不法移民はマジで図々しい!「船上の助産師」小島 毬奈
2025/02/07公開 更新

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【私の評価】★★★★★(92点)
要約と感想レビュー
国境なき医師団に採用される
著者は看護婦として働き始めますが、オーストラリアの高校卒業した彼女には年功序列の日本の病院は生きづらく、海外に出口を求めました。彼女は「国境なき医師団」に履歴書を送り、ポンコツ英語で面接をくぐり抜け、採用されるのです。
2014年から、助産師としてアフリカ、アジア、中東、ウクライナなどで活動。その中で、イタリア近海でリビアからの違法移民の救助船での仕事が、水に合いました。彼女は救助船の仲間と連絡を取り続け、救助船の仕事があれば応募し、クラウドファンディングで救助船の資金も集めました。
なぜ、救助船での活動にそこまで引き込まれるのかと自問すると、海が好き、船が好き、ただそれだけだという。
2009年4月、病院に就職した・・そこには年功序列の女社会が待っていた。ゴミ出しや休憩室でお茶を入れるのは新人、先輩の仕事が終わるまで帰ってはいけない(p17)
不法移民を救助する
リビアから、ヨーロッパへ向けて地中海を渡る違法移民は、2011年のカダフィー政権崩壊から激増したという。地中海を渡る違法移民は、2015年のピークで百万人を超え、2023年には4分の1に減少。そのうち、2万8000人以上が死亡または消息不明とされていますが、すべて把握できていないのか思ったより死亡者数は少ない印象です。
違法移民は500ドル~7000ドルを密航業者に支払い、NGOの船が救助してくれるのを期待して、波が静かな夜にボートに乗って出発するのです。それまで「海の天使」と言われていた救助船は、不法移民が政治問題となり、今では「不法移民を連れてくる悪い奴ら」とメディアから非難されているという。
業者が移民から高額の料金を取るのは、現在の日本の技能実習制度と同じ構図だと思いました。違うのは、日本の技能実習生が違法でないだけなのです。
経済や政治の不安定さから逃れ豊かで安定した国へ行き、その豊かさを享受したいと思うのは当然だと思う。不法移民が正しいとは決して思わないが、不法に他国に入るには必ず社会的な理由がある(p37)
なんでこんな人たちを救助したんだろう
ヨーロッパに向かう違法移民は、命をかけてやってくるので生命力が違います。救助された違法移民たちは、そこらじゅうでタバコは吸うわ、飯がまずいと言うわ、おちょくってくるわ、喧嘩はするわ、救助船上はひどい状況になるという。
支援物資を配布して在庫がなくなると、「足りないなんて、どういうつもりで救助しているの(怒)」とクレームするほど、マジで図々しい!のです。著者は、なんでこんな人たちを救助したんだろうと思うこともあるという。
20人ほどのスタッフで、数百人がトイレや食事など必要最低限の生活をするために昼夜働き、私たちも心身共に疲れている(p39)
メディア報道の裏には意図がある
ある救助船では、妊婦をヘリ搬送すると世間に訴えることができるということで、上司が勝手に血圧が高い妊婦を緊急搬送することにしたという。メディア報道は、自分たちの都合がいいように切り取ったり、裏に何か意図があるのが常ですが、著者は現場でその実態を見てきたのです。
悲劇的で可哀想な人々の画像を撮り、同情した人から寄付を集めるNGOもいるし、手数料目当てに帝王切開ばかりする医者もいるのが実態なのです。著者が現場で気づいたのは、報道されるニュースと現場のギャップなのでした。
日本を飛び出した行動力がすごいし、筆力もすごいと感じました。小島さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・アフリカ諸国の女性たちには売春の強要やレイプが日常的に行われる。船上で出会った妊婦の半分以上は売春やレイプからの妊娠だった(p21)
・実際に、戦争している国に行ったら、そんな「勝ち負けはない」なんてのはただのお花畑的思想で、何かを得るために戦うのだから勝ち負けはあるはずだ(p133)
・私の働くNGOでは病院での衣料品はすべて無料・・でも、これはこれで、スタッフが盗んで市場で転売したり、無駄使いが目立つ(p161)
・中絶・・日本は今でも多くの病院が手術(掻爬(そうは))をしており、WHO(世界保健機構)からは、体の負担が大きいのでやめるようにと20年前から言われている(p169)
【私の評価】★★★★★(92点)
目次
序章 まさか船で働く日が来るなんて
1章 落ちこぼれ看護学生が救助船に乗るまで
2章 てんやわんやの救助船
3章 垣間見える人間模様
4章 救助した女性に会いにパリへ
5章 戦地ウクライナに赴く
6章 産科から垣間見るカメルーン
7章 ベナンの逞しい人々と共に
8章 自分自身の旗を立てよ
著者紹介
小島毬奈(こじま まりな)・・・1984年、東京都生まれ。オーストラリア・メルボルンの高校卒業後帰国。2005年に看護学校へ進学。2008年看護学校卒業後、助産学校へ進学。2009年都内の病院の産婦人科に就職。2013年から紛争地で助産師として医療活動を始める。2016年より地中海捜索救助船にて活動。移民・難民救助船に8年間で11回乗務。
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