【書評】「セブン&アイ解体へのカウントダウン」田島靖久
2025/07/03公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(72点)
要約と感想レビュー
カナダACTからの買収提案
セブン&アイ・ホールディングスは、2025年の株主総会で、井阪隆一社長、小林強常務の退任を決めました。会長には創業者の次男、伊藤順朗氏、社長に社外取締役だったスティーブン・ヘイズ・デイカス氏が就任しています。
セブン&アイ・ホールディングスは、カナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)から買収提案を受けており、今後セブン&アイ・ホールディングスが買収される可能性もある状況です。
そのためかセブン&アイ・ホールディングスは、2025年3月にイトーヨーカ堂、ヨークベニマル、ロフトなどを統括したヨーク・ホールディングスを米投資ファンドのベイン・キャピタルに売却すると発表しました。
これまでもセブン&アイは、物言う株主からイトーヨーカ堂、ヨークベニマルなどのスーパー事業を切り離すべきであると提案されており、やっとコンビニ事業に集中することに落ち着いたのです。
2024年8月19日、「日本経済新聞」の電子版が「セブン&アイに買収提案カナダコンビニ大手」と題したスクープを配信した(p211)
セブン&アイの権力闘争
この本では、セブン&アイの主導権争いの歴史が説明されています。
イトーヨーカ堂の創業者伊藤雅俊氏にリクルートされた鈴木敏文氏は、セブン・イレブン・ジャパンを立ち上げ、イトーヨーカ堂グループを10兆円企業に成長させました。2005年には鈴木敏文氏が主導して、そごう・西武を2000億円超で買収し、傘下に収めます。
しかし、先行投資や大型改装を長期間かけて回収する百貨店とコンビニは、ビジネスモデルが違います。利益を産まないそごう・西武は、「鈴木案件」と呼ばれるようになっていったという。
そうした中で、2016年に鈴木敏文氏が当時セブン・イレブンの社長だった井阪隆一を解任する人事案を委員会に提出します。それに対し井阪氏は、社外取締役の伊藤邦雄と創業家である伊藤家の力を借りて逆に、鈴木を退任させ、井阪がセブン&アイの社長に就任することになったのです。
2016年・・「井阪の乱」・・・鈴木が提出した人事案は否決されて鈴木はセブン&アイを去り、代わりに井阪がセブン&アイの社長に就任した(p105)
7Payで失敗した小林強氏が売却担当
セブン&アイ社長となった井阪氏は、2021年に米国コンビニのスピードウェイを買収し、米国のガソリンの10分の1も販売することになりました。また、2022年に百貨店「そごう・西武」をアメリカの投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却。
フォートレスへの「そごう・西武」の売却では、7Payで失敗した金融戦略室長の小林強氏が担当しましたが、労組や西武HDとの協議や丁寧な説明がなされず、関係者の不評を買っていたという。小林強氏は2025年まで役員を続けていますので、井阪氏としては合格点だったのでしょうか。
また、ファイナンシャル・アドバイザーのMUMSSは最も大きな金額を提示したフォートレスを勝たせようと、設備状況や店舗情報をギリギリまで提供されなかったという。
こうした状況については、著者は一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏を含むセブン&アイの社外取締役の責任も指摘しています。井阪社長や小林室長が「大丈夫です」と言っていたのを、明らかに順調ではなかったのに容認していたからです。
MUMSSは最も大きな金額を提示したフォートレスを勝たせようとしているのではないかと疑いたくなるような振る舞いをしていた。FAの報酬は落札額に応じたフィーで支払われる(p102)
コンビニ事業に注力
2023年にアップデートされた中期経営計画2021-2025でも、セブン&アイはイトーヨーカ堂の存続を前提としていましたが、やっとタイトル通りコンビニとスーパー事業を分割することになったというわけです。経営者は実績がすべてですので、新社長デイカス氏の実力が数字で検証されることになるのでしょう。
また、セブン&アイはコンビニ事業を中心に世界に打って出るということになるのだと思いますが、また主導権争いが起きるのでしょうか。注目していきましょう。田島さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・2023年・・半年かけて新たな中計を検討・・・バリューアクトが気に入らなかったのも無理はない。あれだけイトーヨーカ堂を切り離せと言ってきたのに、出てきた新中計は真逆で、あくまでイトーヨーカ堂の存続が前提となっていたからだ(p116)
・ヨドバシHDはそごう・西武を買収したフォートレスから、そごう・西武の不動産の持ち分を買収する意向を示しており、正面玄関をはじめとする低層階を中心に「西部池袋本店の半分以上のフロアを求めている」(p34)
▼引用は、この本からです
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田島 靖久(著)、東洋経済新報社
【私の評価】★★★☆☆(72点)
目次
第1章 61年ぶりのスト突入
第2章 史上最悪のディール
第3章 売却延期の〝犯人〟
第4章 大激震のセブン&アイ
第5章 そごう・西武の大いなる「勘違い」
第6章 「百貨店」は生まれ変われるのか
第7章 狙われるセブン&アイ
著者経歴
田島 靖久(たじま やすひさ)・・・週刊東洋経済 副編集長。1970年生まれ。大学卒業後、1993年、NHKに入社。記者として事件取材を担当後、2001年、ダイヤモンド社に入社。経済誌で流通、商社、銀行、不動産業界などを担当する傍ら週刊ダイヤモンドで特集制作に携わる。2020年11月、東洋経済新報社に入社。報道部記者、報道部長を経て、現在、週刊東洋経済副編集長。
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