「メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道」阿部雅美
2018/06/27公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
拉致事件への北朝鮮の関与
日朝首脳会談で北朝鮮による日本人拉致を金正日が認めたことで、拉致を産経などによる「捏造」「でっち上げ」「証拠がない」「疑惑の段階にすぎない」と発言してきた政治家、文化人、大学教授、一部マスメディアは窮地に陥りました。この本では、これまでの北朝鮮拉致報道を検証し、日本には公平中立のメディアは存在せず、今もないとしています。
まず、「メディアが死んだ」日とは、1988年に日本政府が北朝鮮による拉致の可能性を認めた「梶山答弁」です。この国会答弁は、モリカケ問題のようにテレビで盛り上がることもなく夕刊のベタ記事が出た程度でした。著者も数日後にその事実を知るものの、産経新聞社内で大きく取り上げるよう主張することはなかったと懺悔しています。
産経新聞は、1980年1月7日に「アベック3組ナゾの蒸発 外国情報機関が関与?」というタイトルの記事を掲載しました。しかし、この記事は他の新聞、テレビから無視され後追い報道はありませんでした。1978年8月15日には、富山でアベック拉致未遂事件が起き、海岸でアベックが4人組の男に襲われ、縛られ寝かされていたが、犬の鳴き声が聞こえたため2人を残して、男たちはその場を離れたのです。
アベック拉致未遂事件は、途上国で作られた遺留品、日本人ではない妙な服装の訓練を積んだ東洋人、「静かにしなさい」のひと言、すぐにアベックをさらって逃げなかった男たち、じっと何かを待っていた男たち、不審船目撃情報、怪電波情報などの事実から、誰でも北朝鮮の関与を推測するに足るものでした。しかし、富山の未遂事件発生から7年過ぎた1985年、逮捕監禁致傷罪の公訴時効を迎えたということで、遺留品類が廃棄処分されていたのです。ゴム製の異様なサルグツワなど8種類ほどの貴重な品々が検察の手で捨てられていたという。
・昭和53年以来の一連のアベック行方不明犯、恐らくは北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚でございます・・1988年3月26日の「梶山答弁」・・しかし、この答弁がテレビニュースに流れることは、ついになかった。新聞は産経がわずか29行、日経が12行、それぞれ夕刊の中面などに見落としそうになる小さいベタ(1段)記事を載せただけだった・・朝日、読売、毎日には一行もなかった(p123)
日朝国交正常化への期待
1989年7月には、土井たか子、菅直人、江田五月、田英夫の各氏ら日本の国会議員130名余が署名した韓国の盧泰愚大統領宛て「在日朝鮮人政治犯の釈放に関する要望」を提出しています。その政治犯29人のリストに日本人を拉致した実行犯であることが韓国の法廷で確定していた工作員である辛容疑者が含まれていたのです。土井たか子、菅直人、江田五月、田英夫は、拉致の実行犯の釈放を求めていたのです。
また、「梶山答弁」から2年後の1990年9月には自民党の金丸信元副総理、社会党の田辺誠副委員長が両党の国会議員らを引き連れて北朝鮮へ出かけています。当時は金丸訪朝団が訪朝し、日朝国交正常化を期待するような雰囲気がありました。拉致疑惑については、「一部メディアが勝手に言っているだけ」「証拠はあるのか」という発言があったという。拉致問題の証拠が出てきた時期でさえ、それを追及する動きはまったくなかったのです。
朝鮮総連は朝鮮銀行の裏口座の資金を、新潟に入港する船で現金を北朝鮮へ運んでいました。朝鮮総連は税関職員を接待し関係を作っていたため、乗船時の手荷物検査は簡単にすり抜けられたというのです。また、朝銀破綻時には1兆円もの公的資金が注入されても問題にはなりませんでした。メディアだけでなくあらゆる組織に社外の圧力によるタブーや社内の圧力があるということなのでしょう。
・朝鮮総連に捜査の手を伸ばすことは長くタブーだった。中央本部捜索の際も、国会議員2人が朝鮮総連幹部らと警察庁を訪ね不当な政治弾圧だ、と抗議していた・・経営破綻した全国各地の朝銀に、政府が総計1兆4千億円近い公的資金を投入したことは、まだ記憶に新しい(p206)
日本には北朝鮮の工作員が潜伏
1985年11月には、ソウル刑事地方訪院(地裁)で北朝鮮の大物工作員、辛光洙(シングアンス)の死刑判決が出ています。判決文では、辛光洙が日本人に成りすまして、大阪の原敕晁さん拉致したこと、工作員の拉致・背乗りの実態を克明に説明しているのです。しかし、当時、それが日本で報道されることはなかったのです。
こうして振り返ってみると、日本には北朝鮮の工作員が多数潜伏しており、それを支える北朝鮮シンパともいえる政治家、文化人、学者、メディアが在することがわかります。著者が「偏った空気」と表現する実体の見えない勢力は、現在も活動しているのです。阿部さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・拉致を北朝鮮に初めてただしたのは、その機会があった新聞社の訪朝団ではなく、 政府だった・・拉致で政府は何もしなかった、などと批判する資格は・・少なくともメディアには、ない(p143)
・死刑判決を受けた辛容疑者は金大中大統領による恩赦で釈放され、2000年9月、英雄として北朝鮮へ帰った・・その後、06年になって警視庁は辛容疑者をアベック拉致事件の一つ、福井事件の実行犯として国際手配した(p193)
産経新聞出版
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【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
第1章 日本海の方で変なことが起きている
第2章 メディアが死んだ日
第3章 産経も共産党も朝日もない
第4章 いつまで"疑惑"なのか
第5章 金正日が私の記事を証明した
第6章 横田家の40年
著者経歴
阿部雅美(あべ まさみ)・・・1948年生まれ。東京都出身。72年、産経新聞社入社。80年1月、「アベック3組ナゾの蒸発」「外国情報機関が関与?」の記事で拉致事件をスクープ、97年、「20年前、13歳少女拉致」で横田めぐみさん拉致を報じ、17年を隔てた2件のスクープで新聞協会賞受賞。産経新聞社会部長、サンケイスポーツ編集局長、産経新聞編集局長、産経デジタル代表取締役社長などを歴任した。
北朝鮮関係書籍
「メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道」阿部雅美
「ウルトラ・ダラー」手嶋 龍一
「見えない戦争 インビジブルウォー」田中 均
「外交敗北―日朝首脳会談の真実」重村 智計
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