「囚人服のメロスたち 関東大震災と二十四時間の解放」坂本 敏夫
2023/03/10公開 更新

Tweet

【私の評価】★★★☆☆(78点)
要約と感想レビュー
1923年の関東大震災で、横浜刑務所はほぼ全ての建物が倒壊。所長は法律に従い、囚人の全員解放を行ったという。ただし、24時間以内に戻ってくることが条件で、実際に多くの囚人が戻ってきたというのです。本省の許可を得ずに解放したら、処罰されるかもしれない。しかし、すべて倒壊した刑務所の周囲では火災が発生しており、この場に留まっても囚人の安全を確保できる保証はない。
「小人は己を利せんと欲し、君子は民を利せんと欲す」という言葉を引用し、囚人の解放を決断した所長の心の葛藤がよくわかります。だいたいこういう人は、最終的には処罰されるんだよな、と思いながら読んでいると、解放に激怒した司法省行政局の視察調査官が登場します。
・我が国には実にありがたい、このような非常時に一時釈放できるという制度がある(p74)
本省の視察調査官は、本省で解放した囚人が悪事を行っていると言った手前、逃走した囚人がおらず、統制がとれている横浜刑務所の現状は都合が悪いものでした。その視察調査官は、囚人が不安になるようなデマを流したり、所員に所長に不利になる証言をするように脅しはじめるのです。
若いときなら、そんな人が存在するのか?と思ったと思いますが、森友学園問題の佐川理財局長のような人もいるし、どの職場にももそうした人はいる可能性があります。もちろんほとんどの人は善良ですが、関東大震災では朝鮮人がデマによって暴力を受けたように、日本人にも一部は変な人が存在するのは当然のことなのです。
・昨日、囚人たちが暴れましたね。あれは本省から来た梅崎さんが仕掛けたらしいんです。
同じように、食料調達にでかければ親切に捨てる予定のものを分けてくれる人もいれば、「お情けで食料をもらおうっていうのか?」と罵声をあびることもあるのです。いろいろな人が存在しているというのが、これが現実の世の中なのでしょう。ノンフィクションですので、これが現実だと教えてくれるように感じました。
最後には、朝鮮人問題は横浜刑務所の囚人を解放したことが原因というありもしないことで手打ちとなるのですが、今もこうした情報操作は行われているのでしょう。所長が山形県寒河江の出で、仙台二高の出身というのが親近感を持ちました。坂本さん、良い本をありがとうございました。
無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」 3万人が読んでいる定番書評メルマガです。 >>バックナンバー |
|
この本で私が共感した名言
・囚人に鎖と縄は必要ない。刑は応報・報復ではなく教育であるべきだ。その根底に人対人の信頼があればよい(p51)
・朝鮮人探しが行われているらしい・・・朝鮮人問題は横浜刑務所の囚人解放によって起こった惨劇とせねばならぬと考えておる。この国のために、貴殿の運命を余に預からせてもらいたい(p336)
【私の評価】★★★☆☆(78点)
目次
第一章 獄塀倒壊・獄舎炎上
第二章 二十四時間内ニ出頭ス可シ
第三章 世界初の完全開放処遇
第四章 所長の条件 徳孤ならず必ず隣あり
著者紹介
坂本敏夫(さかもと としお)・・・昭和22(1947)年生まれ。法政大学法学部中退。昭和42年、大阪刑務所看守を拝命し、以後、神戸刑務所、大阪刑務所、東京矯正管区、長野刑務所、東京拘置所、甲府刑務所、黒羽刑務所、広島拘置所等に勤務。平成6(1994)年3月まで法務事務官として奉職。映画「13階段」のアドバイザーも務める
この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
この記事が気に入ったらいいね!
コメントする