【書評】「日本のコメ問題-5つの転換点と迫りくる最大の危機」小川 真如
2026/01/21公開 更新
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【私の評価】★★★☆☆(75点)
要約と感想レビュー
田んぼ余りの日本農業
現在コメ不足で、コメの価格が上がってますが、この本は、コメ余りでコメの価格低下が問題となっていた2022年に書かれた一冊です。
当時のコメ余りは、田んぼが余っているという背景があり、コメを作りすぎたから。現在のコメ不足は、田んぼが余っているものの、コメを作るのが少なすぎたから起きたのです。
現在の農業政策は、田んぼが余っているので補助金によってご飯用のコメ作りを減らしたり、余った田んぼでご飯用のコメ以外の農産物を作ることを支援してコメ需給バランスを取っているのです。そのバランスが崩れると、コメ余りやコメ不足になり、コメの価格が乱高下するのです。
コメ余りの裏には、そもそも余った田んぼがある(p13)
農家の収入と補助金
コメと農業に関わるデータを整理していきましょう。コメの一世帯あたりの年間購入額は2020年には1万8503円で、パンの2万5551円より小さく、麺類の1万6510円と同じ水準です。
20ヘクタール以上の農家の平均収入は1532万円。そのうち農業補助金の割合が77%で1172万円。規模が大きい農家ほど補助金に頼り、コメ以外も多く作っています。例えば、飼料用米作りに1ヘクタールあたり55万~105万円の補助金を出しており、余った田んぼでご飯用のコメ以外の農産物を作ることを支援しているのです。
その一方で、農地の小さい農家では、補助金をもらわず、赤字でもコメ作りを継続しているところがほとんどです。小さい農家が赤字でもコメを作り続ける理由は、自分たちで食べるコメが作れて、コメ作りならば土日に少し働くだけで、手間をかけずに農業を続けられるという背景があるという。
著者は新潟県魚沼地区のようなうまいコメを作れる田んぼや、トウモロコシを作れる田んぼで飼料用米が作られているのは、飼料用米への補助金が税金のムダ遣いと指摘しています。しかし、実際には田んぼは余っており、コメの生産調整のために飼料用米が調節弁として使われているということなのでしょう。
GDP(国内総生産)のうち農業の割合は0.8%にすぎない・・・田んぼの65%しかコメを作っていない(p230)
コメの減反政策の歴史
コメの減反政策の歴史を振り返ってみると、1986年にはじまったウルグアイ・ラウンドで、生産調整から「市場原理と補助金」という方向転換がありました。つまり、減反政策でコメの価格を高く維持する政策はやめて、価格は市場に任せて、値段が下がったら、農家に補助金で所得補償する考え方です。
欧米では市場原理と補助金が同時に導入されたことから、所得が維持されたものの、日本では自由化でコメの価格が下がってから、後で補助金が導入され、コメ農家にとって補助金が不十分であったと評価しています。補助金が不十分とはいえ、その後もコメ余りが続き、コメの価格が安くなり続けたのも事実なのです。
日本の農業政策の実態としては、食料安全保障の危機感を表明しながら、実際には補助金は最低限としつつ、農地が減っていくことは許容しながら、コメの需給バランスを取っているということなのでしょう。
スイスでは2017年、主要国ではじめて食料安全保障の条項を憲法に明記した。農地を守ることなどを内容とする条項が、国民投票によって78.7%の賛成を得たのである(p270)
今後の農業政策への提案
著者の政策レベルの提案は、現在の日本の農地は非常時に自給自足をするには足りないものの、現状の農地を食料安全保障として補助金で維持することです。
今後、日本の人口減少により現在の農地で非常時に自給自足できるようになるのは2050年です。それまで日本の農地を現在レベルで維持し、余った農地は輸出用の農産物を作ることを提案しています。
また個人レベルでの提案は、コメ農家から直接コメを継続して買って、価格にプラス保険料を上乗せすることで、コメ不足でもコメを提供してもらうことを約束する仕組みです。
現在の日本では食料安全保障を主張する人は多いのですが、実際には農地が減り続けているという危機感を著者は感じているのでしょう。いずれにしろ、食料安全保障で農地を維持するのは、保険と一緒でお金が出ていくというデメリットがあり、一方で緊急時に餓死者を出さないというメリットがあります。
著者はスイスを理想としているのではないかと思いました。 農業については、もう少し勉強が必要なようです。小川さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・「テレビでコメ農家の担い手不足が問題と聞くが、全く実感がない」と話すのは、日本のコメどころの一つ、山形の庄内平野でコメを作る鶴岡市のB氏だ。周辺で高齢の農家がコメ作りをやめると、すぐさま周辺のコメ農家による田んぼの奪い合いになるという(p18)
・2022年には、余った田んぼへの補助金を受け取る条件に、今後五年以内に一度でも水を張るというルールが新たに付け加えられた・・・余った田んぼでは果樹や花、芝生が植えられていたり、ビニールハウスが建っていたり、牛が放牧されていたりもする(p239)
・生活用水や工業用水を含めて、国内で使われるすべての水、年間800億立法メートルのうち三分の二が田んぼに使われている(p8)
・補助金をもらってようやく畑作物を作る農家や、コメが作れないなら休耕してしまう農家・・・「そもそもコメしか作れないような田んぼがある」という素朴な理由が根底にある(p113)
▼引用は、この本からです

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小川 真如 (著)、中央公論新社
【私の評価】★★★☆☆(75点)
目次
第1章 コメと田んぼに分けるとみえてくるコメ問題の今
第2章 コメに満たされた日本人―第一の転換点・一九六七年
第3章 コメ余り問題から田んぼ余り問題へ―第二の転換点・一九七八年
第4章 コメ問題の国際化―第三の転換点・一九九三年
第5章 水田フル活用という思想の誕生―第四の転換点・二〇〇八年
第6章 現代のコメ問題の根底
第7章 農地が余る時代の到来―第五の転換点・二〇五二年
著者経歴
小川真如(おがわ まさゆき)・・・1986年(昭和61年)、島根県に生まれる。2009年、東京農工大学農学部生物生産学科卒業。同大学農学府共生持続社会学専攻修士課程修了。早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。現在、農政調査委員会調査研究部専門調査員、東京農工大学非常勤講師、恵泉女学園大学非常勤講師など。専門社会調査士、修士(農学)、博士(人間科学)。専攻・農業経済学、農政学、人間科学。
食料安全保障関連書籍
「日本のコメ問題-5つの転換点と迫りくる最大の危機」小川 真如
「人口減少時代の農業と食」窪田新之助,山口亮子
「国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係」鈴木 宣弘, 森永 卓郎
「日本一の農業県はどこか:農業の通信簿」山口亮子
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