「土木のこころ 夢追いびとたちの系譜」田村 喜子
2021/07/22公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(78点)
要約と感想レビュー
「地図に残る仕事」と言われる土木技術者20人の人生を記録した一冊です。土木の現場は3K(きつい、汚い、危険)だけでなく、最近は新3K(帰れない、厳しい、給料が安い)とも言われています。
確かにそうかもしれませんが、土木工事とは100年後にも残る仕事。実際にこの本に記載された20世紀の土木工事は、21世紀の私たちの生活に大きな影響を与えているのです。
・「ぼくたち土木屋にあるのは、3Kではなく、完成させたときの感動のKです」と熱っぽく語った土木技術者たちを私は忘れることができない(p4)
初期の土木工事で感動するのは、水力発電のダムが日本のエネルギーを支え台湾の水利・灌漑工事が農業を変え、社会を変えたということでしょう。
新幹線が北海道から九州まで到達しているのも、青函トンネルや関門トンネルを先人が掘ってくれたからです。こうしたインフラをどう維持しながら新しいインフラを作っていくのか、それが今の私たちに課された課題なのでしょう。
・港湾の建設には綿密周到な調査により、「百年の計」を立てなければならないと廣井(勇)は説いている(p31)
現代の日本はコンクリートで埋め尽くされていますが、特に鉄鋼を使っている鉄筋コンクリートには寿命があります。先人が作り上げたインフラの寿命を延ばすのか、それとも作り直すのか、土木とは百年後の子孫への贈り物です。
そうしたことを再認識させてくれる一冊でした。一人当たり10ページというのは消化不良のところもありましたので、★3とします。
田村さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・八田興一は・・廣井勇教授の国際感覚豊かな薫陶を受け、ただ一人の日本人としてパナマ運河建設に従事した六年先輩の青山士(あきら)の話に触発された・・(p39)
・釘宮磐(いわを)・・・九州と本州を海の底で結ぶ・・・「海峡の人柱となっても、かならず成功させねばならない」(p63)
・永田年(すすむ)・・・大型重機が実現した巨大ダム・・・日本ではつるはしを振るい、モッコを担ぎ、トロッコが砂利を運搬・・・アメリカでは物凄いとしかいいようのない重機を駆使して大工事を行っている(p94)
・港湾工学・・・アメリカではノルマンディ作戦のような海外から上陸に備えて、気象条件、風、波浪予測といった海浜状況や、海岸の砂の調査研究が戦時中から軍事研究として行われていた(p187)
・トビと呼ばれる職人が100人いるとすれば、ほんとのトビは10人、あとはカラスかスズメにすぎないといわれている世界。だが100人のトビのなかに一人だけタカがいる。星野(幸平)親方はそのタカだという定評がある(p156)
【私の評価】★★★☆☆(78点)
目次
田辺朔郎 ―京都に琵琶湖の水を引く
廣井勇 ―土木技術で北の未来を切り拓く
八田與一 ―台湾、不毛の地に命の水を流す
赤木正雄 ―砂防技術に生涯をかけた「砂防の父」
釘宮磐 ―九州と本州を海の底で結ぶ
宮本武之輔―あばれ川を鎮める可動堰
永田年 ―大型重機が実現した巨大ダム
藤井松太郎―難境に挑む鉄道技師の誇り
富樫凱一 ―日本列島を道路でつなぐ
粟田万喜三―名城を支えた石積み技術の伝承
仁杉巖 ―新幹線を走らせたコンクリート技術
星野幸平 ―現場を指揮するトビのなかのトビ
笹島信義 ―男たちの命をかけた黒部ダム
尾崎晃 ―自然を味方につけた港湾技術
高橋国一郎―日本の未来をつくった高速道路
大西圭太 ―安全を守り続けた緻密な保線作業
松嶋久光 ―仲間とともに生きる立山砂防のヌシ
吉田巖 ―明石海峡を横断する夢の吊り橋
高橋裕 ―川と水を知り尽くした河川技術者
小野辰雄 ―現場の命を支える安全な足場
著者経歴
田村 喜子(たむら よしこ)・・・1932年、京都市中京に生まれる。京都府立大学文学部卒業後、都新聞社に入社。その後文筆活動に入る。1982年に『京都インクライン物語』で第1回土木学会著作賞受賞。土木関係をテーマにしたノンフィクションを中心に、数多くの著作を執筆する。
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