「中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録」鈴木英司
2023/05/04公開 更新本のソムリエ [PR]
Tweet
【私の評価】★★★☆☆(72点)
要約と感想レビュー
中国スパイ罪で6年間収監
著者は2016年7月から2022年10月までの6年間、中国当局にスパイ罪で収監されました。その罪状は、公安調査庁の依頼を受けて北朝鮮に関する情報を聞き取り、公安調査庁に提供したというものです。著者は、公安調査庁からの依頼もないし、報酬を受け取ったこともないと否定しています。著者は日本労働組合総評議会の事務局からスタートし、社会党の土井たか子衆議院議員とも親しい関係にあり、1990年に社会党野竹内猛衆議院議員の秘書にもなっているバリバリの左側の人なのです。
その著者が、2013年に北京で中国政府の外交官、湯本淵(タンペンヤン)と毎日新聞の高塚政治部副部長と会食して、北朝鮮の張成沢が処刑されたことを話題にしただけで、逮捕されてしまったのです。北朝鮮の張成沢が処刑されたことは、日本の新聞社がニュースとして報道しており、公開情報を話しただけでスパイ罪になってしまう中国の法制度を著者は批判しています。中国はインターネットは海外と遮断されており、情報も中国国内と海外を遮断しようとしているのでしょう。
(張成沢の)処刑のニュースは公開情報だった。北京に来る前に日本の新聞社も報道していた・・なぜ違法なのか・・中国国営新華社通信が報じていなければ違法だ(p25)
スパイ罪で収監された理由
スパイ罪で6年間も収監された理由として、著者は3つの背景を指摘しています。
1つ目は、日本の公安調査庁や内閣情報調査局などに中国の情報が流れないようにしようとしていること。著者は取調べ中に、中国研究など、しなくていい。我々は皆、そういう見方をしていると言われたという。中国共産党は、日中の情報交換ができないようにしようとしていることがわかります。
2つ目は、中国の何らかの事情で国家安全部が、中国外交部や共青団の日中友好人脈を摘発していること。習近平の中国では、外交に係わる人間が次々と逮捕されているという。例えば、王毅外相が駐日中国大使だった時の秘書だった駐アイスランド中国大使は、スパイ罪で死刑判決を受けています。
3つ目は、日中関係が良好でないこと。著者は日本人やカナダ人やオーストラリア人は中国で拘束・逮捕されているのに、アメリカ人がスパイ罪で拘束されたことがない点を指摘しています。つまり、スパイ罪とは政治的に適用されているのであって、実際に罪を犯しているのかどうかは関係ないのです。
中国でアメリカ人がスパイ罪で拘束された例はない。一方、カナダ人やオーストラリア人は拘束・逮捕されている。このことが何を意味するのか(p173)
公安調査庁に中国のスパイがいるのか
報道ではこの本の中で記載されている「公安調査庁に中国のスパイがいる」という点が話題となっているようです。これは、湯さんが公安調査庁に話したことが、中国に筒抜けだったこと、公安調査庁職員の写真を見せられたことからの推測です。「公安調査庁に中国のスパイがいる」かもしれないし、あくまでもこうした状況証拠に基づく推測なのです。
2015年5月以降、少なくとも日本人17人が中国当局に拘束され10人が起訴され、懲役3~15年の実刑判決を受けています。これでは怖くて中国に行けないというのが実状なのでしょう。2019年には北海道大学の教授が北京で約2ヶ月にわたり拘束されています。日本もスパイ防止法を作らなくてはならない時期にあるように感じました。鈴木さん、良い本をありがとうございました。
無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信) 3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。 |
この本で私が共感した名言
・供述調書を見せられ・・「署名しろ。拒否してはならない」逮捕状の時と同じだった(p67)
・「日本の公安調査庁からの任務を帯びてきたんだろう。お前は日中友好人士の革を被ったスパイだ」と男が言ってきた(p67)
・尖閣諸島周辺に来るすべての漁船には、軍人が乗り込んでいる。おれは軍にいたからよく知っている(p122)
・習氏の目指す「偉大なる復興」とは「民族の屈辱」の裏返しであり、かつての列強の国々に対して恨みを晴らすという意味も内包されている(p191)
【私の評価】★★★☆☆(72点)
目次
第1章 中国に魅せられた青年時代
第2章 希望を奪われた拘束生活
第3章 中国社会の腐敗がはびこる刑務所生活
第4章 日本政府はどう動いてくれたのか
第5章 どうする日中関係
著者経歴
鈴木英司(すずき ひでじ)・・・1957年、茨城県生まれ。法政大学大学院修士課程修了。専攻は中国の政治外交。1983年、中華全国青年連合会の受け入れにより初訪中。以降、訪中歴は200回超。同年、中国の代表的知日派の張香山氏と出会い、交友を深める。1997年、北京外国語大学の教壇に立ち、2003年まで中国の4大学で教鞭をとり、日本では創価大学の非常勤講師を務めた。日中友好7団体の一つである日中協会理事や衆議院調査局特別調査員などを歴任。元日中青年交流協会理事長。中国でスパイ活動をしたとして2016年7月、北京市国家安全局に拘束され、懲役6年の実刑判決を受ける。2022年10月、刑期を終えて出所し、日本に帰国。
この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
この記事が気に入ったらいいね!
コメントする