結局、年金局はさらに保険料を上げざるをえなくなったのです。
また、村上清は1993年の著作「年金改革」の中で厚生年金の3階部分の厚生年金基金制度は私的年金でありながら、厚生年金給付の一部(代行部分)を国の代わりに払っており、賦課方式で運営されている公的年金を、積立方式の私的年金が代行すれば、いずれ破綻すると警鐘を鳴らしました。
これまた正しかったのですが、基金は、年金官僚の天下り先だったので、解決は2014年まで先延ばしされたのです。
山口新一郎・・1973年年金改正を山口が「餡蜜に佐藤をぶっかけた改正」と切り捨てた・・・自身が年金課長だった1969年改正より、厚生年期が2.17倍にもなったことが許せなかったのだろう(p148)
官僚制度は部分最適
現在の年金制度は、「マクロ経済スライド」で支給額がが人口減少、平均余命の延びによって調整される「賦課方式」になっています。つまり、「マクロ経済スライド」で少子高齢化は給付額減少で調整されるので、年金支給開始年齢引き上げは不要なのです。(現在は60歳から自由に選択可能)
年金をもらう立場とすれば、少子高齢化で年金は減っていくと思いますが、医療費も含めて高齢者が若い世代に負担をかけているので、5%でも10%でも負担を下げるように協力しなければならないと感じます。
最後に、日本全体で見れば、財務省は増税を主張し、厚労省は社会保険料を堅持したいと考えるだけで、最終的に天下り先を作る人が出世するので部分最適にしかなりようがないと感じました。やはり、日本全体最適を考える人が必要であり、それは政治家であるべきなのでしょう。
また、社保庁が自治労に乗っ取られているという表現がありましたが、自治労がある勢力に乗っ取られているということなのでしょうか。もう少し官僚については勉強していきたいと思います。和田さん、良い本をありがとうございました。
| 無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信) 3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。 |
この本で私が共感した名言
・戦争直後の記録は、紙もインクも悪い・・・書類はあっても消えてわからない・・・「消えた年金記録」は、すでに始まっていた(p129)
・アメリカ(の年金)は、財政を検証するとき、75年分の将来見通しを出すのだが、その際、最後の年に給付金1年分の積立金が残るよう負担と給付を調整するルールを採用していた(p51)
・2000年改正・・・それまで厚生年金は、月収に対して17.25%の保険料、ボーナスから特別保険料1%が引かれていた・・・ボーナスからも同様の保険料をかけることにした。これを「総報酬制」と呼ぶ。年間の保険料を同等にするため、保険料率は17.35~13.58%に引き下げられた(p39)
▼引用は、この本からです

Amazon.co.jpで詳細を見る
和田 泰明 (著)、東洋経済新報社
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
序 章 元霞が関トップの遺言
第一章 まやかしの「100年安心」
第二章 小山学校
第三章 年金局長の野望
第四章 河童の涙
第五章 年金不信の正体
第六章 大蔵省資金運用部
第七章 民主党年金改革の蹉跌
第八章 GPIF改革の真相
著者経歴
和田 泰明(ワダ ヤスアキ)・・・1975年生まれ。広島県出身。1997年岡山大学法学部卒業後、山陽新聞社入社。上京後、大下英治事務所を経て、『週刊ポスト』記者に。2004年「小泉首相の年金未納は6年8か月」をスクープ。2005年から2024年まで『週刊文春』特派記者として、主に政治記事を担当した。
この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
![]()
この記事が気に入ったらいいね!
























コメントする