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【書評】「わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇」泉 房穂

2025/06/02公開 更新
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「わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇」泉 房穂


【私の評価】★★★☆☆(76点)


要約と感想レビュー


日本は官僚社会主義国家

「火つけてこい!」の暴言で、明石市長を辞職した泉さんの一冊です。泉さんは暗殺された石井紘基議員の最初の秘書でした。また、石井さんに弁護士を薦められて弁護士となり、その後、政治家に転身したのです。泉氏は石井紘基議員の愛弟子なのです。


暗殺された石井紘基議員は、当時衆議院議員として、オウム真理教の被害者救済、統一教会の立ち退き運動、日本道路公団や住宅・都市整備公団など特殊法人の不正追及、整理回収機構に関する調査などを行っていました。いずれかの関係者から暗殺されたのでしょう。


石井紘基議員は、ソ連に6年間留学し、ソ連は官僚が支配する独裁国家であり、実は日本も同じ「官僚社会主義国家」であることに気づくのです。泉さんも明石市長となって、「官僚社会主義国家」を直接目にすることになるのです。


石井さんはソ連に6年間留学する・・実際のソ連は官僚が支配している独裁国家だったのです・・日本の社会も同じ構造をしていることに、石井さんは気づいたのです・・日本は実際には「官僚社会主義国家」(p24)

官僚は特殊法人にお金を流す

まず、予習として「官僚社会主義国家」である日本の仕組みを、石井紘基議員の言葉を借りて説明しましょう。


日本の財政は一般会計と特別会計にわかれています。一般会計の60%は特別会計に回されます。官僚は「~開発法」「~整備法」などの法律を作り、「特別会計」を増やし、そのお金を使う特殊法人を作ります。その特殊法人は、1200社以上の子会社、孫会社で構成される「ファミリー企業群」をつくり、そこに特別会計のお金を流すのです。


特殊法人からファミリー企業群には優先的に仕事が回され、定年を迎えた主管官庁の官僚が天下り、何度も給料や退職金をもらえる仕組みなのです。


住都公団が出資して作った株式会社が24社・・・そのうち5社分だけで2000億円の営業収入があり、公団からの天下り役人は、子会社全体で100人を超えている・・その中に前出の日本総合住生活(株)もあり、社長は建設省から、公団、子会社へと天下りを繰り返し・・同社の売上は年間1600億円で、同業の全国7100社中第二位。住都公団東京支社の発注契約のうち7割を占めている(発注操作の疑い)(p43)

官僚の関心は出世と同僚・先輩との関係

泉 房穂さんが出会った官僚は、担当が決まらないとなにもしないし、困っている人を助ける気などさらさらない人たちだったという。


例えば、母子家庭を助けるため、養育費の支払いに関する法整備をしようとしたとき、厚労省の担当は「親」に対しての対応であって、子どもへの対応をしていないと主張したり、内閣府は人口統計を取って、少子化対策を考えるだけと主張するし、文部科学省は、先生に対応するだけで、子どもは範囲外と主張していたという。


また、成年後見制度を見直そうとしたら、法務省に連絡すると、「ウチは登記を扱っているだけなので関係ありません」。厚生労働省に連絡すると、「ウチは関係ありません」とどこも関係ないと言い張るというのです。


また、官僚が気にしているのは自分の出世と、組織の先輩や同僚との良好な関係だけだという。


具体的には、学生、主婦などが制度の不備で障害年金を受け取れないことを修正しようとしたとき、厚労官僚が「先輩のしたことを否定できません」と協力を拒否したというのです。過去の制度改正のミスを追求することは先輩を否定することになるから、官僚の自分たちにはできないというのです。


また官僚による道路工事は、当初の予算の2倍のお金をかけて、2倍の工事期間でやるものだというのです。


これは著者が「火つけてこい!」発言で辞任に至った事例ですが、当時、明石駅前の道路が狭く、死亡交通事故が頻発していたという。ところが、7年たっても道路拡張に必要な、ビルの立ち退き交渉が進んでおらず、著者は「7年間、なにをしていたのか!」と担当職員を叱責したわけです。実は、担当職員は最初から10年かけるのが当然のつもりでいたというのですから、すごいです。


ある道路部門の課長は、「道路は造れば造るほど国民が幸せですよね」と本気で言っていました・・災害対策も同様で・・担当の課長は、「山奥になる一軒の山小屋を土砂崩れから守るため、何十億円を使った」という話を美談のように語っていました(p70)

大きな金額を動かす者が偉い

こうした官僚の思想の背景には、官僚社会では、大きな金額の仕事をする者が偉いという事情があるという。予算額を上げると、実際の工事の発注金額との差額が生まれ、その差額は官僚の自由裁量え使える予算になるからです。


国土交通省の部局では全国大会と称して、部署ごとに前年度より予算が何%伸びたかを競い合い、棒グラフにして伸び率の高い部門の課長が出世するような風潮があったという。


著者は明石市の公共工事を、本当に必要な2,3の工事予定だけを国交省に申請しようとしたら、「市長、そんなことをしたら、ゼロになります」と市の職員に止められたという。国交省のやり方に異を唱えたと見なされて、予算をつけてもらえなくなるというので、工事予定の水増し申請しているというのです。ほんとかいな?


工事のコスト見積りを安くでもしようものなら、なぜか怒られてしまいます。(p70)

財務省と厚生労働省の勢力争い

著者の財務省は、自分たちの手元の金を増やそうとして増税し、厚労省は、財務省に負けじと、保険料を上げていくという見方は正しいと思いました。予算を減らしたほうが負けなのです。


特に財務省については、若手の優秀な財務官僚が有力な政治家の担当となり、情報を提供しながら、仮に財務省に盾突くようであれば、その政治家のスキャンダルをリークして潰すという。政治家にしてみれば、財務省に頭を下げれば出世できて、怒らせると首が飛ぶので財務省に頭が上がらないというのです。


泉 房穂さんについてはもう少し見ていきたいと思いました。泉さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・私も明石市長を12年務めた最後の年に、殺害予告を受けました。「八月末までに明石市長を辞めなかったら九月で殺すぞ」。これで死ぬなら本望だとさえ思っていました(p5)


・容疑者の伊藤白水は、犯行の動機を当時「個人的な金銭的なトラブル」と供述しましたが・・消えたカバンの資料の行方も、被告の動機も解明されないまま、2005年に最高裁で無期懲役が確定します(p46)


・犯人は、カバンを持っている石井さんの指を切って、カバンを開けて中身を持ち去っている・・その後ほどんど捜査されていない(p129)


・私の友人の議員は、菅(直人)さんに何度も「資料は?真相究明はどうするんですか?」としつこく聞いたそうですが、菅さんは逃げ続けたそうです。なにか知っていたのではないですかね、菅さんは(p138)


▼引用は、この本からです
「わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇」泉 房穂
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泉 房穂 (著)、集英社


【私の評価】★★★☆☆(76点)


目次


はじめに 石井紘基が突きつける現在形の大問題
出版に寄せて 石井ナターシャ
第I部 官僚社会主義国家・日本の闇
第一章 国の中枢に迫る「終わりなき問い」
第二章 日本社会を根本から変えるには
第II部 "今"を生きる「石井紘基」
第三章 〈石井ターニャ×泉房穂 対談〉事件の背景はなんだったのか?
第四章 〈紀藤正樹×泉房穂 対談〉司法が抱える根深い問題
第五章 〈安冨歩×泉房穂 対談〉「卓越した財政学者」としての石井紘基
おわりに 石井紘基は今も生きている
石井紘基 関連略年表


著者経歴


泉 房穂(いずみ ふさほ)・・・弁護士、社会福祉士、前 明石市長、元衆議院議員。1963年、兵庫県明石市二見町生まれ。東京大学教育学部卒業後、テレビ局のディレクター、石井紘基氏の秘書を経て弁護士となり、2003年に衆議院議員に。その後、社会福祉士の資格も取り、2011年5月から明石市長を3期12年つとめた。


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