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「猿之助、比叡山に千日回峰行者を訪ねる」市川 猿之助, 光永 圓道

2023/06/09公開 更新
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「猿之助、比叡山に千日回峰行者を訪ねる」市川 猿之助, 光永 圓道


【私の評価】★★★☆☆(75点)


要約と感想レビュー

歌舞伎の道は千日回峰行に等しい

著者の市川 猿之助(えんのすけ)といえば、自宅で両親とともに倒れているところを発見され、両親は死亡。本人は一命をとりとめ、警察の事情聴取を受けているという。報道によると猿之助は「死んで生まれ変わろうと家族で話し合い、両親が睡眠薬を飲んだ」と話しているとのこと。猿之助さんとはどういった人なのか、知りたくなって読んでみました。


なぜ、猿之助が千日回峰行を終えた阿闍梨を訪ねたのかといえば、猿之介は、「歌舞伎の道は千日回峰行に等しい」と考えているからだと思われます。つまり、千日回峰行は始めたら最後までやり切らなくてはならない。できないときには、自害するための剣を帯同しているくらいの覚悟を持って取り組み、満行すれば仏になるのです。同じように猿之助も歌舞伎の家系に生まれたからには、死ぬまで歌舞伎をやり遂げなければならないし、自分が歌舞伎を支えていく仏に近いものだという使命感を持っていることがわかります。


・私も四歳で初舞台、小学校二年で亀治郎を襲名したので、学校は二時限だけ受けて早退、そこから芝居といったような生活が当たり前だった(p146)


猿之助の悩み

興味深いのは、猿之助が悩み、葛藤していることを阿闍梨に相談していることでしょう。


歌舞伎の内容がよくても、お客様に来ていただかないことには、いい芝居といえないのではないか。どこで折り合いをつけるしかないのだけれど、どうすればよいのか。
お経は釈迦が亡くなってから編纂され、基本は口承伝承だからもしかしたら全部、虚構かもしれない。同じように歌舞伎も口承伝承だから、どう伝承していくのか。どう変えていくのか。


その一方で、人を導く立場にある私や阿闍梨のような人は、震災で苦しんでいる人を見たら、自分のせいだと苦しむくらいの責任感、危機感があってもいいんじゃないかと猿之助は言っています。良く言えば、歌舞伎を支えていくという運命の重圧を感じながら、自分を追い込んでいる。悪く言えば、自分には生まれつき使命があるのだから、自分が決めた道を進むのだという、傲慢さというものも垣間見れるのです。


・使命があるうちはどんなことがあっても仏様から生かされるだろう、歌舞伎のために。そんな妙な自信があるんですね(猿之助)(p177)


銀座の街並みが頭の中に浮かんできてしまう

猿之助が仏教を研究していることがわかります。先人から伝えた教えを代々継承していくという点では、仏教と歌舞伎に共通点を見出しているのでしょう。


その一方で、腰が痛くなった日に朝まで飲んで、そのまま次の日の公演に向かったことがること。歌舞伎をやりながら、急に銀座の街並みが頭の中に浮かんできてしまって、どうしようもなくなることも告白しています。歌舞伎の世界は治外法権と言われているようですが、修行ともいえるような過酷な稽古と公演の生活の中でのストレスと、制御できない自分の欲望にさらされている猿之助の姿が浮かび上がってきました。


猿之助さんについてはもう少し調べたいと思います。良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・舞台に臨む気持ちとしては、一日一日のリセット・・毎日リセットと思って生きれば、死もそんなに恐れることではないのでは、と。(猿之助)(p232)


・100%の実力のある人が腹八分に抑えるからいい・・最初から何か上品ぶってやるのは違うと思うんですよね(猿之助)(p72)


・自分に納得がいかないことは絶対にやらないっていう、それだけは守ろうと。あくまで、歌舞伎の上でのことですけど(猿之助)(p158)


・波っていうのは絶対なくならないものなんですよ。で、調子がいいなと思って頑張りすぎると、次、へこむ、ばてるちうか、その繰り返し(阿闍梨)(p193)


・済んでしまったことはもう絶対に元には戻らない、と。だったら、もうそこは潔くしないとダメなんですね。もう「しかたない」で終わらせるしかないんです(阿闍梨)(p249)


▼引用は、この本からです
「猿之助、比叡山に千日回峰行者を訪ねる」市川 猿之助, 光永 圓道
市川 猿之助, 光永 圓道、春秋社


【私の評価】★★★☆☆(75点)


目次

第1話 行が教えてくれたこと
第2話 道との遭遇
第3話 ここから入る仏教―読経の風景・声・音
第4話 時代・境遇・世間
第5話 ザ・歌舞伎 行のスタンス
第6話 「見えざるもの」のありか



著者経歴

市川猿之助(いちかわ えんのすけ)・・・1975年生まれ。屋号=澤瀉屋。 慶應義塾大学文学部国文学専攻卒業。父は四代目市川段四郎。亀治郎で活躍の後、2012年、伯父(三代目)から市川猿之助を襲名。確かな実力派の若手歌舞伎役者。2007年、NHK大河ドラマ「風林火山」の映像初出演。2023年、猿之助は都内の自宅で両親とともに倒れているところを発見され、両親は死亡。本人は一命をとりとめた。報道によると猿之助は「死んで生まれ変わろうと家族で話し合い、両親が睡眠薬を飲んだ」という趣旨の説明をしているという。


光永圓道(みつなが えんどう)・・・1975年生まれ。1990年、比叡山にて得度受戒。1997年、花園大学仏教学科卒業。2000年、延暦寺一山・大乗院住職。2007年、師僧光永覚道大行満大阿闍梨と養子縁組し、光永姓となる。2008年、明王堂輪番拝命。2009年、千日回峰行満行。北嶺大行満大阿闍梨。2015年3月1日、十二年籠山行遂業。


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