【書評】「フィリピンパブ嬢の経済学」中島弘象
2025/02/28公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(77点)
要約と感想レビュー
フィリピン女性の偽装結婚問題
著者は大学院生だった頃、フィリピンパブを研究しているうちに、知り合いとなったホステスのフィリピン人女性と結婚してしまったという。大学院を卒業後は就職せず、アルバイトや日雇いの仕事を時々しながらヒモのような生活をしていました。
フィリピン人女性と結婚してわかったのは、フィリピンパブにいるフィリピン女性の多くは、ブローカーに多額の借金をして、偽装パスポートや偽装結婚、偽装認知などの方法で入国しているということです。
ブローカーとの契約期間は売上ノルマを課され、売上の一部を借金の返済にピンハネされ、違法入国したフィリピン人女性たちはブローカーの奴隷のような生活を送っているのです。
2011年頃は契約期間が2年か3年が多かったが、今は4年か5年が多い(p212)
フィリピンへの送金問題
フィリピン人と結婚して問題となるのは、フィリピンへの送金です。日本へ違法入国する理由が金を稼いでフィリピンに送金することですから、送金は当然のことなのです。
著者の妻は、毎月20万円以上フィリピンに送金していました。結婚すれば著者の収入の中からフィリピンに送金することになるので、「フィリピンに送金したら貯金できない」「自分たちの日本の生活とフィリピンの親族のどちらが大切なのか」と揉めることになるのです。
さらに、フィリピンに帰国すると親戚が集まってきてお土産やお金を無心してきます。フィリピンでは本当に仕事がないことや、お互いに助け合うという文化があるのが背景なのでしょう。
結局、家族のために頑張って働き、送金したことにより、送金することが当然のこととなり、送金しなくなったり減額すると親族との関係が悪くなってしまうことが多いようです。
親戚の中にはミカに会いに来るというよりも、土産や金欲しさだけに尋ねてくる人も多く「食べ物代が欲しい」や「気持ちだけでいいから少しお金をくれ」(p105)
フィリピンハーフ問題
2022年時点で在日フィリピン人の数は29万人以上、そのうち7割が女性なので、こうした背景を持っている人が多いと推察されます。違法に来日したフィリピン女性は、在留資格を合法的に得るためには日本人と結婚するのが近道です。その結果、フィリピンハーフが大量生産されるのです。
この本ではフィリピンハーフやフィリピンから呼び寄せられた子どもを紹介していますが、日本人と馴染めないことで問題も多いようです。外国人の間で覚せい剤や大麻が蔓延していたり、窃盗などの犯罪に走るハーフもいるわけです。
ただ、日本での理不尽な生活環境や差別されていることを犯罪に走る理由とするのは、合理的ではないと感じました。言い訳にしか聞こえないのです。
「俺はずっと寂しかったんだよ。家族も友達もいない。だから覚せい剤にハマったんだろうな」そう、斉藤さんは呟いた(p180)
違法滞在者問題
著者は日本の厳しい入国管理制度に否定的です。その論法は次のとおりです。
日本の企業は働き手を求めているが、入国管理制度が厳しいので違法な抜け道を使う外国人が出てくるのは当然で、そのため違法なブローカーによって理不尽な環境で働き、違法滞在状態で搾取されることになっている。だから、入国管理制度をもっとゆるくしよう!というわけです。
妻が違法滞在であったということで、全体最適や論理性よりも、個人的かつ感情的な意見のように感じました。まず現在の法律をどう守っていくのかという論点と、今後の移民政策はどうするかという論点で、もう少し現場に密着した説得力ある意見を期待したいのです。
なお、前著は映画化されたようですので、どのような意図が背景にあるのかなど調査を継続します。中島さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・日本に慣れたフィリピン人・・ゴミいっぱい、時間守らない、ほんとストレスばっかり。やっぱり日本のほうが良いね(p54)
・弟たちも大変だったと思いますよ。突然日本に連れてこられて言葉もわからない。周囲に馴染めなくて1人は非行に走りましたね・・1人の弟は、原付バイクの窃盗で何度も警察に捕まった(p159)
・外国人の生活保護打ち切りや、違法行為をした外国人は即強制送還、といった過激な意見もネット上には多い・・・家族としてはどこか疑問に思う(p223)
・犯罪だから「悪い」と断言することは簡単だ・・企業も働き手を求めている。だから、こうした抜け道を使う外国人も当然出てくる(p193)
【私の評価】★★★☆☆(77点)
目次
第1章 子ども、生まれる
第2章 日本で子どもを、育てる
第3章 フィリピンの家族―終わらない送金
第4章 フィリピンハーフに生まれて
第5章 在留資格という関門
著者紹介
中島弘象(なかしま こうしょう)・・1989(平成元)年、愛知県春日井市生まれ。中部大学大学院修了(国際関係学専攻)。会社員として勤務するかたわら、名古屋市のフィリピンパブを中心に取材・執筆等を行う。前著『フィリピンパブ嬢の社会学』は映画化が決定された
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