「騙されないための中東入門」高山 正之, 飯山 陽
2024/01/02公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
イランがハマスに軍事資金援助
元産経新聞テヘラン支局長とイスラムの専門家がイラン、トルコなど中東問題の本質について対談しています。2023年2月に出版されているので、10月のハマスのイスラエル攻撃の背景も説明されています。
まず、イスラエル関係では2020年のイスラエル、UAE、バーレーンのアブラハム合意によって、イスラエルとアラブ国家との関係が正常化に向かっていました。そうした正常化に反対していたのが、イラン(ペルシャ)です。イランはパレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスに軍事資金援助しており、今回のイスラエル攻撃につながったということになります。
イランは武装勢力に軍事支援することで間接的にイラク、イエメン、シリア、レバノン、パレスチナ自治区を支配しており、その軍事支援に国家予算の半分くらいを使っているという。そのパレスチナ自治政府は、イスラエル人を攻撃し殺した人物やその家族に報奨金(年金)を支払っているのですから、武力対立が終わるはずがないのです。
セム族の兄弟であるイスラエル(ユダヤ人)とアラブ人の間にいさかいがあった。今、兄弟が仲直りしようというときにセム族でもないアーリア人種のイラン(ペルシャ)が「イスラエルを叩き潰せ」と割り込んできて・・(高山)(p22)
イランはイスラエルを消滅させ世界を解放する
さらにイランの資金源として石油を買っているが中国であり、「ティーポット」と呼ばれる民間製油業者が第三国を経由してイランやロシアの原油を輸入しているという。そのイランは反米であり、イスラエルを地上から消滅させることを国家目標としています。イスラエル消滅後は、イスラムの支配者として世界を解放(支配)するのがイラン政府の目標なのです。
二人が警告するのは、イスラム教の日本人の常識とかけ離れた考え方でしょう。まず、イスラム教は入るのは簡単で、辞めようとすれば死刑です。また、イランで指導者が死刑判決を下せば「悪魔の詩」を翻訳した助教授が暗殺されたように、殺されることになるのです。
イランでは中国のように外国人を拘束し「人質外交」に使っており、手段を択ばない傾向が見られます。イスラム指導者の中には武力で侵略するよりイスラム教の人を増やして合法的に乗っ取ったほうがいいと指導している人もおり、世界中がイスラム教徒で覆いつくされる可能性を二人は警告しているのです。
イランは今も、外国人ジャーナリストや研究者、旅行客まで狙って捕まえています・・「人質外交」ためで、イランには常に、数十人の外国人が人質として拘束されている(飯山)(p179)
トルコはオスマン帝国への回帰を目指す
後半では親日と報道されているトルコも注意が必要だと指摘しています。トルコのエルドアン大統領は、偉大なオスマン帝国への回帰を目指しており、外交政策も拡張主義です。シリアやイラクに軍事進攻しており、北キプロスも占有し続けています。
さらにトルコは、反体制的な自国民を、国境を越えて脅迫や身柄引き渡し請求や、暗殺しているという。また、中国とトルコは「犯罪人引き渡しに関する二国間条約」に調印し、トルコは移住したウイグル人を、中国に引き渡しているのです。
トルコはNATO加盟国であるにもかかわらず、ロシアの地対空ミサイルシステムを購入したり、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシア人を受け入れ、一方ではウクライナに攻撃型ドローンを売るなど、一筋縄ではいかない国なのです。
トルコは制裁でEU諸国を追われたロシアの富豪や資金、ロシア人観光客も受け入れ、一方ではウクライナに攻撃型ドローンを売ってもいる(飯山)(p52)
朝日新聞の偏向報道
タイトルの「騙されない」とは、日本のマスコミに騙されないようにしたいという意味です。マスコミが中国やイランやトルコの良い点を報道していたとしても、事実かどうか確認したほうがいい。現地の駐在員は、その国の悪い点を正直に報道されると報復されるため、その国に都合のよい報道をしがちなのです。
一例として著者の飯山氏は朝日新聞の川上泰徳記者がエジプトのアラブの春で、ムスリム同胞団が武装し、襲撃しているのを知っていながら、「ムスリム同胞団は平和的な抗議を行っている」と報じ続けていたことを指摘しています。また、同じ朝日新聞の川上泰徳記者はイラクPKOで自衛隊の駐屯地の見取図を新聞に掲載し、その後、駐屯地に迫撃砲が撃ち込まれました。この件について防衛庁が朝日新聞に抗議した事例を紹介し、朝日新聞を断罪しています。
飯山氏は、カンボジアをクメール・ルージュが支配したとき、朝日新聞の和田俊記者が「アジア的優しさ」と報道し、その後、170万人の大虐殺が行れたことも紹介しており、よほど朝日新聞の偏向報道が、同業者として許せないようです。高山さん, 飯山さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・イスラエル・・以前は自爆テロでした。それを防ぐために壁を作ったのです・・すると壁を乗り越えられるロケット弾テロが増えた(飯山)(p37)
・「アラブの春」・・実際には「イスラム独裁」という、かたちを変えた独裁の始まり(飯山)(p72)
・立憲民主党でも十数人の国会議員が旧統一教会の信者を選挙運動に使ってきた・・同じことをやっても自民党は許せない、でも立憲民主党は問題ないというのがメディアや野党のスタンスです(p145)
▼引用は、この本からです
高山 正之, 飯山 陽、ビジネス社
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
第1部 中東を見れば世界がわかる
第1章 中東の大地殻変動
第2章 中東から見た新冷戦
第3章 「日本の役割」という幻想からの脱却
第2部 中東混乱の元凶は何か
第4章 イラン・イスラム革命の衝撃
第5章 知らなかったでは済まないイスラム教
著者経歴
高山正之(たかやま まさゆき)・・・1942年生まれ。ジャーナリスト。1965年、東京都立大学卒業後、産経新聞社入社。社会部デスクを経て、テヘラン、ロサンゼルス各支局長。98年より3年間、産経新聞夕刊1面にて時事コラム「異見自在」を担当し、その辛口ぶりが評判となる。2001年から07年まで帝京大学教授
飯山 陽(いいやま あかり)・・・イスラム思想研究者。麗澤大学国際問題研究センター客員教授。東京大学大学院アジア文化研究専攻イスラム学専門分野博士課程単位取得退学。博士(文学)。専門はイスラム思想に立脚した現代情勢分析。対象地域は中東、北アフリカ、東南アジアの他、イスラム教徒が存在する場所の全て。
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