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「ぼくたちクルド人: 日本で生まれても、住み続けられないのはなぜ? 」野村昌二

2024/06/30公開 更新
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「ぼくたちクルド人: 日本で生まれても、住み続けられないのはなぜ? 」野村昌二


【私の評価】★★☆☆☆(61点)


要約と感想レビュー

埼玉県川口市のクルド問題とは

埼玉県川口市でクルド人グループ100人が乱闘して、止めに入った機動隊員に暴行したという報道がありました。川口市では何が起きているのでしょうか。


この本では川口市でぶらぶらしているクルド人は、難民申請中で仮放免の人たちだという。仮放免とは本来、収容所にいるべき人たちを外に出しているもので、住民票もなく、公的な医療保険に入れないという。医療費を滞納して滞納額が400万円近くになり、病院から訴えられているクルド人もいるというのです。


日本で難民申請手続きをすると、結果が出るまで平均で3年、長くて10年かかります。それでもあえて難民申請するのは、民主党政権のときに「難民申請から6か月を超えれば就労できる」運用になったためなのでしょう。来日して難民申請すれば、日本で稼げるのです。そこで昨年、同じ内容の難民申請を3回行えば強制送還できるとする法改正が行われたのです。


仮放免の状況で暮らすクルド人は、いつ入管に収容されるかわからない不安な日々を過ごしている(p6)

トルコ国籍者が難民と認められたことはない

日本の難民の認定率は1%以下です。また、日本でクルド人を含むトルコ国籍者が難民と認められたことはありません。ここからは私の推測ですが、仮に難民申請したクルド人がクルド人独立のためにPKKで活動していてトルコ政府に弾圧されているとすれば、PKKはテロ組織と認定されているので日本では難民とは認定できません。反対にPKKで活動していないとすれば、弾圧されることはないので難民とは言えなくなるのです。


また、この本で紹介している何人かのクルド人の事情を読んでみると、トルコで弾圧されたとの証拠がほとんどなく、難民として認めることはできないのではないかと感じました。


例えば、ある仮放免のシングルマザーのクルド人は、夫と長女と一緒に家族3人で日本に来て難民申請しますが、却下されます。ところが帰国するどころか、自分の両親をトルコから呼び寄せ、夫は1年ほど前に空き巣でつかまったというのです。


また、別のクルド人は15歳のときに、先に来日していた父親に会いに日本に観光ビザで来日し、そのまま残ることにしたという。単なる違法滞在のように見えるのです。日本なら難民申請しているうちは働けるので、その間に稼いでおこうとしているように見えました。


危険を感じた父親は単身、日本に逃げることを決意した。観光を目的とした3か月以内の短期滞在なら、パスポートだけで、ビザが不要だった。同じ村のクルド人が、川口市に住んでいたのも、日本を選んだ大きな理由だった(p45)

難民の在り方を考える

この本では、不法滞在者が抗議や口答えをすると、入管職員が床に頭を押しつけたり、口を押えつけたりすると批判しています。また、弁護士の言葉を引用し、「入管の組織全体に「特高マインド」がある」とまで記載しています。


入管職員は法律にしたがって公務を執行しているだけで、暴れたら押さえつけるのは当然のことだと思います。こうした表面的なクルド人のかわいそうな状況だけを掲載して、全体的な問題の構図を示さないのは、朝日新聞系の手法だと感じました。


移民・難民については、現在の法執行の在り方と、今後移民・難民をどうするのかに切り分けて議論するべきでしょう。こうした一部を切り取った報道や書籍では、全体を見ながら判断しにくくなります。野村さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・在留資格や在特のない外国人は、「非適正滞在者」と呼ばれる。日本の入管政策は、在留資格のない非適正者は速やかに帰国させるのが原則という立場を取っている(p14)


・PKKの創設者はアブドラ・オジャラン・・マルクス・レーニン主義に傾倒し、仲間と共にトルコからのクルド人国家の独立を目指して設立したのがPKKだった(p31)


・難民条約・・条約に沿って解釈すれば、戦争や紛争、飢饉などから故郷を追われた人たちは、難民ではないことになる(p56)


・トルコに住んでいれば移動の自由はあり、仕事に就くこともできる・・・トルコでは、クルド人であることを隠して暮らすクルド人が少なくないのだ(p140)


▼引用は、この本からです
「ぼくたちクルド人: 日本で生まれても、住み続けられないのはなぜ? 」野村昌二


【私の評価】★★☆☆☆(61点)


目次

第1章 在留資格をください
第2章 国家なき悲劇の民族
第3章 一度だけの国家樹立
第4章 ワラビスタンに暮らすクルド人たち
第5章 11歳のハッサンが日本にやってきた
第6章 「難民鎖国」ニッポン
第7章 入管に収容されたクルド人
第8章 仮放免では生きていけない
第9章 クルド人の子どもたちの夢はどこにいくのか?
第10章 ハッサンの夢は叶うのか



著者経歴

野村昌二(のむら しょうじ)・・・1964年、広島県生まれ。英文誌の出版社、ノンフィクションライターなどを経て、2010年からニュース週刊誌「AERA」(朝日新聞出版)記者。2011年の東日本大震災では現地で取材をする。難民、入管問題、格差、貧困、マイノリティの問題を中心に執筆。


クルド人関連書籍

「ぼくたちクルド人: 日本で生まれても、住み続けられないのはなぜ? 」野村昌二
「クルドの夢 ペルーの家 ー 日本に暮らす難民・移民と入管制度」乾 英理子


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