「「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本」安田 峰俊
2024/10/02公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(83点)
要約と感想レビュー
外国人が自己消費目的で家畜を窃盗
2020年に群馬県でブタ約720頭、ニワトリ約140羽、ウシ一頭とナシ約5700個などの窃盗が確認されました。盗んだのは、逃亡した技能実習生などの不法滞在外国人であると考えられています。逃亡した技能実習生や不良化した留学生が、自己消費目的で家畜を窃盗したり、偽造身分証を使い、免許なし、保険なし、車検なしで飲酒運転を繰り返したり、転売を目的とした組織的な窃盗を行う事例が多いというのです。
当時(2019年末)、国内で働く技能実習生は約41万人で、うち過半数の21.8万人がベトナム人であり、2019年に失踪した技能実習生は8796人でした。2018年の刑法犯検挙件数は中国人1795件、ベトナム人2993件となっています。この本では、主に最近増えてきたベトナム人の逃亡技能実習生や偽装留学生に焦点を当てていきます。
来日中国人の刑法犯検挙件数は2006年に約1万件に及んでいたが、2018年には1795件・・同じ期間、来日ベトナム人の刑法犯検挙件数は1517件から約2倍の2993件に増えた(p81)
養豚場から子ブタを盗んでみんなで食べた
お金稼ぎに忙しい逃亡技能実習生や偽装留学生は、自分たちを「ドボイ」(兵士)と自称しています。フェイスブック上には「ドボイ・グンマ(群馬)」などの、ベトナム語のコミュニティが存在し、逃亡する方法や日本人との偽装結婚の手引き、白タクサービス、車検証や銀行口座の売買など、怪しげな情報が交換されているという。
一般のマスコミでは、こうした不法滞在者を悪徳業者に騙され安い賃金で過酷な労働をさせられている弱者や被害者として報道しますが、実際には違うことが多いという。むしろ異国である日本で金を稼いで、借金を返済し、自国の家族の仕送りをするためにギラギラしている人が多く、取材していると腹が立つことがあるという。
例えば、不法滞在者が、無免許で飲酒運転して事故を起こす事例も多発しています。日本育ちのベトナム人の話では、「不法滞在者は、無免許運転をやっても捕まらないと思っているし、実際、検問も多くないのでバレない」というのです。ベトナム人と付き合っていた女性は、「技能実習生寮の庭で、ベトナム人実習生が養豚場から盗んできた子ブタの丸焼きを十数人で食べた」と証言したという。
コロナ禍以前、2018年の一年間に日本国内で失踪した技能実習生は9052人、2019年も8796人に達した。大部分のケースでは、低賃金に嫌気がさしたことが動機である(p7)
低賃金で借金を返せないと逃亡
外国人技能実習制度の問題は、低賃金を前提としたうえで、現地の送り出し機関、日本の監理団体が中間搾取する構造になっているからだという。まず、技能実習生は出国前に多額の借金をして、現地のブローカーや送り出し機関に50~150万円ほどの費用を支払って来日している場合が多いのです。そして日本の受け入れ先企業の給料が最低賃金レベルでしかなく、借金を返せないとなると、逃亡してより稼げる仕事をしようとするのです。
ただ、実は技能実習生を雇用する企業は、まともな事業者がほとんどなのですが、悪質な事業者に歯止めをかける仕組みが弱く、一部で悲惨な事例が発生することがあるというのです。さらに現地のブローカーや送り出し機関に騙されるように来日する技能実習生は、ベトナムの中でも低位の出身者が多くなります。彼らはブローカーに「簡単に儲かる」などと言われて、簡単に騙されて多額の費用を支払って日本に来るというわけです。
本来は技能実習法で禁止されている送り出し機関から10万円程度のキャッシュバックを受け取る監理団体がいまだに存在するなど、真面目にルールを守るほうが損をする構造になっていると著者は説明するのです。
外国人技能実習制度は全体的な制度設計それ自体に欠陥があるので、送り出し機関・監理団体・受け入れ先企業の三者のいずれにも悪質な業者が入り込みやすく、問題の責任の所在がよくわからない(p127)
年間1万人程度の技能実習生が逃亡
最初に説明した大量の家畜盗難事件は、こうした不法滞在者が日常的に一日に一頭といった小規模な窃盗を繰り返し、たまたま2020年にチェックしたら膨大な被害が明確になったのではないかと著者は推測しています。
低賃金に嫌気がさして年間1万人程度の技能実習生が逃亡して、隠れてお金を稼ぎ続けています。仮に1万人の逃亡者が1年に1回ブタを盗んで10人でバーベキューをするとすれば、1000頭くらいの被害で数字は合うのです。実際には逃亡者の1割が月1回、養豚場から1匹盗むという感じでしょうか。
低賃金の外国人労働者を雇っている日本の受け入れ先企業は、養豚場や養鶏場に食費代を払わなくてはならないのではないでしょう。また、無免許、無保険、無車検の不法滞在者の飲酒運転の事故も増えていくことでしょう。何人の日本人が被害に合ったのか積算し、利益を得ている日本の受け入れ先企業が被害を補填するべきなのでしょう。安田さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・学習よりも就労を主たる目的としている外国人留学生を「偽装留学生」と定義するなら・・国費留学などの連中を除けば、ベトナム人留学生の8~9割は偽装である(p85)
・外国人留学生の就労は、法的には週に28時間以内にとどめるよう定めているが、彼らの周囲に「そんなものを真面目に守っている人は誰もいない」。職場を掛け持ちすればバレないという(p87)
・偽装結婚・・・女性なら50万~100万円、男性なら数百万円をブローカーに支払って日本人と結婚したことにすれば、就業内容にまったく制限がない究極の滞在資格が手に入るのだ(p90)
【私の評価】★★★★☆(83点)
目次
第一章 コロナ、タリバン、群馬県――隣人は平和な「イスラム原理主義者」
第二章 「兵士」たちの逃亡と犯罪――主役は中国人からベトナム人へ
第三章 頼りなき弱者――ベトナム「送り出し」業者に突撃してみれば
第四章 「低度」人材の村――ウソと搾取の「破綻した制度」
第五章 「現代の奴隷」になれない中国人――稼げない日本に見切りをつけるとき
第六章 高度人材、低度人材――「日本語だけは上手い」元技能実習生
第七章 「群馬の兄貴」の罪と罰――北関東家畜窃盗疑惑の黒い霧
著者経歴
安田 峰俊(やすだ みねとし)・・・1982年滋賀県生まれ。ルポライター。朝日新聞論壇委員(2023~2024)。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科博士前期課程修了。2018年に『八九六四「天安門事件」は再び起きるか』で第5回城山三郎賞、19年に第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
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