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【書評】「ウンコノミクス」山口 亮子

2025/06/03公開 更新
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「ウンコノミクス」山口 亮子


【私の評価】★★★☆☆(76点)


要約と感想レビュー


肥料価格の高騰

2022年、ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー価格が高騰しましたが、実は肥料の価格も高騰していました。その原因は、中国が肥料原料の輸出に制限をかけたからです。リン酸肥料工場の取り締まりを中国当局が強化したのだという。


肥料の原料となる尿素、りん安(りん酸アンモニウム)、塩化カリウムの生産国は限られています。例えばリン鉱石は、中国・モロッコ・エジプトの三ヵ国で、世界の経済的に採掘できる埋蔵量の約8割を占めます。


食料安全保障では、食糧の自給率の低さばかり注目されますが、実際には化学肥料が輸入できなくなると国内の農業生産ができなくなるので、化学肥料の自給率のほうがよほど深刻なのです。


そこで著者は、ほとんどが輸入されている化学肥料の代替となる「国内資源であるウンコが重要になる」と主張しているのです。


もし化学肥料が手に入らないと、ごはんと野菜が欠けかねない。味噌と豆腐、卵は、原料あるいはエサの大半が、アメリカ大陸から輸入する大豆なので、化学肥料がなくても用意できる(p20)

ウンコの処理費の高騰

ウンコは下水管で回収され、下水汚泥となります。著者は下水汚泥の肥料化が有望である理由を3つあげています。


一つは、化学肥料の高騰で、下水汚泥の肥料化コストが見合うものになってきたこと。二つ目は、下水汚泥の埋め立て地を確保するのが難しくなってきていること。三つ目は、下水汚泥を原材料として受け入れてきたセメント会社の受け入れ費用が上がってきていることです。


ウンコの処理費が高額化してくれば、肥料化したほうがメリットが出てくるのです。


逆に言えば、現状ではウンコ肥料は、化学肥料に価格で勝てないのです。また、肥料の販売先も確保する必要があるわけで、まだ肥料化の商業化の壁は高いのです。


大阪府も大阪市も、下水汚泥の肥料化はやっていない。埋め立ての方がよっぽど安い(小泉望)(p158)

下水汚泥の農業利用

ただ、フランスでは畑だけでなく、牧草地に肥料として施すことが多く、下水汚泥の農業利用が8割超と紹介されていました。一方、日本の下水汚泥の農業利用は14%であるという。そこに著者は、下水汚泥の活用の将来性を見るわけです。


ただし、畑や牧草地に下水汚泥由来の肥料をまくのは、量が多すぎると、河川を汚染する可能性があることも指摘しています。これらの点については、詳細が記載されておらず、もう少し調査が必要と感じました。


道東では春先、雪がまだ残っている牧草地にスラリーを撒くというグレーな処分が見られる・・雪解けとともに流れ出て、河川を汚染する可能性がある(p247)

ウンコは化学肥料の代替保険

著者の仮説は、人口増加に肥料の増産が追いつかなくなると予想している点です。なぜなら、肥料の原料があまりにも限られた国に点在しているからです。


したがって、現在は赤字であっても、保険としてウンコの肥料化のノウハウを蓄積する必要があるということです。世の中、何が起こるのかわかりませんので、保険としてウンコの活用の知見を持っておくことが重要とわかりました。


山口 さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・日本は、ウンコの排出大国・・総人口は1億2400万人(2024年4月)だから、この国土で毎日、約2万5000トンのウンコが生み出されている(p4)


・2025年度に国交省が下水道の事業費として要求している予算は、2097億7000万円・・下水道事業は営利団体とてしては成り立っていない。だから、下水道料金だけ足りない部分を税金で賄う(p253)


・大阪万博・・大阪市市民の出すウンコやゴミでできた人工の島だ・・・確実に沈んでいくし、いつまたガス爆発するかもしれない。大阪の土木の関係者は、みんな知っている(p134)


▼引用は、この本からです
「ウンコノミクス」山口 亮子
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山口 亮子(著)、集英社インターナショナル


【私の評価】★★★☆☆(76点)


目次


第一章 迫るXデー――リン酸が足りなくなる日
第二章 ウンコ版「夜明け前」――バカにならない温室効果
第三章 再び「金肥」になる――ウンコの山は宝の山
第四章 夢洲(ゆめしま)はウンコ島――悲しき埋め立て処分
第五章 水産から半導体まで――生活を支える資源への回帰
第六章 ウンコは熱い――サステナブルな熱源
第七章 先進国化が絶った循環――ゴミになったウンコ
第八章 食糧輸入大国はウンコ排出大国――合わない養分収支


著者経歴


山口亮子 (やまぐち りょうこ)・・・ジャーナリスト。愛媛県出身。2010年、京都大学文学部卒業。2013年、中国・北京大学歴史学系大学院修了。時事通信社を経てフリーになり、農業や中国について執筆。


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