「最強の人生指南書 佐藤一斎「言志四録」を読む」齋藤 孝
2018/06/28公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(80点)
要約と感想レビュー
佐藤一斎は幕府の昌平坂学問所のトップ
「言志四録」は、幕末の儒学者・佐藤一斎の著作です。「言志四録」といえば、西郷隆盛が座右の書とし、気に入った101の言葉を「手抄言志録」としてまとめて持ち歩いていたというくらいの名著。確かに、現在読んでも通用する言葉がならんでいます。佐藤一斎は、幕府の教育機関である昌平坂(しょうへいざか)学問所のトップであり、いまで言えば大学の学長に当たります。
そこに書かれてある教えは、次のようなものです。
うまくいったときに調子に乗るな。
一芸に秀でるのがよい。
一を積み重ねるがよい。
才能のある人より度量のある人。
現代の成功哲学とまったく同じことが、書かれてあるのです。人間社会を生きていくためには、このような成功の法則を、本で学ぶ必要があるのでしょう。この本で学ばなくとも、いずれは実社会で学ぶことになるからです。
・「一の字、積の字、甚だ畏る可し」・・「一は最初の一歩、積はその積み重ね、世の中のことはすべてこれに尽きる」そう言われると、そんな気がしてきませんか(p229)
バランスを意識
興味深かったのは、佐藤一斎が常にバランスを意識して説明することが多いということです。例えば、若い時にはよく考え失敗しないようにすること、年をとってからは若者のように意欲を持って行動するようにすることと推奨しています。また、成功したら一歩下がる、引き際を考えておかないといけないと言っています。
つまり、過ぎたるは及ばざるが如しで、調子が良い時は皆さんのおかげ、調子が悪いときこそ元気にするということです。いかに先人が調子のよいときに失敗し、調子が悪いときに落ち込んで起き上がれないことが多かったのでしょう。
・思いがかなった時こそ、一歩さがる工夫をすべきである。時間的にも、事柄的にも、昇りつめた龍、つまり、尊貴を極めたものは、退歩を考えておかないと必ず敗滅の悔(くい)があるものである(p53)
佐藤一斎も鍼を刺していた
面白いのは、著者の齋藤さんが佐藤一斎を真似て、月に一度、お腹にに鍼を立てて、それにモグサをつけて燃やしてもらっていることです。佐藤一斎も気分が優れないと、胸の下に十数本の鍼を刺していたというのですから、鍼の効果が半端ない。
佐藤一斎の言葉もよいのですが、齋藤さんの「結論を決めてしまってから、その材料を探す」「仕事は、だいたい七、八割の出来で、一定のリズムで回していくのがいい」という仕事術のほうが感心しました。出版を依頼されると、この一文でこの文章を締めくくると決めてしまうというのです。
齋藤さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・国民のふところを豊かにするには、租税を免じてやるに越したことはない。利益になる仕事を始めるよりは、害になるものを取り除くに越したことはない(p42)
・思うということは道の実行について工夫を重ねることである。思えばそのことについてますますくわしく明らかになり、いよいよまじめに取り組むようになる。・・したがって、「知」も「行」も結局は「思」の一字に帰着する(p46)
・志ある人は鋭利な刃のように鋭く、邪(よこしま)なものを引き払う力を備えているけれど、志のない人は鈍い刀のようなもので、いろいろな魔物に魅入られやすい(p148)
・発憤するの憤の一次は、学問に進むための道具である。顔淵が「(中国の伝説の王である)舜も自分も同じ人間ではないか」といったことは、まさに憤ということである(p159)
・過去の非を後悔する人はあるが、現在していることの非を改める人はすくない(p51)
・一芸に秀でた人、何かの道を究めた人は、お互いに語り合うことができる(p69)
・春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛(つつし)む(後・33)(p119)
・才と量との二つを兼ね備えることができないとしたら、いっそ才能を捨てて度量のある人物となりたい(p125)
・およそ生物は欲がないわけにはいかない。ただ、聖人はその欲を善いところに用いるばかりである(p202)
【私の評価】★★★★☆(80点)
目次
序 章 現代こそ『言志四録』が役に立つ
第一章 「忙しい」の九割は無駄な仕事のせい――仕事術
第二章 才能よりも包容力を持て――人間関係・リーダー論
第三章 志があれば、何からでも学べる――学習法
第四章 「やむを得ざる」の生き方――人生論
著者経歴
齋藤 孝(さいとう たかし)・・・1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書に、『三色ボールペンで読む日本語』『呼吸入門』、『語彙力こそが教養である』『上機嫌の作法』など多数
言志四録関係書籍
「言志四録を読む」井原隆一
「最強の人生指南書 佐藤一斎「言志四録」を読む」齋藤 孝
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