人生を変えるほど感動する本を紹介するサイトです
本ナビ > 書評一覧 >

「拡大ヨーロッパの挑戦 増補版: グローバル・パワーとしてのEU」羽場 久美子

2024/07/13公開 更新
本のソムリエ
本のソムリエ メルマガ登録[PR]

「拡大ヨーロッパの挑戦 増補版: グローバル・パワーとしてのEU」羽場 久美子


【私の評価】★★☆☆☆(67点)


要約と感想レビュー

国際関係を読み誤る

ウクライナ紛争の停止を求めて「日本市民の宣言」を発表している羽場久美子とは、どのような人なのだろうと手にした一冊です。本書は、2004年に発行された「拡大ヨーロッパの挑戦」に、「第8章パワーシフトとアジアの経済成長」を加えて2014年増補版として発行されたものです。追加された第8章には、何が書かれているのでしょうか。


当時は2012年に野田民主党政権が、尖閣諸島を国有化して中国が反発し、日本を攻撃している時期です。2013年には安倍首相が靖国参拝したことをきっかけに、歴史問題で中露韓米が日本を批判する状況でした。中国の日本包囲網が作られようとしていたのです。安倍首相は2012年に民主主義の価値観を共有するインド太平洋地域の協力強化を国家戦略としており、中国の危険性を理解していたのです。


それに対し著者は第8章で、世界はグローバル化しており、日本の右傾化と日米同盟だけに頼ろうとする方針を批判しています。安倍首相を意識した批判と考えられます。自由と民主主義という価値観と日米関係を重視するよりも、経済的に急成長している中韓露と経済的結びつきを強くして金儲けに集中しようと主張しているわけです。


2024年の今となってみれば、経済的なメリットばかり考えて、強権的で軍事的な圧力を加える中国やロシアや反日国家韓国と協力していこうと主張している著者は、著者の言い方を真似すれば、「著者は国際関係を読み誤っていた」のでしょう。


グローバル化における「全方位外交」の時代に、日本が右傾化と保守化を推進し中韓と対立しながら、「日米同盟」だけに頼ろうとする戦略自体が、現在の国際関係を読み誤っているように見える(p222)

尖閣は日本に問題あり

また、著者は民主党政権時代の尖閣諸島国有化が発端となった中国の尖閣諸島への挑発についても、国有化した日本に問題があるとしています。そのうえで、日本の右傾化は、中国に経済的に追い抜かれた日本の焦りであり、領土問題は経済的利益をマイナスにするので、中露韓と協力することで経済的利益と信用を得るほうが、長期的に重要であると著者は主張しているのです。


著者は尖閣、竹島、北方領土は、「現状維持(Statusquo)で臨むことが最も合理的であり、成長している中韓露という重要な隣国三国を敵に回す政策は、アジアで日本を孤立させると主張しています。これも著者の現状認識には疑問があります。日本がどのような妥協的な政策を取っても、中国が台湾の一部である尖閣諸島を諦めることはないのです。


安倍首相は、著者の主張を空論として採用しませんでした。安倍首相は日本を孤立させようとする中国に対し、韓国を許し、ロシアと近づき、アメリカとの同盟を強化することで、中国の日本包囲網を打破したのです。危機感を持った中国は、なんとしても安倍政権を潰したいと考え、それに連動して「安倍政治を許さない」日本国内でのマスメディアや活動家の工作活動が活発化したものと思われます。


中国の「棚上げ」発言と問題の鎮静化要請にもかかわらず、「国有化」を断行した日本政府に、問題の発端があったように見えた(p221)

憲法改正は日本を孤立させる

著者は、最後に周辺国(中露韓)との信頼関係を築かないまま、特定秘密保護法、憲法改正などを策定していくことは、アジアでの日本の孤立のみならず、アメリカとの関係を疎遠にし、米中、米韓の接近を容易にすると批判しています。これも今となっては、中露韓が信頼できないから特定秘密保護法や憲法改正が必要なのであり、著者の主張は論理性がないよう見えなす。


著者が現在でも、ロシアに有利なウクライナ紛争の停止を求める「日本市民の宣言」を発表していることと、本書の内容を合わせて考えれば、著者は中国の方針に沿うという結論ありきで主張しているのではないかという疑念が持ち上がります。つまり、著者は日本の国益ではなく、中露韓の主張をなぞっている可能性があるのです。もう少し調査を継続します。


無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信)
3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。

この本で私が共感した名言

鳩山由紀夫民主党政権(2009~2010)では、首相が中国の温家宝政権と共に「日本海・東シナ海」を「友愛の海」にすると語り、東アジア共同体構想は、民主党政権下で一挙に本格化するかに見えた(p212)


・世界のGDPのトライアングル米16.2兆ドル・・EU16.7兆ドル・・日中韓15.3兆ドル(2012年)


▼引用は、この本からです
「拡大ヨーロッパの挑戦 増補版: グローバル・パワーとしてのEU」羽場 久美子


【私の評価】★★☆☆☆(67点)


目次

序章 拡大ヨーロッパ―グローバリズムとナショナリズムのはざまで
第1章 ヨーロッパ統合の歩みと拡大の現実
第2章 NATOの拡大―コソヴォからイラクへ
第3章 「民主化」の苦悩―拡大「される」側の実態
第4章 ヨーロッパの新たな境界線と民族
第5章 バルカン地域でのヨーロッパ拡大
第6章 イラク戦争とは、欧州にとって何だったのか
第7章 二一世紀の拡大ヨーロッパ戦略
第8章 パワーシフトとアジアの経済成長―EUの戦略



著者経歴

羽場久美子(はば くみこ)・・・1952年兵庫県生まれ。津田塾大学大学院博士課程修了。学術博士(国際関係学)。青山学院大学大学院国際政治経済学専攻科教授。ハーバード大学、欧州大学研究所(EUI)、ソルボンヌ大学、ロンドン大学、ハンガリー科学アカデミー客員研究員。ジャン・モネ・チェア。専攻は国際政治学、EU論、地域統合論、アジア地域統合、冷戦研究、中・東欧政治史


この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓ 
 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ


ブログランキングにほんブログ村



<< 前の記事 | 次の記事 >>

この記事が気に入ったらいいね!

この記事が気に入ったらシェアをお願いします

この著者の本


コメントする


同じカテゴリーの書籍: