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「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子

2023/04/07公開 更新
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「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子


【私の評価】★★★☆☆(79点)


要約と感想レビュー

コルシア・デイ・セルヴィ書店

1960年にミラノ暮らしをはじめた著者は,コルシア・デイ・セルヴィ書店に出入りするようになりました。翌年,セルヴィ書店をとりしきっていたペッピーノと結婚します。1960年頃のコルシア・デイ・セルヴィ書店には、ファシスト政権とドイツ軍に抵抗してきた活動家や学生がたむろしていました。ちょうど日本の60年安保闘争の頃の話なのです。


面白いのはコルシア・デイ・セルヴィ書店での人との出会いでしょう。左派のコルシア・デイ・セルヴィ書店のパトロンとなっている上流の婦人(おばあさん?)たち。山のなかに,若者中心の生活共同体をつくろうと奔走する神父で詩人のカトリック左派活動家。石炭を買えなくなって、寒くて助けてほしいと訪ねてきたアフリカ出身でイタリア語が読めないミケーレ。当時のミラノの階級社会の風景と、移民を受けれることによる活力と混乱を感じさせてくれるのです。


・手にキスを受けることになれている上流の婦人たちは,手のひらを下にして,ふわっとこちらの手にゆだねてくる(p9)


左派の活動拠点

1960年代という時代を感じるのは,書店で働くルチアという女性を「彼女だけが,ブルジョワ階級の出だった」と表現していることです。コルシア・デイ・セルヴィ書店は、対ドイツ・レジスタンス活動から生まれ左派の活動拠点であったので、社会主義や共産主義を目指す人も多かったのでしょう。


その一方で1960年頃、ソ連が武力で東欧に侵攻し、共産主義勢力圏として支配している状況にありました。そうしたソ連の圧政を経験したシポシュ氏は「ソ連の支配下で生きたことのない人間は,自由のとうとさがまったくわかっていない」と社会主義の恐ろしさに警鐘を鳴らしています。ほとんど左派の活動について著者は書いていません。あくまでも、コルシア・デイ・セルヴィ書店に関わる人との関わりだけを描写するのは、左派活動家の立場が悪くなってきた当時の環境もあるのでしょう。


・冗談にも,社会主義がいいなんて,いわないでおくれ(p130)


イタリアの豊かな人間関係

父ほどの高齢の男性と付き合って妊娠してしまったら、その男性が亡くなってしまった事件。編集の仕事が滞っている男友だちから悩みを聞き出してみたら、父親が娘ほどの女性と同棲していると告白されたこと。夜の食事のあと,アイスクリーム屋に行ってしゃべるのが,仲間うちではやっていたということ。


当時のイタリアの豊かな文化と人間関係を感じさせてくれました。なぜか夫であるペッピーノの描写が少ないことが謎でした。須賀さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・ムニエの共同体論は,司祭も信徒もなく,ひとつになって,有機的な共同体としての生き方を追求しようというのであった(p37)


・ミラノの北,ベルガモの山のなかに,若い修道士たちを中心にした,あたらしい共同体をつくる構想の実現にダヴィデがとりかかった(p53)


▼引用は、この本からです
「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子
須賀 敦子、文藝春秋


【私の評価】★★★☆☆(79点)


目次

入口のそばの椅子
銀の夜

夜の会話
大通りの夢芝居
家族
小さい妹
女ともだち
オリーヴ林のなかの家
不運
ふつうの重荷
ダヴィデに―あとがきにかえて



著者経歴

須賀 敦子(すが あつこ)・・・1929年生まれ。1998没。聖心女子大学卒業。24歳で初めてイタリアを訪れ、29歳からの13年をイタリアで過ごす。1961年、ジュゼッペ・リッカと結婚、谷崎潤一郎をはじめとする日本文学の伊訳を多数出版。6年後に夫が急逝。1971年帰国。1972~1984年慶応義塾大学外国語学校で講師を務める。1973年上智大学国際部比較文化学科非常勤講師、同部大学院現代日本文学科兼任講師(後に比較文化学部教授)。56歳でイタリア体験をもとにした文筆活動を開始。


鉄塔文庫関係書籍

「八日目の蝉」角田 光代
「絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ: 文豪の名言対決」頭木 弘樹
「囚人服のメロスたち 関東大震災と二十四時間の解放」坂本 敏夫
「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子
「掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集」ルシア・ベルリン
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗
「珠玉」開高健
「滅私」羽田 圭介
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