【書評】「優しい日本人が気づかない 残酷な世界の本音 - 移民・難民で苦しむ欧州から、宇露戦争、ハマス奇襲まで」川口マーン 惠美, 福井 義高
2025/09/18公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
ドイツの政治情勢
この本では、日本人は欧州について何もわかっていないのではありませんか?と問いかける一冊です。川口さんの住むドイツの政治情勢を復習しておきましょう。
メルケルのキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は2021年の選挙で野党となり、今のドイツは社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の連立政権となっています。
ドイツでは、メルケルが2015年に移民を無制限に受け入れると決めたり、脱石炭完了時期を2030年としたり、再生可能エネルギーで電力の8割を供給しようと計画しているという。
これに対し、反移民、反脱炭素を提言するのがAfDです。ところが、AfDを話題にすると、ネオナチの烙印を押され、否定されるというのです。
川口さんの疑問は、AfDの主張は、メルケルが首相になった頃にCDUが主張していたこととほぼ同じなのに、反移民、反脱炭素を主張すると、反民主主義だとか、ネオナチだと一方的に叩かれることです。
こうした議論のない一方的な言論否定を欧州議会議員リシャルト・レグトコは、自ら経験した共産主義と類似していると主張しているという。
つまりドイツでは左派リベラルのSPD(社会民主党)と環境重視の「緑の党」のリベラル勢力が、社会主義国のように言論統制を行っているのではないか、ドイツがおかしくなっていると川口さんは警告するのです。
緑の党は、今では環境党のような顔をしていますが、元は新左翼に端を発し、結党当時は極左の活動家などがたくさんいました(川口)(p152)
ヨーロッパの移民問題
ドイツは1960年頃にトルコ人労働者を大量に受け入れました。その中にクルド人も含まれており、その一部が犯罪グループを組織し、今では国際的な犯罪組織へと成長し、治安を乱しているという。
2015年にメルケルが独断でドイツ国境を開き、無制限に中東難民を受け入れ始めたので、AfDの右派が難民受け入れを批判しています。AfDは勢力を増やしており、これ以上、治安を悪くしたくないのがドイツ人の本心なのです。
現在、ヨーロッパでは事実上移民に支配され、警察も介入できない地域が存在するという。フランスのマルセイユはまるで中東の都市のようになっているのです。
スウェーデンでは、すぐに永住許可を出していた難民政策を、難民を一切拒否する難民政策に変更しています。
川口さんはドイツの既成の党は、自分たちのやってきた移民政策の間違いを認め始め、AfDと同じことを主張しているという。
福井さんの解説では、移民によって、単純労働の低い賃金の労働者の賃金がさらに低下すると指摘しています。経営者は安い労働者を使うことができるので、移民を推進したいのです。移民により、貧乏な人はますます貧乏になり、お金持ちはますますお金持ちになるというわけです。
また、福井さんは異文化の人間が大量に入ってくるというのは一種の侵略であるとし、人間を入れると後戻りはできず、文化共同体としての国家は消えるとさえ警告しているのです。
ちなみに、国連のデータでは、人口当たりの強盗件数は、スイスが日本の14倍、ドイツが31倍、アメリカは61倍。人口当たりの受刑者数は、スイスととドイツが日本の2倍、アメリカが16倍です。
EUでは、多数決でやっていったら、そのうちイスラムのほうが多くなってしまう可能性があります(川口)(p180)
環境とエネルギー
環境問題については、世界的ネットワークを持ち、政治の中枢に浸透し、権力と潤沢な資金で政治を動かしている環境NGO(非政府組織)を川口さんは調査しています。
川口さんは、選挙で選ばれたわけでもない環境NGOの人間が政治力で税金を手に入れて活動し、国政や法案の内容を左右すること自体がおかしいと結論づけています。
極端な例ですが、あるNGOは風車による野鳥の被害を理由に風力発電事業者に訴訟を起こし、被告が寄付すれば訴訟を取り下げることで、資金を集めているという。
面白いところでは、環境NGOのスポンサーであるジョージ・ソロスの運営するヘッジファンドが、炭鉱会社の株式を大量に保有していることです。脱石炭政策に誘導して炭鉱会社の株価を下げ、底値で買い集めることができたのです。
川口さんが批判するのは、日本の脱原発や脱炭素を推進する人たちが、自分たちの再エネビジネスが儲かればいいだけだに見えることです。なぜなら、脱炭素なら原発を稼働したほうが脱炭素できるから主張が矛盾しているのです。
脱原発や脱石油、脱炭素を推進するグループは再生可能エネルギー誘導することによってビジネスが拡大し儲かればいいと思っている。脱炭素というのであれば原発を稼働したほうが目標を達成できるのにそうしないのは矛盾(川口)(p199)
EU自体がチャレンジ
著者の言いたいことは、ユーロができて25年。ドイツといっても、ドイツ統一から150年しかたっていないのです。EUとしてまとまるのは、非常に難しいチャレンジなのです。
したがって、EUではナショナリズム(国家主義)という言葉が、よからぬものとされているという。だから、ドイツメディアが「ナショナリスト安倍」と書く場合は、完全な悪口なのです。
EUに入らないスイスは、国民投票でイスラム教寺院の建設をで禁止しました。スイスの住民の3割が外国人ですが、国籍は与えず、外国人労働者はあくまでゲストとして扱っているのです。
もう少しヨーロッパについて勉強が必要なようです。川口さん、福井さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・AfDは、日本が難民受け入れを制限しているからといって「日本モデル」を見習うべきだと言っています(川口)(p219)
・東ヨーロッパはナショナリズムが強く、反グローバリズムであり、反中東移民です(川口)(p34)
・(ドイツの国防大臣)ボリス・ピストリウスが11月はじめ、「ドイツはしっかりと戦争のできる国でなければならない」と言い出して大騒ぎになった・・戦争をしないためにこそ、軍備を充実させなければならない(川口)(p285)
▼引用は、この本からです
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川口マーン 惠美 (著), 福井 義高 (著)、ワニブックス
【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
序章 日本人はヨーロッパの勢力図を何も知らない
第1章 民族「追放」で完成した国民国家
第2章 ベルリンの壁崩壊とメルケル東独時代の謎
第3章 封印された中東と欧州の危ない関係
第4章 ソ連化するドイツで急接近する「極右」と「極左」
第5章 ドイツを蝕む巨大環境NGOと国際会議
第6章 国家崩壊はイデオロギーよりも「移民・難民」
終章 日本は、嫌われても幸せなスイスとハンガリーを見習え
著者経歴
川口マーン恵美(かわぐち まーん えみ)・・・作家。日本大学芸術学部卒業後、渡独。シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ヨーロッパの政治・文化・経済を、生活者として鋭い感性で分析。
福井義高(ふくい よしたか)・・・青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授。1962年京都市生まれ。1985年東京大学法学部卒業、1998年カーネギーメロン大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。日本国有鉄道、東日本旅客鉄道株式会社、東北大学大学院経済学研究科を経て、現職。CFA。専門は会計情報・制度の経済分析。
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