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「戦国日本を見た中国人 海の物語『日本一鑑』を読む」上田 信

2024/12/18公開 更新
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「戦国日本を見た中国人 海の物語『日本一鑑』を読む」上田 信


【私の評価】★★★☆☆(77点)


要約と感想レビュー


狂暴な日本人のイメージ

種子島に鉄砲が伝来したのは、1543年と言われています。当時、中国は明朝であり、中国人にとって日本人のイメージは、狂暴な海賊「倭寇」でした。1697年の明朝の民間百科事典では、日本人「倭寇」の絵として裸で刀を担いだ禿げ頭のおじさんが描かれているのです。


また1523年には、「寧波の乱」という日本人の狂暴性を中国人に知らしめる事件が起きています。当時、日本と明は、勘合貿易を行っていました。日本は明に朝貢し、明朝は勘合を発給し、その勘合を持っている者だけが日中間の貿易ができたのです。ところが、1511年に大内氏と細川氏が遣明船を派遣しましたが、発給された勘合100枚を大内氏が独占し、細川氏に渡さなかったのです。


1523年に同じように大内氏と細川氏が遣明船を派遣します。細川氏は古い勘合しかもっていないため、同乗していた中国人が賄賂を使って、大内氏を後回しにしてしまったのです。激怒した大内氏の正使である謙道宗設は、細川遣明船の関係者を殺害。逃げた中国人を探して中国国内にも侵攻し、最後は船を奪って逃げました。


賄賂の不正があったとはいえ、たった100人たらずの日本人に、中国国内を蹂躙された中国人にとって日本人は恐ろしい狂暴な民族に感じたことでしょう。


細川遣明船に同乗していた日本在住の中国人・宋素卿(そうそけい)は、寧波市船太監の頼恩(らいおん)に賄賂を贈り、大内側の使節を差し置いて、細川遣明船の方が先に入港検査を受けるようにしたのである(p33)

倭寇と日明貿易

この本では、日本人が「倭寇」として恐れられていた1556年に、海を渡って日本を訪問し、日本の言語・地理・文化を調べ「日本一鑑」という書籍を残した鄭舜功(ていしゅんこう)を紹介しています。鄭舜功は「日本一鑑」の中で、中国の犯罪者が日本に渡り、日本人を誘って貿易を行うようになり、中国で海賊行為を行うようになったのだと説明しているのです。


実際、貿易保険のない当時、荷物を積んだ船が難破すれば、損失を穴埋めするために、犯罪に手を染めるか、逃亡するしかなかったという事情もありました。さらに勘合貿易以外を明朝は禁止したため、民間で貿易をするということは密貿易となりました。明の官憲の取り締まりに武装したので、容易に海賊行為ができたのです。


海に乗り出し、日本に拠点を移した中国出身者を、「流逋(りゅうほ)」と呼んでいる・・明朝の官憲の取り締まりを逃れて、日本に流れ着いた人々(p30)

犯罪はすべて死刑の日本

鄭舜功は、当時の日本では犯罪者は簡単に死刑となるため、治安が良いと書いています。姦淫・賭博・失火は死刑。武士であっても酒に酔って刀を抜いたら死刑。糸一本でも盗んだら死刑だというのです。


また、淫らな行いも死刑であり、淫らな女性は少なく、日本の女性と結婚する中国人も多かったという。日本は治安が良いのですが、こうした何百年もの厳しい規律が強制されていた歴史が生み出した、特異な文化なのかもしれません。


姦淫・賭博・失火も死刑。盗みに対する禁令はきわめて厳しく,糸一本でも盗んだらみな死刑(p150)

騙す人より騙された人が悪い

このように日本人を理解した鄭舜功は、日本人は規律と秩序を守ると判断し、明朝に対し日本国と協力して朝貢貿易を再構築することで倭寇をなくすことを提案しました。


しかし、当時明朝で倭寇討伐の責任者であった胡宗憲は、倭寇を行っていた中国人の罪を許し迎え入れることで倭寇を終息させようとします。そのため、方針の合わない鄭舜功は胡宗憲が失脚する1564年までの7年間,投獄されるのです。


胡宗憲を信じた倭寇の頭目である徐海と王直は、最終的に明朝に裏切られて処刑されています。騙す人より、騙された人が悪いと考える中国らしい結末と感じました。


最後に著者は、鉄砲伝来と外国との貿易が活発化したことで、鉄砲の必需品である黒色火薬の原料となる硝石と硫黄の貿易が増加し、この貿易を支配した信長、秀吉が強い軍事力を持つことになったとしています。歴史もこうして細かいところを見ていくと、とても面白いと感じました。上田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・京都武家政権(室町幕府)の基盤を固めた足利義満は、朝貢(ちょうこう)に則った貿易をはじめた。日本からは刀剣・銅・硫黄・漆器などを輸出し、中国から銅銭・生糸・絹織物・書画・陶磁器などを輸入した(p15)


・鄭舜功が、倭寇の中核は中国から日本に渡った密貿易人や犯罪者であり、日本の大名たちは彼らが民の官憲から取り締まりの対象となっていることを知らずに関係を深めた、としている(p31)


▼引用は、この本からです
「戦国日本を見た中国人 海の物語『日本一鑑』を読む」上田 信
上田 信 、講談社


【私の評価】★★★☆☆(77点)


目次


はじめに―忘れられた訪日ルポには何が書かれているのか
序章 中世の日本を俯瞰する
第1章 荒ぶる渡海者
第2章 明の侠士、海を渡る
第3章 凶暴なるも秩序あり
第4章 海商と海賊たちの航路
終章 海に終わる戦国時代



著者紹介


上田 信(うえだ まこと)・・・1957年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、立教大学文学部教授。専攻は中国社会史。


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