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「安倍晋三回顧録」安倍晋三, 橋本五郎,尾山宏

2023/03/11公開 更新
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「安倍晋三回顧録」安倍晋三, 橋本五郎,尾山宏


【私の評価】★★★★★(95点)


要約と感想レビュー

安倍政治とは何だったのか

2022年7月、安倍首相が暗殺されました。「安倍政治を許さない」と公言するマスコミが存在する中で、安倍政治とは何だったのか、この本を読んで考えました。


まず、靖国参拝については、日本国のために戦い亡くなった先人を弔うことが国家として当然の姿勢であり、政治家としての信念であったとしています。米国、中国、韓国の歴史認識は、太平洋戦争は日本の侵略戦争であり、日本は永久に謝り続けなければならないというものですから、外交的に摩擦を引き起こすことは想定内であったという。


そしてその後の外交では、軍事的な挑発を繰り返す中国・北朝鮮の脅威に対して、国際的な連携を作ることに尽力しています。こうした政治主導の外交ができるよう国家安全保障局を設置し、谷内元外務次官を初代局長に起用したのです。それまでは、首相の外交顧問が海外を訪問しようとすれば、外交は自分たちの領域だと、外務省が邪魔をすることがあったという。


外務省の暴走の例としては、小泉訪朝において拉致被害者5人の帰国が実現した後、外務省は5人を北朝鮮に戻すと主張していたことです。小泉訪朝は田中均外務省アジア大洋州局長が北朝鮮と交渉していたのですが、交渉記録がなく、どんな交渉が行われていたのかさえ、わからなかったというのです。


なんと、平壌から帰国する政府専用機内では、北朝鮮への援助内容をどうしようかという議論が始まっていたというのですから、その場で安倍氏は、5人の拉致被害者を北朝鮮に戻すことにも、北朝鮮への援助にも反対したのです。もし、安倍氏がいなければ、田中局長のシナリオどおり、拉致被害者は一人も戻らず、日本は北朝鮮に資金提供させられる恐れがあったのです。


・靖国参拝・・一度は通らなければならない道だったんですよ・・あの時、中国は私に、二度と行かないことを約束しろ、と水面下で言ってきたのです(p123)


官僚支配との戦い

内政では金融緩和と増税の先送りで、デフレからの脱却を目指しました。特に、「デフレ状態の時に消費増税を2回も短期間で行うという考え方が間違っている」と断言していますが、財務省の抵抗は強く増税を先送りするだけで精一杯だったようです。こうして読んでいくと、いかに日本が官僚に支配されているのかがわかるのです。


官僚支配の例として「日米間の核の持ち込みに関する密約」を知っている総理もいれば、知らなかった総理もいると説明しています。安倍首相も第一次内閣では知らされていなかったというのです。日本では密約を時の総理大臣に知らせるかどうか、外務官僚が決めることができるのです。


また、内閣法制局には、長官を辞めた歴代長官OBと現在の長官が集まる参与会という会合がり、そこで、法制局の人事や法解釈が決まっていたという。安倍氏は、国滅びて法制局残る、では困ると危機感を持っていたのです。そうした官僚支配の環境の中で、政治主導の政策を実現するために内閣人事局を作り、官僚の人事をコントロールしようとしました。どれくらいの抵抗があったのか、この本には書いてありません。


・官僚の中には「この政治家はあと3年もすれば終わりだ」とか思って、政治家の言うことを聞かない人もいるのです・・・内閣人事局があって初めて政治主導が実現するのです(p139)


国内外の戦い

政治主導ということは官邸主導ということになります。もちろん、官邸スタッフの中には、出身官庁の省益ばかり考える秘書官もいたという。それでも国会がない日は、できるだけ秘書官や、参事官らと昼食を一緒に取り、雑談して、官邸スタッフが一体となって政策を進めることができるように配慮していたという。


ロシア帝国の復活を目指すロシアのプーチン大統領とやりあい、ドイツ製のエンジンを中国海軍に提供しているドイツのメルケル首相と駆け引きし、実体経済を考えず税収の増減を気にしているだけの財務省と安倍首相は戦っていたのです。将来の保守派の女性総理候補と考えていた稲田朋美を政調会長・防衛大臣にしてみると、左翼メディアに足をひっぱられる。この本を読んで、あまりに内閣総理大臣は、配慮すべきことが多すぎると感じました。日本も外交の大統領と内政の首相を分けたほうが良いのではないでしょうか。


最後に「安倍政治を許さない」とは、日本国のために戦った先人を弔うことを許さない!官僚支配を無力化することを許さない!中国、北朝鮮包囲網を作ることを許さない!ということだと思いました。そうした事実を伝えようとしない左翼マスコミと、投票しない国民。既得権維持しか考えない官僚という政治環境の中で、安倍首相はやれることをやり切ったと言えるのでしょう。


そして、これだけの勢力を敵に回して、日本国のために法律と制度を作り、安倍氏は最後に暗殺されることになったのです。安倍さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・(プーチン)彼の理想は、ロシア帝国の復活です・・ウクライナ共和国の独立も、彼にとっては許せない事柄でした(p185)


・選挙での公明党の力は大きい・・・推薦が出る前と比べると、2割くらい上がる。とてつもない力ですよ(p64)


・日本の領土を守るために米軍が攻撃を受けた時、こちらが米軍を助けなければ、その瞬間、日米同盟は終わります。だから安全保障関連法が必要だったのです(p137)


・小学校名は安倍晋三小学校にしたいという話があったので、それはやり過ぎだと断ったのです。昭恵の名誉校長も実は断っているのです。にもかかわらず、籠池氏側は、その後も勝手に、安倍晋三小学校だ、昭恵が名誉校長だと吹聴していた(p252)


▼引用は、この本からです
「安倍晋三回顧録」安倍晋三, 橋本五郎,尾山宏
安倍晋三, 橋本五郎、中央公論新社


【私の評価】★★★★★(95点)


目次

第1章 コロナ蔓延―ダイヤモンド・プリンセスから辞任まで
第2章 総理大臣へ!―第1次内閣発足から退陣、再登板まで
第3章 第2次内閣発足―TPP、アベノミクス、靖国参拝
第4章 官邸一強―集団的自衛権行使容認へ、国家安全保障局、内閣人事局発足
第5章 歴史認識―戦後70年談話と安全保障関連法
第6章 海外首脳たちのこと―オバマ、トランプ、メルケル、習近平、プーチン
第7章 戦後外交の総決算―北方領土交渉、天皇退位
第8章 ゆらぐ一強―トランプ大統領誕生、森友・加計問題、小池新党の脅威
第9章 揺れる外交―米朝首脳会談、中国「一帯一路」構想、北方領土交渉
第10章 新元号「令和」へ―トランプ来日、ハメネイ師との会談、韓国、GSOMIA破棄へ
終章 憲政史上最長の長期政権が実現できた理由



著者経歴

安倍晋三(あべ しんぞう)・・・1954年、東京生まれ。成蹊大学法学部政治学科卒業後、神戸製鋼所勤務、父・安倍晋太郎外相の秘書官を経て、1993年衆議院議員初当選を果たす。2003年自由民主党幹事長、2005年 内閣官房長官(第3次小泉改造内閣)などを歴任。2006年第90代内閣総理大臣に就任し、翌07年9月に持病の潰瘍性大腸炎を理由に退陣。2012年12月に第96代内閣総理大臣に就任し、再登板を果たした。その後の国政選挙で勝利を重ね、党総裁選でも3選を実現して「安倍1強」と呼ばれる安定した長期政権を築いた。20年9月に持病の悪化で首相を退くまでの連続在職2822日と、第1次内閣を含めた通算在職3188日は、いずれも戦前を含めて歴代最長。第2次内閣以降はデフレ脱却を訴えて経済政策「アベノミクス」を推進。14年7月に憲法解釈を変更し、15年9月に限定的な集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法を成立させた。対外関係では、「地球儀 俯瞰外交」や「自由で開かれたインド太平洋」などを掲げ、首脳外交に尽力した。日米同盟強化や日米豪印4か国の枠組みなど、現在の日本の安全保障に欠かせない米欧諸国との連携の礎を築いた。2022年7月8日奈良市で参院選の街頭演説中に銃撃され死去した。享年67。


聞き手 橋本五郎(はしもと ごろう)・・・1946年秋田県生まれ。読売新聞特別編集委員。慶應義塾大学法学部政治学科卒。読売新聞論説委員、政治部長、編集局次長を歴任。2006年より現職。日本テレビ「スッキリ」、読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」「ウェークアップ」などに出演。主な著書に『総理の器量』『総理の覚悟』(以上中公新書ラクレ)『範は歴史にあり』『宿命に生き運命に挑む』『「二回半」読む』(以上藤原書店)など。2014年度日本記者クラブ賞受賞。


聞き手・構成 尾山宏(おやま ひろし)・・・1966年東京都生まれ。読売新聞論説副委員長。早稲田大学法学部卒。1992年読売新聞社入社。政治部次長、論説委員、編集委員を歴任。2022年より現職。2002年8月に安倍晋三官房副長官の担当となって以降、安倍氏の取材に携わってきた。主な共著に『安倍晋三 逆転復活の300日』『安倍官邸VS習近平』(以上新潮社)『安全保障関連法』(信山社)『時代を動かす政治のことば』(東信堂)など。


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