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「在老所よりあい」の実話「へろへろ」鹿子 裕文

2023/10/16公開 更新
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「在老所よりあい」の実話「へろへろ」鹿子 裕文


【私の評価】★★★★★(90点)


要約と感想レビュー

「在老所よりあい」とは

鉄塔文庫の読書会課題本ということで読了。一人の認知症のお年寄りをなんとかしないとならないという思いから、1991年にお寺の一室で「在老所よりあい」というデイサービスをはじめ、20年後には1億2千万円の土地、1億6千万円の施設を作ってしまったというおじさん、おばさんのノンフィクション物語です。


「在老所よりあい」は、ぼけて、臭くて、徘徊するどうにもならない一人のおばあさんをなんとかしたいという思いからはじまりました。だれもやりたがらないし、だれもやらないから下村恵美子や村瀬孝生というおじさん、おばさんが立ち上がったのです。形としてはデイサービスですが、桜が咲いたと聞けば花見に出かけ、お茶が飲みたくなったら喫茶店に行く。リハビリもしないし。お遊戯もしない。単に、ぼけた老人が集まる場所が、「在老所よりあい」というわけです。


だから、家族から「泊まり」の要望があって、もし介護保険の制約で難しければ、報酬ゼロの「自主事業」で行ってきたという。そうした対応をしているから、「在老所よりあい」は儲からないし、職員は疲れて「ヨレヨレ」になっていくのです。だから著者が作る「在老所よりあい」の雑誌は「ヨレヨレ」なのです。


目の前になんとかしないとどうにもならない人がいるからやるのだ。その必要に迫られたからやるのだ。それは理念ではない。行動のあり方だ。頭で考えるより前にとにかく身体を動かす(p19)

普通のおばさん、おじさんたちの集団

そもそも「在老所よりあい」は、お金儲けではありません。下村恵美子や村瀬孝生を中心とした友人たちが、一緒にわあわあやっているうちに作られた組織なのです。「在老所よりあい」に何か問題があれば、「そりゃなんとかせんといかんっ!」と動き出す普通のおばさん、おじさんたち二十人ほどの集団が支えているのです。


だから、住宅街の中にある「森のような場所」に老人ホームを作ろうと考えたとき、下村恵美子と村瀬孝生は、土地代一億二千万円を三カ月であちこちに寄付金をお願いして集めてしまったという。さらに施設の建築費が1億六千万円必要とわかれば、市の補助金が七千万円、福祉医療機構からの借り入れが三千六百万円、あとの五千四百万円は自分たちで集めようと動き出すのです。リーダーの下村恵美子は笑いながら「みなさん!なにがなんでもこの二年間でかき集めましょう!」と叫び、「ケ・セラ・セラ~なるようになるわ~」と歌い出したという。


あの森のような場所に作る老人ホームは「老人ホームに入らないで済むための老人ホーム」にしようと、自分たちの安心は自分で作る、あの森はそういう場所にしていこうと(p185)

五千四百万円を2年で集める

おじさん、おばさんと「在老所よりあい」の職員は、手作りのジャムやケーキを売り、バザーとチャリティイベントを開催し、物品を売り、寄付を集めました。職員はボーナスが出ると、その一部を「在老所よりあい」にカンパしていたという。福祉施設の給料は安いのは周知の事実で、もう「在老所よりあい」はお金を超越してしまっているのです。


ある時、テレビや新聞を通じて広く知ってもらえば、寄付金が集まるだろうという話が出たとき、下村恵美子は即座に「だめだ!」と否定し、世の中には、もらっていいお金と、もらっちゃいかんお金がある、自分たちで集めたと胸を張って言えないなら、そんなお金にはなんの意味もない。意味のないお金でどんなに立派な建物を建てたって、そんな建物にはなんの価値もない!と言ったという。


下村恵美子というおばさんをそこまで行動させる原動力はどこにあるのかは、著者にも謎でしたが、答えのヒントがこの本の最後にあります。まずは、買って読んでみましょう。下村恵美子というおばさんは、始めた当初は、一年やってダメならやめようと思っておりましたと、スタジオジブリを作った鈴木敏夫のようなことを言っています。めちゃくちゃな話なのに、意図的にやっているところもあり、面白すぎる実話でした。鹿子(かのこ)さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・今度ね、地行の「よりあい」に来るとき-ほら、あなた原付バイクで来るじゃない。そんときにさ、ちんちん出して来てくれんかな?・・庭でこけてもらうとさらにおもしろいっちゃないかって思うんやけどさ(p40)


・本屋に並んでいる雑誌という雑誌を全滅さてやるぐらいの気持ちで作れ!しくじったら腹を切って死ね!腹を切って死んでも平気な顔をしてよみがえれ!そして何事もなかったようにまた雑誌を作れ!」僕はそう教えられて生きてきた雑誌編集者だ(p149)


▼引用は、この本からです
「へろへろ」鹿子 裕文
鹿子 裕文、筑摩書房


【私の評価】★★★★★(90点)


目次

へろへろ発動篇
濁流うずまき突入篇
資金調達きりもみ爆走篇
ひとりぼっちのヨレヨレ篇
ぬかるみ人生浮沈篇
ケ・セラ・セラ生々流転篇



著者経歴

鹿子裕文(かのこ ひろふみ)・・・1965年福岡県生まれ。編集者。ロック雑誌『オンステージ』、『宝島』で編集者として勤務した後、帰郷。タウン情報誌の編集部を経て、1998年からフリーの編集者として活動中。杉作J太郎が率いる「男の墓場プロダクション」のメンバー


鉄塔文庫関係書籍

「八日目の蝉」角田 光代
「絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ: 文豪の名言対決」頭木 弘樹
「囚人服のメロスたち 関東大震災と二十四時間の解放」坂本 敏夫
「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子
「掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集」ルシア・ベルリン
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗
「珠玉」開高健
「滅私」羽田 圭介
「へろへろ」鹿子 裕文


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