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「世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか」川口マーン惠美

2023/05/10公開 更新
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「世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか」川口マーン惠美


【私の評価】★★★☆☆(76点)


要約と感想レビュー

2035年にガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止

EU(欧州連合)が、2035年にガソリン車やディーゼル車の新車販売を禁止する法案を採択したというニュースを見て読んでみた一冊です。日本政府も、2035年までにガソリン車およびディーゼル車の新車販売を禁止する方針だという。この本で指摘するのは、欧州での環境規制は常軌を逸しているということです。例えば、ドイツの戸外の大気の二酸化窒素の規制値は40μg/m3ですが、労働環境基準ではオフィスは60μg/m3、工場では950μg/m3まで許されているという。そこまで厳しくする必要があるのか? というのが著者の感覚なのです。


また、17歳のスウェーデン人グレタ・トゥンベリさんは「南の島は沈み、沿岸の都市は消えてしまう」「人類は苦悩し、死んでいく」と主張し、ドイツ人はそれを称賛し、マスコミが毎日のように取り上げているというのです。同じように「ディーゼル車は人を殺す」などと主張する環境NGOであるDUH(ドイツ環境援助機構)は環境警察のように活動しており、環境関係の違反を発見すると警告書を送りつけ、警告手数料として数万円の支払いを要求することもあるという。


・EUの機構温暖化対策・・2050年にはニュートラルにする・・CO2の排出量を・・プラスマイナスゼロにする(p114)


誰かが石油メジャーや産油国をつぶそうとしている

著者が不思議に思っているのは、ガソリン車を廃止し、石炭火力発電を止めれば、ドイツ経済は縮小し、失業者が増え、しかも、世界のCO2は減らないという矛盾です。既にドイツでは、高額な再生可能エネルギーを大量導入し、石炭火力・原子力を減らすことで電気料金が2倍以上となっています。EUがどれだけの経済的犠牲を払ったとしても、CO2の半分を排出しているのはアメリカと中国であり、CO2濃度に大きく影響しないのです。そもそもCO2と地球温暖化の関係も明確ではありません。


著者の推測は、誰かが石油メジャーや産油国をつぶそうとしているのではないか、ということです。つまり、先進国でガソリン車やディーゼル車の販売が禁止となれば、アラブ諸国やロシアなどの産油国と石油メジャーは壊滅的な打撃を受けることが明確だからです。欧米では環境規制はライバルを蹴落とすために利用されてきました。例えばアメリカの自動車排ガス規制であるマスキー法の場合は、日本を蹴落とせないとわかった段階で、法律は骨抜きにされています。つまり、規制には別の目的がある場合が多いのです。


・どこの政府も伸び悩む電気自動車の背中を、巨額な補助金で押そうとしている(p132)


CO2削減の経済的負担

著者が問いかけるのは、ここまで経済的負担の増加が明らかなのに、なぜ、国家がこれほどまでにCO2削減を進めるのかということです。どこかに黒幕がいるのだろうかということです。しかし、この本に答えは書いてありません。


欧米では中世に女性を「魔女」として殺害したことがありました。今、環境問題に熱狂している人たちは、自動車と石炭・石油産業を殺そうとしていますが、本当に大丈夫なのでしょうか。川口さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・2015年・・・フォルクスワーゲン社がディーゼル車に不正ソフトを搭載していたという報道・・不正を摘発したのは、アメリカの環境保護庁だ(p93)


・現在のEUの環境政策の歪みは、すべてが「人間が排出してきたCO2が地球の温度を上げ、北極と南極の氷を溶かし、まもなく南の島を沈めてしまう」という仮説の下で行われている・・それ以外の学説は受け入れない。それ以外の学説は、しかし、多くある(p122)


・銅が、電気自動車の急増により、にわかに不足し始めると言われている。それどころか、2030年には供給不足になる可能性もある(p147)


▼引用は、この本からです

川口マーン惠美 、KADOKAWA


【私の評価】★★★☆☆(76点)


目次

第1部 自動車の産業化に欠かせない国家の力
 第1章 それは二人の「夢」から始まった
 第2章 大衆化に成功したアメリカの戦略
 第3章 世界から日本のGDPが羨まれた時代
 第4章 ドイツにとって自動車とは自由の象徴
 第5章 冷戦の終結は世界経済をどう変えたのか

第2部 「電気自動車シフト」の裏側を見抜く
 第6章 ディーゼルゲートをめぐるドイツの事情
 第7章 「地球温暖化を止める」という理想主義
 第8章 電気自動車が世界に広がらない理由
 第9章 電気自動車は本当に「地球にやさしい」のか

第3部 「新」経済戦争はどの国が制するのか
 第10章 ITシフトした大国・アメリカの野望
 第11章 激化する米中戦争と変わる世界地図
 第12章 ITと自動車が新たな巨大市場を生む
 第13章 「新しい生活」は自動車革命から始まる
 終章 熾烈な「新」経済戦争を日本は勝ち抜けるか



著者経歴

川口マーン惠美:(かわぐち まーん えみ)・・・作家(ドイツ在住)。日本大学芸術学部卒業後、渡独。1985年、シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。著書に、『移民 難民 ドイツ・ヨーロッパの現実 2011-2019』(グッドブックス)、『そしてドイツは理想を見失った』(角川新書)、『ヨーロッパから民主主義が消える』(PHP新書)ほか多数。2016年、『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)で第36回エネルギーフォーラム賞・普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)で第38回同賞・特別賞を受賞。


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