「ルポ 外国人ぎらい EU・ポピュリズムの現場から見えた日本の未来」宮下 洋一
2024/09/11公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(70点)
要約と感想レビュー
イギリスでは移民で病院が4週間待ち
外国人を大量に受け入れたヨーロッパでは、治安が悪化し、医療制度が崩壊。イスラムの同時多発テロも起きて、移民、難民の受け入れを減らそうとする政党が議席を増やしています。この本では、フランスやスペインを拠点にフリーの記者として活動する著者から、ヨーロッパの現状をレポートしてもらいます。
まず、ドイツではドレスデンから電車で20分の郊外にあるアマーリエ・ディートリッヒ広場を取材しています。この周辺は、外国人移住者による窃盗、強姦、殺人が急増し、2015年犯罪件数16件が、2018年には300件を超えたという。
イタリアでは不法移民が2015年15万人、2016年に18万人でしたが、サルビーニが内相が難民・移民の審査を厳格化し、2019年には1万1471人まで減少したという。
EUを離脱したイギリスでは、農業を主要産業とするボストンを取材しています。ボストンでは多くの移民が、農業の労働者として受け入れられてきたのです。ところがボストンでは、移民の増加により、病院で診てもらうのに4週間待ちだという。学校でも60%が移民の子どもであり、英語を覚えず働かないのに福祉給付金をもらう外国人に不満が高まり、EU離脱の背景となっているようなのです。
農業を主要産業とするボストンでは、移民労働者の存在は欠かせないという現実問題も孕んでいる(p159)
イスラム原理主義のテロ事件
移民を大量に受け入れたことで、イスラム原理主義者によるテロ事件がヨーロッパで発生しています。フランスでは2015年に週刊風刺新聞「シャルリー・エブド」の12人が殺害され、11月にはイスラム原理主義者らによるテロで130人が亡くなっているのです。
オランダでは、イスラムを批判していた政治家・ピム・フォルタイン党首が射殺されました。反イスラムの映画監督テオ・ファン・ゴッホもオランダ国籍のモロッコ系二世に暗殺されています。こうした背景から、オランダでは反イスラムの自由党が議席を増やしているのです。
(オランダ)急進右派・自由党の党首ヘルト・ウィルダース・・イスラムが支配する場所には、民主主義、法の支配、司法の独立がなく、報道の自由もない(p56)
フランスの郊外はゴミとゴキブリ
著者はフランス・パリから北に電車で20分のサン・ドニ駅を取材しています。サン・ドニ駅を降りると、アフリカ系移民ばかりで、道端にはゴミが散乱。腐臭が漂い、ゴキブリが這いまわっていたという。警察官に聞くと、この地区では一日に20~30件の窃盗事件や麻薬取引が行われているという。
フランスは1974年、バレリー・ジスカール・デスタン大統領の時代に、移民労働者の家族呼び寄せを可能としたことで、移民が急増し、それに伴いイスラム教徒の数も増え続けたという。フランスは自由・平等・博愛の国ですが、博愛とは、フランスに愛される行動を取ることが前提です。イスラム教が、「郷に入れば郷に従え」という宗教であれば、問題はなかったのでしょうが、そうはいかなかったのです。
フランスの経験から・・・人権の名の下で、国が寛容政策に傾倒しすぎると、社会的混乱を招く(p144)
無条件に難民、移民を受け入れてはならない
再エネを導入したドイツの電気料金が2倍となったのと同じように、日本でも再エネと原発停止で電気料金が1.5倍となりました。移民で苦しむEUと同じように、日本でも移民で苦しむ時代が来るのでしょう。
EUからの学びは、可愛そうだからといって無条件に難民、移民を受け入れてはならないということです。ここからは私見となりますが、労働者不足から移民を受け入れざるを得ないのは間違いありません。できるだけ犯罪やテロを行わない人を選別したうえで、日本に受け入れることが重要なのだと思いました。
なお、本書の著者は移民や難民に対する否定的な発言をする人を「差別主義者」や「排外主義者」としており、偏った見方をしている人だと思いました。宮下さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・人々は、EUのために生きることよりも、自国のために生き延びる手段を探り始めているのである(p20)
・移民や難民・・・もし公共の場で、彼らを批判すれば、「差別主義者」や「排外主義者」だと見なされてしまう(p41)
・ユーロが導入される前のスペインも経験している私は、共通通貨になってから年々、物価上昇が進み、いつの間にかペセタの時代よりも2倍の水準になっていることに気がついた(p113)
【私の評価】★★★☆☆(70点)
目次
第1章 チェコ―多文化主義は限界か
第2章 オランダ―「寛容になりすぎた国」?
第3章 ドイツ―揺れる難民大国
第4章 イタリア―問題は移民ではない
第5章 フランス―「人権大国」での生き難さ
第6章 イギリス―ブレグジット前夜の国を歩く
第7章 日本―「隠れ移民大国」の未来
著者経歴
宮下 洋一(みやした よういち)・・・1976年、長野県生まれ。米ウエスト・バージニア州立大学外国語学部卒業。スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。スペインの全国紙「エル・ペリオディコ」で記者経験をし、フリーに。6言語を駆使し、フランスやスペインを拠点に世界各地を取材。
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