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「老後の誤算 日本とドイツ」川口マーン惠美

2021/07/23公開 更新
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「老後の誤算 日本とドイツ」川口マーン惠美


【私の評価】★★★☆☆(79点)


要約と感想レビュー

日本とドイツで違う老後

ドイツの要介護の高齢者は全人口の約3.5%、日本の要介護の高齢者は全人口の3.7%。日本とドイツは高齢化という点で非常に似ているという。ドイツでは要介護となった場合、要介護度に応じた現金またはサービスを受けることができます。仮に10万円の現金または20万円のサービスを受けられるときにサービスの半分だけ使った場合は、残りの半分は現金10万円の半分、5万円を現金で返してもらえます。


日本の場合は、自己負担が1割から3割で、家族が頑張ってサービスを受けないとしても自己負担分が減るだけで、頑張ったに応じたお得感という点ではドイツよりも少ない仕組みとなっています。日本の老後のほうが良いと思える点としては、日本には特別養老老人ホームという公的に運営されている料金の安いホームがありますが、ドイツでは非営利でも高額であるところです。


この要因としては、ドイツ人はプライバシーの考え方から「個室でなければいやだ!」という人がほとんど、という背景があるようです。そのため老人ホームが高額なドイツでは、老人ホームを作るよりも、外国人ヘルパーを安く雇って、自宅介護するという方向に進んでいるという。


また、日本とドイツで違う点は、ドイツでは子供に親の介護費を支払う義務があるということです。日本でも「家族の扶養義務」ということで親の介護費は子供が負担しなくてはなりませんが、強制力がないため、生活保護費が使われている場合が多く、ドイツのほうが親の扶養をしなくてはならない子供の金銭的な負担が大きくなっているというのです。


ドイツの老人ホームは、どれもこれも料金が高い・・・年金の他に、かなりの蓄えがなくては、おちおち老人ホームには入れない(p67)

医療格差社会のドイツと患者天国の日本

日本とドイツで最大の違いは医療でしょう。著者は「医療格差社会のドイツと、患者天国の日本」という表現をしています。ドイツにも法的強制保険がありますが、病気になってもすぐに治療してもらえません。すぐに治療してほしければ、高額のプライベート保険に入らなくてはならないのです。


一方の日本では、医療保険料は比較的低く、いつでも治療が受けられ、自己負担分も低いのです。これは他国と比較すると医師が少ないことからも医療関係者が休む暇もなく働いているからと著者は分析しています。いずれ医療関係者の負担を前提とした日本の医療制度が崩壊しないかどうか、著者は心配しているのです。


(ドイツの)法的強制保険だと、急病になっても受け付けてくれる医者がいない・・・保険医は法定強制保険の患者を週に最低25時間は診療しなければならない・・・気休め的な措置だ(p78)

延命治療はしないほうがよい

日本では1人あたりの医療費で見ると、75歳以上の高齢者が、74歳以下の4倍近い医療費を使っています。これは高齢者がただ薬をもらうために病院に行ったりすることだったり、意識もない寝たきり老人に胃ろうをして無意味な延命措置をしていること、病院が最終的な老人ホームになってしまっていることもあるのでしょう。


デンマークではよほどのことがない限り、介護が必要となった高齢者は全員、在宅介護となっています。在宅での介護士の人件費が必要となりますが、それでも在宅ほうが、老人ホームでの介護よりも、コストは安くなるのです。日本もいずれ病院へ入院する老人は減らすしかないのでしょう。いずれ日本の国家財政が厳しくなってくれば、いずれ在宅での治療に変更していかなくてはならないのです。


著者の意見は、仮に意識もなく寝たきりの人々のおかげで、日本の平均寿命が世界一に押し上げられているのなら、延命治療はしないほうがよいのではないか、というものです。仮に平均寿命が短くなったとしても、在宅で枯れるように死ぬことのできる平穏死のほうが本人のためではないかということです。日本でも延命治療が患者を苦しめるということが理解されつつあり、「延命措置を希望しない」という家族が増えています。また、胃ろうを強く勧める医者も減ってきました。胃ろうや点滴や人工呼吸器などは当人のためではなく、家族の満足にしかならないと考えられるようになってきたのです。


日本の国家財政が厳しくなってくれば、女性も老人も働かなくてはならなくなるのでしょう。著者は安倍政権の「一億総活躍社会」という政策に賛成しています。介護や出産があっても、女性が働ける国にするのが、「一億総活躍社会」だからです。海外と比較することで、より多角的に日本の老後と医療の現状を考えることができました。川口マーンさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・ドイツならではの選択肢「在宅介護+私設ヘルパー雇用」・・・安い外国人労働力が調達できるという事情がある(p113)


・ドイツでは、子供は胎児から18歳まで医療や診療や予防注射はすべて無料だ・・・避妊用のピルまで、18歳以下には無料で処方(p86)


・プライベート保険に加入している患者を診れば、法的強制保険の場合に比べて、医者に支払われる診療報酬はずっと高額になる・・・最高で3.5倍。患者に「こんにちは」と言っただけで、最低50ユーロ(約6500円)は入る計算だ(p77)


▼引用は、この本からです
「老後の誤算 日本とドイツ」川口マーン惠美
川口マーン惠美、草思社


【私の評価】★★★☆☆(79点)


目次

序 父と母と老人ホームと私
第1章 人はいかにして介護士になり、介護士を続けるか
第2章 介護の費用の日独比較
第3章 ドイツでは庶民は老人ホームに入れない
第4章 医療格差社会ドイツと患者天国の日本
第5章 北欧の福祉は本当に理想的か?
第6章 医療・介護に市場原理を持ち込んだドイツ
第7章 認知症を受け入れつつあきらめない
第8章 日独の介護士不足はどれほど深刻か
第9章 介護と医療の待遇・職場環境改善闘争
第10章 延命治療をするか、否か?
第11章 社会保障制度に負担かけず長生きしよう
あとがき――皆保険を実現した知恵と実行力を再び!



著者経歴

川口マーン惠美(かわぐち まーん えみ)・・・1956年大阪生まれ。作家、ドイツ・ライプツィヒ在住。日本大学芸術学部卒業後、渡独。1985年、ドイツ・シュツットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科卒業。シュツットガルト在住。


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