【書評】「ニッポンの移民―増え続ける外国人とどう向き合うか」是川夕
2026/03/04公開 更新
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【私の評価】★★★☆☆(72点)
要約と感想レビュー
日本の移民の現在地
著者は厚生労働省の調査機関である国立社会保障・人口問題研究所の国際関係部部長です。日本の移民の方針をデータに基づき、提言する立場でしょう。
日本の外国人人口割合は3.0%です。ドイツ、フランス、英国、米国などは10~18%で、大量の移民を受け入れた大先輩です。現在、欧米では治安の悪化、賃金低下、住宅不足などを理由に、移民を制限しようとする政党が躍進。政策転換しています。英国は国境での移民管理の破綻を主な理由として、欧州連合(EU)から離脱してしまいました。
日本でも外国人がたった3%で、外国人による犯罪や非行が指摘されています。
ところが著者は、川口市のクルド人、医療費制度の濫用、出稼ぎ目的の留学生、ごみ出しルールを守らず、騒音問題を引き起こす外国人は荒唐無稽で例外的事例ばかりと切って捨てています。日本に移民問題は全くない!と言い切れる根拠は、どこにあるのでしょうか。
欧州では、ドイツ、フランス、スウェーデン、オーストリアなどにおいて、移民排斥を公約に掲げる政党が躍進している(p19)
外国人に対する不安
著者は「外国人に対する曖昧な不安」は、長引く日本経済の低迷、少子高齢化といった構造的な課題に対する不満や怒りのはけ口として、造られていると解説しています。この著者の見解は、欧米で移民の増加による治安の悪化、賃金低下などが起きている事実を無視した回答です。曖昧な回答といえるでしょう。
また著者は、日本にいる非正規滞在者は、7万9000人で外国籍人口の"わずか"2.2%と表現しています。非正規滞在者が7万人は全体から見たら「わずか」かもしれませんが、犯罪件数や犯罪率から将来、欧米のようにならないか長期的視点で検証してもらいたいものです。
不安になるのは、日本のハイスキル外国人の約2/3が「技術・人文知識・国際業務」の資格で在留しているとし、高い技能を持つことが永住につながると、著者が淡々と説明しているところです。「技術・人文知識・国際業務」については、なんちゃってハイスキル外国人が多いと話題になっているのを知らないのでしょうか。
その一方で、国民健康保険の外国人の納付率が63%と日本人(93%)よりも低いことについては、国民健康保険に加入する外国人の多くは18~22歳の留学生と考えられ、外国人人口全体を代表していないとしています。これは一理あります。
高額医療費制度に関しては、外国人の利用率は人口比で見た場合、日本人の1/3程度で、日本の公的医療保険制度目当てでの移住が増えていることはないとしています。これも一理あります。
日本にいる非正規滞在者は、最新の値で7万9113人であり・・外国籍人口に占める割合はわずか2.2%(p32)
育成就労制度は「ダムの決壊」
現在、日本でロースキル人材でも永住できる制度は、特定技能制度です。介護、製造業、建設業、宿泊、農業、外食業、林業などでスキルを持つ外国人が一定の要件を満たせば永住できるのです。著者は特定技能制度を日本の入管行政において、「ダムの決壊」のような画期的な転換点としています。実質の移民制度なのです。
恐ろしいのは、2027年度に永住できない技能実習制度を廃止し、永住に道を開く育成就労制度が施行されることです。著者は「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の有識者の一人として育成就労制度を提言したのです。
著者は、人口が減り人材不足が深刻な日本では日本人との職の奪い合い、失業による貧困、社会保障への圧迫といった問題は構造的におこりにくいと書いています。こんな定性的な理由で、さらに「ダムの決壊」を起こそうというのが著者の考えなのです。
日本の移民政策が労働移民を中心としつつも、なぜ国際的に見て永住型による受け入れが多く、また、永住者を始めとした定住外国人に対して参政権を除けば、ほぼ日本人と変わらない権利を付与するリベラルな特徴を持つ(p80)
移民を受け入れないのは排外主義
著者はOECDの移民政策会合に参加しています。しかし、OECD移民政策会合に参加する多くの国では移民を厳しく制限し、不法移民の強制送還を行っている現実があります。
著者は、そうした排外主義は欺瞞的なものであり、社会の担い手となっている不法移民を強制送還するのは、国家そのものに対する不信となり、民主主義を破壊していくと批判しています。
さらに著者は日本の移民制度が排外主義的なものからリベラルなものへとシフトしてきたと総括し、もし、日本が再び排外主義的な体制に戻るならば、それは「レイシズム」そのものであると表現しています。
これは問題のある表現だと思います。なぜなら著者は、過去の実績やデータにより政策を提言する専門家の立場でありながら、差別的な「レイシズム」という表現をあえて使って意見を主張しているからです。
著者は、欧米の政策を「レイシズム」と感情的に嫌悪しているということです。生活に苦しんでいる欧米の市民の実態はどうなっているのか、データと調査によって明らかにするのが、著者の仕事のはずなのにです。
今、日本各地で40万人の技能実習生が働いています。私なら、外国人ではなくまずは国内失業者180万人に職を与えることに力を尽くすべきではないのかと思いますが、皆さんはどう思いますか?
できれば専門家としてデータに基づき、あるべき姿を提言していただきたいものです。是川さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・日本は「永住型」「一時滞在型」併せて年間約36万人の労働移民を受け入れており、これは先進国中、第7位の規模となる(p54)
・在日コリアンの諸権利が国際条約の批准によってナショナルレベルで制度化され、その後の日本の移民政策における人権的基礎を提供した(p95)
・他の先進国では、外国人労働者は基本的に季節労働者など期限付き労働力であり、また留学生も高い学費を徴収する「金づる」としての位置づけにとどまり、永住まで視野に入れた受け入れは例外的である(p55)
・(日本の)永住者についてはその賃金は日本人と比べても遜色ないか、あるいはむしろ高いといった分析結果も得られている(p32)
▼引用は、この本からです

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是川夕 (著)、筑摩書房
【私の評価】★★★☆☆(72点)
目次
序章 増え続ける外国人
第1章 「日本に移民政策はない」は本当か?―現代日本の移民政策
第2章 少子高齢化と移民を考えるために―移民政策の歴史
第3章 人はなぜ国境を越えて移動するのか?―移民理論の現在地
第4章 技能実習制度は「現代の奴隷制度」なのか?―成長するアジアと日本
終章 吹き荒れる排外主義の中で―移民政策の未来
著者経歴
是川 夕(これかわ ゆう):1978年青森県生まれ。国立社会保障・人口問題研究所国際関係部部長。東京大学文学部卒業。カリフォルニア大学アーバイン校修士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(社会学)。内閣府勤務を経て現職。OECD移民政策会合メンバー。OECD移民政策専門家会合(SOPEMI)メンバー。
移民関連書籍
「ニッポンの移民―増え続ける外国人とどう向き合うか」是川夕
「今や世界5位 「移民受け入れ大国」日本の末路「移民政策のトリレンマ」が自由と安全を破壊する」三橋貴明
「外国人雇用のトリセツ」井上直明
「移民 難民 ドイツからの警鐘 たった10年で様変わりしたヨーロッパ」川口マーン恵美
「未来年表 人口減少危機論のウソ」高橋 洋一
「ルポ 外国人ぎらい EU・ポピュリズムの現場から見えた日本の未来」宮下 洋一
「「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本」安田 峰俊
「コンビニ外国人」芹澤 健介
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