【書評】「21世紀の貨幣論」フェリックス・マーティン
2025/06/16公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
お金とは何なのか
タイトルのとおり、お金とは何なのでしょうか。
まず、お金は物々交換の代替えでしょう。例えば、ニューファンドランド島ではタラの干物、バージニアではタバコ、西インド諸島では砂糖が交換の手段として使われていたという。
そして西欧では、貨幣は銀や金といった貴金属そのものであり、貨幣に含まれる貴金属と同一価値があるという考え方が一般的でした。同じように紙幣も金と交換できる兌換紙幣です。ドルは1971年まで金と固定相場で兌換できましたが、今は変動相場で交換しています。
金貨や銀貨が流通していた時代は、金属の市場価格が上昇して、硬貨そのものの法定価値を超えてしまうと、硬貨は鋳つぶされて、地金として売られ、貨幣供給量が減り、貨幣供給量が不安定でした。
ただ、小切手も14世紀から決済手段として流通しており、お金と同等に扱われていました。お金は信用により譲渡できる価値であるという面も理解されていたのです。
なぜ、西欧の人たちが貨幣の貴金属としての価値に固執したのか、私も不思議に感じます。
なぜロックの貨幣観が定着したんだ?・・なぜだれも、「ロックが言っていることは正しくない。マネーは銀じゃない。譲渡できる信用だ!」って声を上げなかったんだ?(p404)
画期的すぎたジョン・ロー
興味深いのは、18世紀のフランスの財務総監に任命されたジョン・ローでしょう。彼は貨幣を発行する主権者は、貨幣の供給量を調節して、民間と財政の需要を満たすだけのマネーを供給しなければならないという主張をしていました。
実際、フランスの歴史上初の発券銀行となるバンク・ジェネラルを設立し、当初は貴金属本位制を採用していましたが、1718年に銀行券発行枠を金銀と切り離し、不換紙幣フィアットマネーを導入したのです。先見の明があったということでしょう。
さらに彼は、フランスの対外貿易を独占するインド会社を運営し、フランス公債の保有者に、王室に対する債権をの株式と交換するように呼びかけています。
インド会社は最終的にフランスの間接税をすべて徴収する権利を獲得しており、ジョン・ローはフランス国の借金を、返済する必要のない株式に変えようとしたのです。
さすがにこれはやりすぎで、インド会社の株式は一時高騰するものの、その後暴落。彼はフランスを追放されるのです。
1719年8月・・インド会社がフランスの間接税をすべて徴収する権利を獲得した(p266)
現代社会の経済運営
2008年のリーマンショックを経験した現在の経済学では、19世紀のイギリスの経済学者バジョットや20世紀のイギリスの経済学者ケインズの考え方が主流となっています。
バジョットは中央銀行は、マネーの流動性に対する信用が揺らいだときには、マネーを無制限に貸し付ける用意を整えておかなければならないとしています。
ケインズもパニックには、マネーを十分に供給して、パニックを沈静させ、間接的に需要を刺激することを提案し、さらに、政府が財政支出してでも需要を喚起しなければならないとしているのです。
実際、2008年のリーマンショックでは、アメリカはGDPの4.5%にあたる額を銀行への資本注入しています。
後智恵にはなりますが、日本の財務省は自ら株式と不動産バブルを潰しながら、貨幣流通量を絞り、増税し続けました。日本の失われた30年という実績が、欧米の自信になっているのかもしれません。
紀元33年、ティベリウス皇帝の財務官は、民間の貸し付けブームが過熱しているという進言を受け、この根拠なき熱狂を鎮めるために規制を強化することにした・・・貸付金を規定内におさめようと貸しはがしが始まり、融資がいっせいに引き上げられた・・担保になっていた土地は二束三文で売り払われ、不動産市場は暴落した(p126)
もう一つの貨幣観とは
ただ、この本では、現在の経済の仕組みは2008年のリーマンショックの結果から不公平であるとしています。つまり、投資による銀行の損失は社会が負い、利益は個人のものになるという現実です。銀行はリスクの高い投資が成功すれば大金持ち。仮に投資が失敗しても、納税者の税金で救済してもらるのです。
したがって、銀行についてはナローバンキング制を採用し、銀行の預貯金を保障したうえで、投資が出来ないようにすることを提案しています。
また、こうした高いリスクを銀行が取ることの背景として、インフレが低く安定していることが原因だとしています。したがって、インフレを押えるよりも、マネーを十分供給して好況を維持し、失業率を低くすることを優先することを提案しているのです。
必然的にインフレとなりますが、インフレにより積みあがった公的債務の軽減も期待できるというわけです。
このような著者が提案する「もう一つの貨幣観」とは、インフレ・ターゲットを廃止して、お金を十分供給すること。インフレで政府過剰債務の負担も軽減させることができるのです。突飛な考え方に見えますが、アベノミクスに近いと感じました。ただ、ナローバンキングにしないと金融機関のリスクの高い投資は続きます。
また、理解が浅いところがあり、もうすこし経済学については調べていきます。日本ではやっとインフレになりそうなのに、価格が上がるとすぐに金利を上げて、増税しようとしますが、正しいのでしょうか。マーティンさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・ケインズ・・ソブリンマネーを十分に供給して、パニックを沈静させ、安全と流動性に対する需要の高まりに対処することで、間接的に需要を刺激する・・民間セクターが支出しないなら、政府が支出しなければならない(p328)
・アービング・フィッシャーの提案・・預金者がいつでも引き出せたり、支払手段に充てたりすることができる預金をソブリンマネーえ保証することを銀行に義務づける。こうした預金業務を手がける銀行は別の業務を行うことは認められない(p393)
・銀行の負債は短期で、額面価値が固定されたままだし、銀行の資産は長期で、額面価値は不確実である・・銀行の変換能力に対する信認が崩れる可能性は消えない(p386)
▼引用は、この本からです
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フェリックス・マーティン (著)、東洋経済新報社
【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
第1章 マネーとは何か
第2章 マネー前夜
第3章 エーゲ文明の発明:経済的価値を標準化する
第4章 マネーの支配者はだれか?
第5章 マネー権力の誕生
第6章 「吸血イカ」の自然史:「銀行」の発明
第7章 マネーの大和解
第8章 ロック氏の経済的帰結:マネーの神格化
第9章 鏡の国のマネー
第10章 マネー懐疑派の戦略:スパルタ式とソビエト式
第11章 マネーの構造改革:ジョン・ローの天才とソロンの知恵
第12章 王子のいない『ハムレット』:マネーを忘れた経済学
第13章 正統と異端の貨幣観
第14章 バッタを蜂に変える:クレジット市場の肥大化
第15章 大胆な安全策
第16章 マネーと正面から向き合う
著者経歴
フェリックス・マーティン(Felix Martin )・・・ライオントラスト・アセット・マネジメント マクロエコノミスト、ストラテジスト。オックスフォード大学で古典学、開発経済学を、ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係学を学ぶ。オックスフォード大学にて経済学の博士号を取得。世界銀行に10年にわたって勤務し、旧ユーゴスラビア諸国の紛争後復興支援に関わる。現在、ロンドンの資産運用会社ライオントラスト・アセット・マネジメントでマクロエコノミスト、ストラテジストとして活躍。
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