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「ハイブリッド戦争―揺れる国際秩序」志田 淳二郎

2024/07/19公開 更新
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「ハイブリッド戦争―揺れる国際秩序」志田 淳二郎


【私の評価】★★★★☆(84点)


要約と感想レビュー

ハイブリッド戦争の事例

沖縄県の名桜大学の国際政治学の准教授が、現在の世界で行われているハイブリッド戦争の事例を教えてくれる一冊です。「ハイブリッド戦争」とは、国籍を隠した不明部隊を用いた作戦やサイバー攻撃や偽情報流布といった情報戦争を含む攻撃のことです。


国籍を隠した不明部隊は、ウクライナの東部やクリミアをロシアが占領するときに使われました。また、サイバー攻撃や偽情報流布では、トランプとヒラリーの選挙戦でトランプを勝たせるために、ロシアの情報組織IRAがネット上でヒラリー陣営のメールをリークしたり、連邦政府への不信感を掻き立てる偽情報の拡散を行ったことが知られています。
 

2021年にはポーランドやリトアニアと接するベラルーシ側の国境に、イラク、シリアなどから数千人のイスラム難民が不法越境を試みた事件がありました。これも、ウクライナ戦争を支援するEUへのロシア側からの攻撃なのです。


こうして見てくると、尖閣諸島へ中国の海警局の武装した船舶が領海侵入を繰り返しているのは、ハイブリッド戦争の初期段階といえるのでしょう。


「ハイブリッド戦争」は、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした手法・・国籍を隠した不明部隊を用いた作戦、サイバー攻撃・・偽情報の流布(p24)

日本でのロシアの影響工作

日本でのロシアの情報戦、影響工作は、マスコミ、政治家、外交官、学者、記者、社会活動家などによって行われています。わかりやすい人たちとしては、この本では、鳩山由紀夫元首相、鈴木宗男、篠原常一郎、佐藤優孫崎享元外務省国際情報局長をあげています。


これらの人たちは、「ウクライナ戦争はアメリカが原因だ」「ロシアのブチャ虐殺はウクライナの囚人兵が起こした」「欧米の武器支援が戦争を長期化させている」というロシア側の主張を流布しているのです。


著者はこうした人たちには、2種類いるとしています。一つはプロとして意識的に影響工作をしている人。もう一つは、鳩山由紀夫のように「平和」という理想を求めるがゆえに無自覚に中露の協力者となっている人たちです。


ウクライナ紛争の停止を求めて和田春樹、羽場久美子田原総一郎らが、「日本市民の宣言」を発表しています。NATO諸国が兵器を供与するからウクライナ戦争が長期化していると批判する内容です。私の推測となりますが、これも一部のプロ工作員が音頭をとって、無自覚に賛同する人を集めた活動でしょう。なぜなら、ほとんどが平和安全法制の制定時に、同じように反対していた人々だからです。


2023年6月9日、在日ロシア大使館で「ロシアの日」にちなんだレセプションが開催された・・乾杯の音頭をとったのは鳩山由紀夫元首相であった。ほかにも鈴木宗男佐藤優、篠原常一郎も参加(p82)

中国の人類運命共同体は世界支配

中華人民共和国については、一帯一路と人類運命共同体を推進しています。この「一帯一路と人類運命共同体」の本質は、中華人民共和国が支配する世界秩序であると著者は定義しています。なぜなら、2018年のカール・マルクス生誕200周年記念大会で、習近平はマルクス主義を否定する者は一体化に向かう世界の敵であると断言しているからです。


中国が世界を支配するために活動していることは、NATO「戦略概念」の中に、中国の悪意あるハイブリッド、サイバー作戦、対立的なレトリックや偽情報がNATOの安全保障に害を及ぼしていると記述があることから事実なのでしょう。

 
実際、NATO・EU加盟国のハンガリーのビクトル・オルバン首相は中国を自国の統治モデルの参考とする政治家です。また、2023年に北京で開催された、一帯一路国際フォーラムにはハンガリーのオルバンとセルビアのブチッチが参加しており、中国の工作活動は一定の成果を上げているのです。


2018年5月、習近平はカール・マルクス生誕200周年記念大会の会場で・・マルクス主義を否定する者は一体化に向かう世界の敵であると断言した(p126)

日米分断工作活動

日本のロシアの影響工作を行っている人たちは、「台湾有事や日本有事で、米国は守ってくれない」という対米不信を増長させ、日米分断工作活動も行っています。2024年6月に沖縄県辺野古の基地建設に講義する市民活動家が飛び出して、それを守ろうとした警備員が死亡する事故がありました。ハイブリッド戦争の視点で見れば、沖縄の市民活動家も日米分断工作の一環として、活動している可能性があるわけです。


日本では市民活動家や左翼学者のように、仕事として一般市民のような立ち位置で、政治的な活動をしている人たちがいます。誰が活動費を出しているのか、不思議に思っていましたが、情報戦の一つと理解すればわかりやすいと感じました。こうした影響工作は、マスコミや労働組合や政治家など広範囲に浸透しており、もう手遅れのような気もします。


日本が中国やロシアのようにならないよう祈りたいと思います。志田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃は、イランがしかけるハイブリッド戦争であると考えられる(p136)


・鳩山が理事長を務める一般財団法人東アジア共同体研究所の理事兼所長を務める孫崎享元外務省国際情報局長は・・・尖閣諸島について日本が領有権を主張せず「棚上げ」をすれば日中関係が改善し、経済相互依存が進化し、ゆくゆくは「東アジア共同体」が形成され、こうした状況が軍事力に拠らない抑止力になると主張した(p161)


・「作家」のニコライ・スタリコフは、米国の戦略はウクライナを勝たせないことで、ロシアを倒すのではなく弱体化させることであると主張している。ここで佐藤優は・・スタリコフを「作家」とだけ紹介しているが、彼の真の姿は世論操作を専門とする「政治技術者」である(p85)


▼引用は、この本からです
「ハイブリッド戦争―揺れる国際秩序」志田 淳二郎
志田 淳二郎、並木書房


【私の評価】★★★★☆(84点)


目次

第1章 ハイブリッド戦争の理論
第2章 ロシアがしかけるハイブリッド戦争
第3章 中華人民共和国が及ぼすハイブリッド脅威
第4章 揺れる国際秩序
終章 ハイブリッド戦争の時代を生き抜く



著者経歴

志田淳二郎(しだ じゅんじろう) ・・・名桜大学(沖縄県)国際学部准教授。1991年茨城県日立市生まれ。中央ヨーロッパ大学(ハンガリー)政治学部修士課程修了、中央大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(政治学)。中央大学法学部助教、笹川平和財団米国(ワシントンDC)客員準研究員などを経て現職。専門は、米国外交史、国際政治学、安全保障論。


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