「見えない戦争 インビジブルウォー」田中 均
2021/08/22公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★☆☆☆(64点)
要約と感想レビュー
人事は官僚がやるべきで官邸が口出しするのは許せない
北朝鮮X氏と交渉し、拉致被害者を帰国させるものの、拉致被害者の北に残された家族の安全が脅かされると拉致被害者の帰北を主張し、安倍首相と対立した外交官の一冊です。著者の田中氏は安倍元首相から「交渉記録を一部残していない。彼に外交を語る資格はない」と批判されています。私は、田中氏は実は日本の二重スパイで、まんまと北を騙して、拉致被害者を帰国させたのではないかという仮説を持って読ませていただきました。
著者の田中氏の主張は、政治家は増税を実施すべし、人事は官僚がやるべきで官邸が口出しするのは許せない、外交に政治家は口を出すべきではなく、プロの外交官に任せるべきだというものです。私には傲慢な考えのように思えました。つまり政治家という権力と戦うのが官僚の仕事であるかのように書いており、まさに外務官僚こそ権力そのもののように感じるのです。
また、拉致被害者を帰国させようとしたことについては、外交とは国益のために多面的に評価し、妥協して落とし所を見つける仕事であり、目先の国民の支持率を気にする政治家とは基準が異なると、安倍元首相の判断を批判しています。おかげで交渉相手のX氏が粛清されてしまったことに、許せない気持ちを持っているかのように見えます。
時間をかけて話し合うなかでそれぞれが譲り合い、妥協して落とし所を見つけるのが外交の作業だ。目先の支持率とは、まるで基準が異なる(p35)
統一朝鮮に賛成
また日米同盟から離れ、多角的な保安体制を考えるべきといった提案や、統一朝鮮に賛成するなどの記述があり、不安になりました。アメリカの策略に乗って、深く考えずに日英同盟を破棄したのが日本の敗戦のはじまりだったなと、過去の歴史を思い出したのです。
さらに、トランプ大統領を予測できなかったことを告白していたり、グローバル化した世界でアメリカと中国が対立することは考えにくい、と書いています。外務官僚として著者の情報能力と現実の把握力が欠如しているのではないかと思われます。どうも田中さんの考えは、あらゆる点でズレているようです。
私はアメリカ一辺倒を離れ、多層的多角的な保安体制を考えるべきだと思う(p74)
安倍元首相は右傾化
また朝鮮半島についても、日本は反省の気持ちを忘れずに朝鮮半島と共存しなければ日本の平和は達成されない、とか、朝鮮半島の統合に賛成しなければならないと主張しています。過去に朝鮮に手を出して失敗した歴史から、韓国は緩衝地域として大切ですが、反日活動を行っている韓国と北朝鮮が統一したら、核兵器を持った反日国家ができてしまうのを恐れるのは私だけでしょうか。
さらに、田中氏は無理な理由をつけて、安倍元首相の政治姿勢を右傾化が進んでいるとか、世論を動かすポピュリズム・ナショナリズムを使った政治の劣化を批判しています。これだけズレたことを書けば、仮に二重スパイだとしてもバレることはないのでしょう。
田中さんがなぜウソをつく外交官と言われているのかもわかるような気がしました。良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・「このままだとこの国の財政は破綻する。社会保障に回すお金もなくなる。日本はこういう国になりたいから増税するのだ」ときちんと伝えるべきだ(p26)
・内閣人事局ができると、各省庁の審議官以上の幹部職の人事は基本的に官邸が最終的には判断するということになってしまった・・・蔓延していくのが忖度だ(p28)
・外交とはプロフェッショナルの仕事だ・・・常に日本の国益を絶対的、相対的に多方面から評価していなければならない・・・「日米関係が外交の基軸であり、それに外れるものは国益でない」といった簡単な定義付けはできない(p38)
・日本は反省の気持ちを忘れずに、もっと余裕のある交渉をすべきだと思う。朝鮮半島とともに生きていくことなくして、日本の恒久的な平和は達成されない(p129)
・統一朝鮮がこの地の安定に資する環境を整えるという意味で、日本は最大限の協力をしなければならない(p164)
【私の評価】★★☆☆☆(64点)
目次
1章.日本
2章.トランプのアメリカ
3章.習近平の中国
4章.朝鮮半島
終章.日本の戦略と未来
著者経歴
田中 均(たなか ひとし)・・・京都市生まれ。(株)日本総研国際戦略研究所理事長、(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー。1969年京都大学法学部卒業。外務省に入省後、1972年にオックスフォード大学修士課程(哲学・政治・経済)修了。北米局北米第二課長、アジア局北東アジア課長、在英大使館公使、総合外交政策局総務課長、北米局審議官、在サンフランシスコ総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より外務審議官(政務担当)を務め、2005年退官。東京大学公共政策大学院客員教授(2006-2018年)。
北朝鮮関係書籍
「メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道」阿部雅美
「ウルトラ・ダラー」手嶋 龍一
「見えない戦争 インビジブルウォー」田中 均
「外交敗北―日朝首脳会談の真実」重村 智計
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